第55話 「蛇身」→「へみ」→「かみ」→神

などとうそぶくのに「ふん」とばかりそれを一蹴して「それならやっぱり雲水さんとだけお呼びするわ。じゃあ雲水さん、まず観音からね」と、ここで梅子が息を吐く。折りしも遠雷ながらカミナリが直後にとどろいて梅子の長広舌が始まった。

「観音と云うのはもちろん亜希子のことよ。ついでに云えば祠でのストリップもそうだわね」ここでちらっと亜希子の顔を見てから「‘純蜜の趣はなはだ強し’というのと掛け合わせでしょ?彼女はお美人さんで頭もいい、だから当然過ぎた自信家となってしまう。ご本人さえ望むならこの先どんな玉の輿にでも乗れるでしょうよ。エクスタシーの身悶えっていうのも亜希子への云い当て妙で、そこからはそうねえ、どこか蛇の趣きさえ感じるわねえ。だってさ、エクスタシーっていうのは、こう身をくねくねとさせるんでしょ?ちょうど蛇みたいに(ここで先程の僧同様に身悶えの卑猥な格好を演じて見せる)」

こらえかねて亜希子が強く咳払いをしたが、平気な顔をして「もっともここで云う蛇というのはナーガ、古代世界に君臨したという大蛇(おろち)のことだけどその業を感じるわ。昔は蛇が神だったのよ。当時蛇に‘蛇’と‘身’という漢字を当てて‘へみ’と読んでいて、さらにそれを‘かみ’とも読んでいたの。だからいまの神、ゴッドの呼称も本当はそこから来ているわけ。エクスタシーというのは後期密教の無上瑜伽(ヨーガ)タントラに通じている。この無上瑜伽タントラというのは早い話が仏教における情欲の是認ということで、男女混合の性的喜びを何と法悦として置きかえているのよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る