あしたのために(その27)彼女の友達が辛すぎてしんどい
高橋ハルキは人生の岐路に立たされていた。日曜日のことである。
「え、どちらさま」
その日は、中学時代の同級生と会う約束だった。
待ち合わせ場所の喫茶店に入ると、中学の同級生だったマサコの隣に、女の子が座っていた。
高橋は被っていたキャップを脱いだ。しばらく床屋に行っていないので、中途半端に伸びた坊主頭が恥ずかしかった。
「このコ、同じクラスのメイちゃん」
マサコが紹介した。
その女の子は、軽く会釈をすると、値踏みするみたいに高橋を眺めた。それから小一時間、彼女は恋愛に対する持論を展開した。
「……ちょい待ち」
教室でその話を聞いていた連中は、ある一点にひっかかった。
「なに、いつのまに、ターちゃん、中学の同級生と、付き合ってるの?」
代表して訊ねたのは岡田である。全員が返答に注目した。高橋は、
「いや〜、まあ、なんていうか、同窓会で再会して、ちょっと」
などと照れていた。
「なぜ教えない!」
もちろん彼らは祝福などしない。抜け駆けしやがった、とさもしい根性を丸出しにして高橋に詰め寄った。
「キレるとこ。そこ?」
高橋はただ悩みを打ち明けただけだというのに、周りの態度が豹変して戸惑っていた。
「そういえば、お前急にリュックにマスコット付けだしたよな」
「まさか、ペアか?」
話が別の方向に向かっていった。
「待て、マスコット問題はあとにしよう。話を続けろ」
以下、メイちゃんかく語りき(要約)。
「うちの高校でアンケートがあったの。男性経験あり五十二パーセント。これって多いと思う? 少ないと思う? でも、数字に惑わされちゃいけないと思うの。興味があったとしても、そもそも未成年のわたしたちが早いとか遅いとかでコンプレックスを持つなんて、無意味よ。
そうね、大学受験を終えたらキスしてもいいんじゃない? やたら身体をつながろうとするのは不潔だと思う。いくら避妊に気をつけても妊娠のリスクはあるわ。もしなにかあったとき、傷つくのは自分だけじゃなくて、家族やまわりのみんな全員よ。責任とれると思う?
そうそう、おちんちん何センチ?
まさか包茎じゃないわよね? だったら手術しておいて。
結婚を考えたら将来的にもランクB以上の大学が望ましいわ。Aランクは……高橋くんの高校だったら現役だと難しいんじゃない? そう考えたら、こんなところでコーヒーを飲んでいる暇ないよね。交際なんかより勉強したほうがいいんじゃないの?」
高橋の話が終わっても、教室はしばらく静まり返ったままだった。彼らはどの授業より集中していた。
「……なんだその女」
誰かが口火を切った途端、全員一斉に騒ぎだした。
「ランクって。彼女でもそんなこと言われたら腹立つのに、友達!?」
「しかもサイズ教えろとか。包茎かとか、ていうか、高橋手術すんの?」
「仮性でもしたほうがいいかなあ」
高橋がうなだれた。
「……清潔にしときゃいいだろ」
誰かが言った。どうやら気にしているらしく、少々弱気な口調である。
「ってそんな話じゃない!」
正気に戻った者が止めた。
「何様だ、そいつ。顔が見てみたいわ!」
「三人で帰りに撮ったプリクラがあるけど」
高橋はパスケースを取りだし、加工なしバージョン、と小さい写真を見せた。
全員が再び沈黙した。ごくり、と生唾を飲みこむ音があちこちから聞こえた。
「二人とも美人じゃねえか……」
高橋といい感じになっているほうはおっとりした感じ。その毒舌の友達は、言動同様きつい面持ちをしているが、綺麗系だ。
「来週はダブルデートをすることになったんだけど」
高橋が照れくさそうに頭を掻いた。
「おい待て、同伴は」
「ツーさんが断るからまだ決まっていないんだよなあ」
高橋が頭を抱えた。
そこにいた全員が手を上げた。
「俺が行く!」
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