第57話 止まらぬ梅子

しかし「あんたこそ黙ってなよ。勝手に私たちのグループに入って来たりしちゃってさ、さっきから好きなこと云い過ぎなんだよ」と恵美が吼える。それによって梅子からの叱責への溜飲を下げるかのように。また鳥羽のひと言にカチンと来た様子の親分梅子の顔色をつかんでは「そうよ。今ここで行っちゃってくれてもいいのよ」と加代が追い矢を放つ。しかしようやくにしてショックから回復した風の亜希子が脱線が過ぎる自分の‘子供たち’に「加代、それに恵美、失礼なことを云うんじゃない。私たちで歌合わせをお願いしたのよ」と諌め、同時に鳥羽に「すみません、何度もまあ…(執成すように微笑しては)日頃の私の指導がなってないもので…」と忸怩ともして見せる。「いやいや、なんも。それより東尋はん、あんたが先程云われた観音の意味は、こちらの梅子さんがいま云われた通りのことでよろしいのか?(梅子へ視線をやったあと)あんたへの論証も論破も、なんもなかったような気もするが…」前と違って感情的にならずに鳥羽が僧に話を振った。「うむ、そこですが…」答えようとする僧をさえぎって「待ってよ。あたしはまず観音からねと云ったでしょ」鳥羽とは対照的にイラつきながら梅子が割り込んで来「他人にはひたすらいい子ぶってる表面ヅラはともかく、誰かさんと来たら自分勝手な密教の強者そのもので、ナーガの神への巫女でしかない、また情けない観音様でしかないってことよ。(東尋に向いて)あんたがさっき云った通りのことよ。どこかのいい人の観音様となるに如かずだあね」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る