第9話 まさかあ、藤原九条とか、三条の方…?

何とも不思議そうな表情を浮かべて何かを感じているようすだったがしかしすぐに我に返って「い、いや、失礼。お顔同様すばらしいお名前で一瞬自失してしまいました。ははは。まさかあ、藤原九条とか、三条とかのお方じゃありまへんでしょうな…」と聞く途中でまたクラクションが鳴らされる。ふり返って「やかましい!」と怒鳴ったあと鳥羽は「いや、まったく関西人はせせこましくて礼儀も知らずに…ははは。すんまへん、大声出してもうて」と謝ってみせる。

「とにかく居られても居られへんでも必ず2時間もせんうちにお伺いしますさかい、ひとつ、よろしゅう…では」と付け足してようやく車の方へと歩きかけたが、何かを思い出したかのようにまたこちらを向いて「あ、そうそう、さっきどなたか桜咲いてへんとか云われてましたけど、もうすでに満開ですよ、桜」と云う。それに郁子が「えー?どこがですか?かかる冬枯れぞ、なんですけど」と訊くと鳥羽は面白い子だとばかり軽く笑って見せ「いや、私には、ですよ。いまが満開の娘さんたちに囲まれて、まぶしい限りですがな」と皆を持ち上げてみせる。さきほど同様匡子らが「いやだ」「お上手」などと黄色い声を上げる。あとあとを考えて、またつい怒鳴ってしまった自分の恐いイメージを払拭しようとしてそうしたのだろう。鳥羽老人はようやく車の人となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る