第2話 side01 零陵一という男

 帰宅するために歩みを進めていた中、不良グループの一角に声をかけられた。

 目的は当然、俺を殴るか金を巻き上げるかだろう。それができれば、それだけ強いという誇示にもなるらしいからな。


 ちなみにではあるが、この学校にいるというグループの頭の顔も名前も知らない。グループのやつらの一人に拷問でも何でもやればわかるだろうが、そこまで必要な情報でもないので、それをやることはない。

 だが、このままでは面倒ごとが高校生活の中でついてくることになる。頭を先につぶしたほうが楽か?


 色々と思案したまま自分を呼んだ者についていくと、場所はテンプレの通りの校舎裏だった。

 場所が場所ということもあって、先生も来ない場所だ。こういうやつらがたむろする場所になりやすいのだろう。


 「おう、よくき―――ぶっ!?」


 俺は先制で仕掛けた。おそらく、今回俺を呼び出した奴のリーダー格であろう奴が話し始めた瞬間に、そいつの頬を拳でとらえた。

 相手は勢いのまま回転しながら地面にたたきつけられる。


 相手は10人程度―――喧嘩というよりも、リンチだ。もし、これで俺が負けたとして、奴らにとっての勝ちになるのだろうか?馬鹿の考えることはよくわからん。


 ―――だから、会話する理由もない。そうでなくとも、殴り合いをするというのに口上が必要なのもわからない。


 「滝山さん!?―――お前!」

 「お喋りが好きならさっさと帰れ。お前たちは俺を殴りに―――喧嘩を売りに来たんだろう?」

 「お前ら!」


 集まっていたメンバーのうちの一人が掛け声をかけると、一気に俺に向かってくる。

 だが、俺はただ一言を発するためだけにギリギリまで動かなかった。


 「喧嘩をするなら、対話の必要はないな?」


 グチャ


 そのあとのことを考えるなら、こんなグロテスクな音は出してはならなかった。だが、今の俺にはクズの処分―――それ以外に考えていることなどほとんどなかった。


 ―――3分後


 あれだけ威勢よく殴りかかってきて、あれだけ生き生きしていた奴らは、もれなく全員血まみれで倒れている。無論、俺がやった。


 「おいおい、こんなんじゃ今どきのインスタント麺も茹で上がんねえぞ。まあ、食ったことねえけどな?」


 喧嘩を仕掛けてくる割には、大した手ごたえもなく倒れていった。まあ、仮にも相手は素人の集まり、元々俺の目的の相手ではない。殺しはしない。ただ、喧嘩を売ってきた以上は、二度とその気が起きないようにボコボコにするだけだ。


 残り数時間もすればこいつらは自力で起き上がるだろうし、一晩経てばこの騒ぎも単なる話題の一つ程度に成り下がる。そうだな、今からここに来る奴らが騒がなければいいだけなのだが……


 そう考えていると、感知したとおり、数名の生徒がやってくる。


 「なにをしているんだ!―――って、本当になんだこれは!?」


 やってきた生徒のうちの一人―――この学校の生徒会長がこの死屍累々とした現場を見て度肝を抜かれていた。

 骨こそは折れていないものの、顔が血でぐちゃぐちゃになった者ばかりの空間に、一人だけ立っている俺がいる。


 普通の生活を送っていればまず遭遇することのない光景だ。

 俺はとっくの昔に見慣れたが、やはり普通の生活を享受している者たちにはわからないことだろう。


 「お前、か?この惨状の原因は。一応、ここの生徒か?」

 「ずいぶんと都合よく来るんだな?まるで俺が、ここでこいつらを半殺しにするのをわかっているみたいなタイミングだ」

 「質問しているのは私だぞ!これはなんだ!なぜこんなことを……!」

 「喧嘩を売られた。それだけだ」

 「それだけ……?それだけの理由でここまで血まみれにする意味は……」

 「ゴミはどこまで行ってもゴミだ。ならどこまで壊しても、俺の勝手だ」

 「会長、やめましょう。こんな奴の相手をするのは、時間の無駄です」


 俺と生徒会長の階を聞いていた他の生徒―――副会長と思われる男が会話を制止して終わらせようとした。

 しかし、それでは気が収まらない会長が言葉をつづけた。


 「いいか?人を殴ってはいけない。これは当たり前のことなんだ」

 「相手が手を出してきてるのになに言ってんだ?」

 「っ……だが、お前が手を出さなければ無駄な争いを―――」

 「圧倒的な力でねじ伏せる。心をへし折ったほうが、争いはなくなると思うが?」


 俺はそれを正しいことだと思っている。人の醜いところも全部知ってる。

 どうすればそいつが争いをしなくなるか―――それもわかっている。争う能力がなければ―――牙がなければ人が人を襲うことも、争うこともない。


 「自分が正しいと、なぜわかる?世の中は、お前みたいなやつだけじゃねえんだよ。これ以上俺に、間違ってるだの抗弁を垂れるのなら失せろ。お前との会話に意味はない」


 そう言うと、俺はやってきた4人の間を抜けながら立ち去っていく。


 俺が立ち去ってからすぐに後ろのほうから「大丈夫か!?」と介助する声が聞こえてくる。そもそもあそこにうちの学校の生徒は2人しかいなかったのに。なにがしたいんだろうか。


 うちの学校の保健室は部活など他校を招いた場合を除いて、在校生以外に保健室の使用は認められていない。救急車でも呼ぶつもりなのだろうか?

 そんな意味のないことをする理由もわからない。だから、今の一瞬で俺は理解した。


 生徒会長が苦手だ。


 まあ、それならこれ以降関わらなければいいだけのこと。相手はそれなりに立場のある人物―――あっちからも来るはずがない。一応、形式的な先生からの始動という形で呼び出されるだろうが、彼女が俺に立ち会うことはないはず。


 ―――そう。そのはずなんだ……


 だから、俺の理解は追いつかない。他よりも優れているはずの俺の脳が理解を拒んでいる。そのくらい、翌日の呼び出しの場で驚くことが起きてしまった。


 「よく来たな、零陵一―――さあ、説教の時間だ」


 指導室に来た俺を迎えたのは、担任でもなく、学年主任でもない。はたまた教頭ということもない。


 「なんであんたがここにいるんだ―――説教は先生の役目だろ?」

 「まずは先輩に対する口のきき方から直そうか。目上の相手には敬語を使う。いいか?」


 なぜかそこには、昨日会うことはないと記憶から消そうとした生徒会長そのものだったのだから。



【今日のお話】

混乱する前に先に言っておきます。

サブタイにside〇〇とあるとき、表記が違うなら視点が違います。基本的には日ごとに代わるのでご了承ください。


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