第16話 ママには内緒

落ち着いた日が続いていたある日、電話が鳴った。


「…どした?」

「ねぇ、近々飲みに行かない?」

「いいよ。俺、そっち行くか?」

「いいよ。僕も旅行がてら行きたいし。」

「心配だな…。ちゃんと来れるか?迎えに行くか?」

「どこまで来てくれる?駅までとか?空港?」

「家まで。」

「ばかじゃないの?意味ないじゃん。」

「一緒に旅行しようよ。」

「僕はいいけど。」

「俺もいいよ?」


「優しいのか下心なのかわかんないな。」

「下心。」

「やっぱりそうだよね。」

「嫌か?」

「嫌じゃないけど。」

「可愛かったな…。あん時。」

「やめて。恥ずかしい。」

「予定的にいつ頃な感じ?」

「週末一泊で行くかな。」

「わかった。待ってる。気をつけてこいよ。」

「うん。ありがと。」




――――――――――――週末。


「稜太ー。駅ついたよ。迎えに来て。」

「もう着いてるよ。東口。」

「はや!ありがとう。」


――――――――――――自宅。


「真里亜」

「うん?」

「俺、出てくるからさ、暫く翔といてあげて。」

「あたしはいいけど、変なことしないでよ。」

「大丈夫。……。」


陰で真里亜にキスした。


『俺の真里亜。俺だけの真里亜。』

「大丈夫。どこにも行かないから。」

「っ……。」


真里亜は僕の首に手を回して首の後ろに爪を立てた。

「あんたは私のモノ。」

「……。」

「大丈夫。」



――――――――――――数時間後、帰宅した。


「翔、うちで寝てけ。ホテルとか金かかるし。」

「うん。ママにもそう言われてたからそうさせてもらおうかなと思って。」

「ベッドで真里亜と寝ていいよ。」

「いいの?」

「うん。」

「稜太寂しくない?」

「じゃあ川の字で寝る?真里亜真ん中で。」


「やめて。狭すぎる。」


真里亜のストップが入った。


「俺らは真里亜が大好きだから。どうしょうもねーだろ。」

「本当にね。困る。」



―――――――――2人が眠りに着いてから僕はまた家を出た。向かった先は近くの公園。


夜中1時。持ってたスマホが鳴った。


「あーもう。今どこ?」

「寝とけよ。」

「どこ?」

「近くの公園。」

「寒いでしょ?」

「寒い。」

「僕迎えに行くから。帰ろ?」

「やだ。」

「あーもう。相変わらずめんどくさい。」

「……自分で帰る。」

「ちゃんと帰ってくる?」

「お前は嫁か。…なんだよ。ちょっと可愛くなったからって。」

「『彼氏できた』ってあれ嘘だから。」

「え?」

「出来てない。作んないし。言ったじゃん。稜太以外興味無いって。稜太に頭おかしくされただけ。して。」

「だって言ってたじゃん。俺以外なら有り得るって。」

「……バカ。」

揃って可愛すぎんだよ。」

「うるさい。」

「そういえば、お前最近耳どう?」

「ほぼ聞こえなくなった。かすかに聞こえてたんだけどね。もうダメっぽい。その話ママにも聞かれて答えたら謝られた。」

「まぁな、遺伝する可能性もあるっていうからね。」

「稜太はないの?聞こえづらいとか。」

「ないよ。全く。だから当たり前に聞こえる側の気持ちと聞こえない人がいる家族の気持ちがよくわかる。でも、來夢がきっかけだけどな。手話を覚えようって思ったのは。真里亜は要らなかったからさ。」

「そうだね。ママは、自力で生きてる人だからね。人に求めないから。」

「もうちょっと甘えりゃいいのにな。」

「性格だからね。どうにもならないよ。」

「でもあの強さに俺らは守られたんだよ。」

「そうだね。…。」


―――――――――――『バカ兄貴。迎えに来たよ。』

「……お前ほんとに来たの?」


椅子に横になる僕を横から翔が覗き込んで声をかけてきた。


「だって帰ってこないと思ったから。」

「夜道危ねーだろ。」

「片耳は生きてるよ?」

「そうじゃなくて!」

「僕が可愛いから襲われちゃうって?」

「そう!」


「うるさいのはこの口?」


翔は僕に唇を重ねた。



「ママには内緒。」

「…女子高生か。」

「女の子になりたいとは思わないよ。付いてていいもん。胸も要らない。月一回お腹痛くなるのも嫌だし。」


「可愛い男の子だな。」

「そう。」


「なんかさ、真里亜に似てきたな。」

「親子だからね。」

「……。」

「したい?僕と。」

「うるせ。黙れ。その口閉じるぞ。」

「……。」


「いくらでも僕が閉じてあげる。」

「本当に真里亜だな。」

「……ねぇ。いつかさ、ママみたいに愛してくれる?」

「え…?」

「やっぱり男はダメ?」

「お前ならいいよ。翔なら。」

「……でも横で泣きながら『真里亜ー』って夜中泣かれそう。」

「それある。」


「……本当にママが好きなんだね。」

「あんまり言われると揺らぐからやめろ。」

「…ほら見て。」

「ピアス付けたのか。可愛いな。似合ってる。」

「ありがとう。やっぱり。褒めてくれると思ってた。」


月夜に照らされた少し大きめのピアスがとても妖艶だった。


「……。」

「我慢出来なかった?」

「うるせ。あいつに言うなよ。」

「…稜太」

「ん?」

「いつか僕と一緒に暮らそ?好きな物なんでも食べさせてあげるから。」

「新妻か。」

「可愛い?」

「可愛い。」


「可愛いのにSだから。好きでしょ?」

「もっとしていいよ。」

「おあずけ。」

「……たまんない。」

「いつかね。」



―――――――――翌日午後、翔は帰った。

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