第26話 仏縁どころか魔縁、逆縁?

しかしなおも梅子が「本当に仏縁でしょうかね。もしかしたら魔縁、逆縁やも知れませんよ」と要らぬことを一言云う。どこかしらそう云わざるを得ないような観があった。「梅子」と亜希子がたしなめ「すみません、お話の腰を折ってしまって…どうぞ、続けてください」と話の先を乞う。皆と同様に話に引き込まれているようだった。

「(梅子に)いや、ハハハ、ひょっとしたらそうやも知れまへん。だったらひとつ堪忍してやってください。しかしとにかくお嬢様がたのそばに来てみたら、私には何かこう、どう云ったらええんやろ、なつかしいような…ちょうど長年ほったらかしにしとった家族に会(お)うたような…そんな気がしましたんねん。なぜですやろ?」と亜希子に向いてわざとらしく訊くのに「わかりません」と左手で口を覆い、右手を顔の前でふってその亜希子が苦笑する。無論まじめに訊いたわけではないだろうが敢て亜希子に尋ねたいという風情が鳥羽にはあった。しかしいかにもつかみどころのない話で、元よりそれを自覚している鳥羽は「いや、ハハハ、まったく。無茶苦茶なことを云うてもうて。若い娘(いと)はんらの前で。ほんまにしょうもない爺さんや。すんまへん。私、先ほども云いましたが鳥羽と申します。出版の会社に勤めてましたが今は定年退職して、楽隠居させてもろうてます。ひとつ、御縁いただけるようでしたら、よろしゅうお頼申しあげます」と長口上を終えた…。

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