第28話 梅子一派の攻撃開始
「お、おとこ?あの人、男でっか?」とふざけながらも鳥羽は歌を思案し始めた。やがておもむろに「では」と云いざま「吉野来て会いたる娘(こ)らは冬枯れにまだきも咲ける桜花かな」と歌いさらに「もうひとつ、おまけでんがな」と断って「名にし負はばいざ頼まはむ恵美ちゃんに。どうか爺をいじめないでねと」なる戯れ歌をそえてみせた。指名された始めこそ「えっ」と驚いてたたらを踏んだ恵美だったが鳥羽の戯れ歌にたちまち顔を真っ赤にさせ、憤懣やるかたない表情となる。名にし負う‘笑み’どころか弓矢の矢を撃ち込んで来そうな仁王相とさえなった。からかっておきながら「これは…」とばかりようやくこの娘のハンパではない気質に気づく鳥羽だったがしかし臆する気配はなく「どうですか?へたくそでっしゃろ。気ぃ悪うせんと恵美さん、ひとつ返したってください」とつつみ込むように返歌を求める。そばで梅子がすばやく頭を回転させ「恵美」と小声で呼んでは手で口元を覆いその耳元に歌を伝えたようだ。「梅子」とたしなめる亜希子には「方人よ(かたうど:二つに分かれた複数人の歌合わせで当該者に指示加勢する人)」と答えて臆面もない。それを受けて恵美が見てろと云わんばかりに「では返歌します。‘などかさしも花の心は若くして老ひし人とに応えしもせじ’、です」と朗々と云ってのけ、ほくそ笑んでは鳥羽をねめつける。「まあ、もう…」と匡子が嘆息し「ひどいですう」と郁子が哀しげに云う。一同、その場が凍りつくがそれを取り繕おうとして亜希子が何か云おうとするのにそれより早く「いかに‘ご老人’、なおご返歌あるべしや」と梅子がやってしまう。
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