鳥羽老人と歌合わせ

第24話 悲鳴をあげる鳥羽老人

「いやー、もう堪忍堪忍。これ以上食べたら死んでしまいますがな」すっかりくちくなった風情で鳥羽が云うのに「そう云わずにフライドチキンもおひとつどうぞ」と好意からか悪意からか恵美がなおも勧める。「やめて。もうやめて」と女言葉でそれに悲鳴をあげてみせる。さんざん逆らったが今度も亜希子に強引に押し切られて、あずま屋へと移動していた梅子が憮然とした表情でそれを見詰めている。「いやあ、まったく。けっこうなサンドイッチやらお重箱の料理やら、御馳走になってもうて、ほんまにもうすっかり堪能しましたさかい、これ以上は勧めんどいてください。‘老い身には、いかにかなお食すべき’、ですわ。ハハハ」。それとなく古語など使って和歌の素養をかいま見せる鳥羽。持参した携帯ポットのお茶で食べ物を飲み下してひと息ついたあと、老人らしからぬ、ましてその知的で策士然とした風貌からも、ふだんは決してすまいと思われる突拍子もない話をいきなり開陳し始めた。しかしそれを聞くうちに一同はもちろんのこと梅子でさえも耳をそばだたせ始めるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る