第6話 亜希子の美貌
ややあって「あの、西行庵まで行かれるんですか?」と亜希子に声をかけられると待ってましたとばかり向きなおって「へえ。ちょっとお参りに。あいにくの天気ですけど、なんかこう、急にお参りしたくなりましてな。虫の知らせっちゅうか、ありましたんですけど、いま判りました。こないな別嬪のお嬢様方がようけ来られてるんやったら、虫の知らせとなったわけや」と答えれば「いやだ」「おじょうず」などと面々が黄色い声をあげる。首尾よく受けたせいか顔を赤らめながら老人が「いや、ほんまですよ。ところでいま何となく伺とったら耳に入ったんですけど、お嬢様方もやはり西行庵に行かれるんですか?」と亜希子に聞くのだがそのたずねる表情がいかにもまぶしげだ。ひょっとして年甲斐もなく赤面したのはこちらのせいかも知れない。すなわち亜希子。他の8人の娘らもそれなりに各々見られもするのだが、この亜希子はまったく別格だった。月並みに云えばハッと目覚めるような美しさとでも云うのだろうが、その若いのにもかかわらず面貌にどこか古風な面影があった。古代の日本の、例えば平安時代の姫君を感じさせるような、何とも云えぬ気品があったのである。また別の見方、云い方をすればこうも云えただろうか。彼女の面相には過去世と現世をつらぬくような生き通しの意志がそこに現れている…とでも。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます