20:変化はないようで、ある


「はあ!? なんでよっ!」

「なんでもだよっ! ばーかっ」


 その教室では今日も今日とて男女の罵り合う声が響く。


「またか……」

「だって夕紀っ!」


 いい加減にしろよと夕紀の目が冷えている。でも突っかかってくるのは疾風の方なのだ。茜は悪くない。たぶん。

 ちなみに昨日の出来事はいつも仲介役をしていることを盾に今朝の内に洗いざらい吐かされた。


「……で、あんたたちなんで付き合ってるんだっけ?」

「茜が好きだからに決まってんだろ」


 疾風に完全に背を向けて夕紀に抱き着きに行こうとした茜のお腹に後ろから手が回ってきて、茜を強い力で引き寄せた。女子たちが囃し立てるように黄色い声を上げ、興味津々にその後を見守る。

 氷のごとくかちんと固まった茜と敵意剥き出しの疾風の様子に、夕紀はぱちりと瞬いた。なるほど、きちんと変化はあったらしい。


「ふぅん?」

「ちょ、疾風!? 離してよっ!?」


 面白いものを見たと言わんばかりの夕紀の視線に耐え切れなくなった茜がお腹に回った腕を叩いて抗議するが、そんなものは意に介さず、疾風はなんと茜のこめかみに唇で触れる。


「昨日。覚えとけよっつったろーが」


 今度こそ完全に思考を止めた茜の耳元で、疾風は至極楽しそうに囁く。

 なにか言い返そうにも唇ははくはくと空気を吐き出すだけで、言葉はひとつも出てこなかった。


「そっちのがマシね」

「うるせえよ」


 あっさりと茜を解放した疾風は振り返ることもなくすたすたと教室を出て行く。


「茜、大丈夫?」

「だ、だいじょばない……」


 昨日の言葉通り仕返しをしたということは、那由ももう仕返しを受けただろうか。

 詳しい経緯を訊こうと目をギラつかせる女子たちの視線から目を逸らした茜は、現実逃避気味にそんなことを思った。



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