投擲スキルMAXの錬金術師は全てを放り投げてでも白米が食べたい 〜なのに女の子になってしまい「ふっ、面白え女」みたいな面倒臭い奴らに絡まれているんだが?〜
第2話 転生者は『故郷』と『武闘派の友人の劣等感』と『性別』をぶん投げた
第2話 転生者は『故郷』と『武闘派の友人の劣等感』と『性別』をぶん投げた
──ハク、お前は本当に何の取り柄もなく、何の役にも立たぬな。
婚約破棄が決まった夜に今世のクソ親父から贈られた別れの言葉が脳に嫌にこびりついている。
ゲター家を追放され、三流貴族の証であるハイエストの称号を奪われ、俺はただのハクになった。
ボロボロの馬車で山を越え、徒歩で谷を越え、ようやく辿り着いた辺境の村。最果てのヒャッハード村。
第一村人は素敵な刺青の兄貴分。
「我どこの組のもんじゃい」
この村の方言で、『あなたどこから来たの?』という意味らしい。素敵なご歓迎を受けられそうだ。
「なんとか言ってみ我ぇ!」
「…………」
来るなら来いよ。チート能力が発現して勝てるかもしれねえし。
目を閉じ、歯を食いしばった。その時。
「……やめろ」
背後から現れた第二村人がチンピラの拳を掴み、その理不尽な暴力を止めた。
「ぐっ……! ちぃっ、覚えてろ!」
ぎりぎりと込められていく第二村人の握力に耐えかねてか、第一村人が尻尾を巻いて逃げ出した。
「ども」
よく見れば歳の近そうな青少年だ。背が高く筋肉もあるからパッと見それらしくない。かっけぇなと第二村人の顔を眺めていると、じとりと睨み返された。
「その首飾りはなんだ」
金になりそうだと実家からくすねてきた魔道具を指さされる。
「魔法詳しい人?」
「…………装飾が綺麗だと」
目を逸らされる。
意外と詳しくない人だった。
「そんなものを持っているということは、魔法使い……それも貴族の子か」
頭からつま先までじろりと観察される。この第二村人、悪い人間では無さそうだがいかんせん表情が固く威圧感がある。
「なら、あまりこの村には長居しない方がいい。ここではろくに魔法の勉強も出来ないだろう」
「そう言われても、帰る場所がないんだ」
「どういうことだ?」
かくかくしかじか。
「理不尽な」
事情を説明すると、第二村人は俺の境遇に俺以上に憤ってくれた。魔法には詳しくなかったが、第二村人のマルス・ナイトは気のいい人間だった。
「今からでも入れる保険知らね?」
「ない」
バッサリと。マルスはマジレスをする奴だった。
「……だが、今からでも入れる学校ならある」
「ほ?」
マルスによると、隣国の全寮制魔法学校、ヤバーツョ学園は出身や身分や諸々に関係なく、ドラゴン討伐試験のみで合格を決めるという。
「蛮族かよ」
「そう言うな。選抜方法は野蛮だが、数多くの大魔道士を輩出している名門校だ。選抜方法は野蛮だが」
マルス自身も没落した魔法騎士の一族の末裔であり、ヤバーツョ学園中等部に通う学生で、連休でヒャッハード村に里帰り中だったらしい。その情報によりますます想像の中のヤバーツョ学園の蛮族度が上がる。
「そこ本当に魔法学校?」
「安心してくれ。単に俺が魔法学が苦手なだけだ」
見かけは文武両道に見えるが、マルスはわりと馬鹿らしい。
入学試験までの間は、マルスの実家に居座らせてもらった。その間、俺はマルスにドラゴンとの戦い方──もとい喧嘩の仕方を教わった。
「やんのか我ぇ!?」
「やってやるよ第一村人ぉ!」
「ハク、相手の力を上手く受け流して、そこだ、投げ技でいけ」
次第に勝率も上がった。修行の日々も悪くはなかった。
「ちぃっ! 覚えとけよぉ!」
「最悪の場合、自衛のためなら石を投げても良い」
「野蛮だよお前やっぱり」
マルスの助言はとても実戦に役立つ。
「マルス、水魔法で相手の動き止めるのはどう思う? 放つ水【ル・ミケカ・オ・ズ】とか弾ける泡【ムワボ・ア】とか」
魔法について尋ねるとマルスは決まって目を逸らした。見るに見かねた。
「魔法を教えてくれてありがとう、ハク」
「普通逆なんだけどな」
初等部向けの教科書の内容を教えてやった。
「ハクは面白い奴だな」
「お前も相当に面白いけどな????」
普通に仲良くなった。
そうして迎えた試験当日。試験会場は闘技場だった。
「ふむ、始め!」
校長っぽいじじいが叫ぶと、ドラゴンが闘技場に放たれた。
「グオオォ!」
咆哮に身震いするが、そう簡単に負けるわけにはいかない。ヒャッハード村で鍛えた喧嘩パワーを見せつけてやるぜ。
吐き出された炎を避け、まずはドラゴンの動きを止める。
【ムワボ・ア】
簡易な泡魔法だからこそ、丁寧に魔力を込めれば大きな泡を操ることが出来る。
「ガアッ」
泡の中にドラゴンの頭部を捕らえる。
【ドルカラ・チ・ビップア】
身体強化の呪文で自身の物理攻撃力を上げる。ドラゴンの尻尾を掴み、ドラゴンの体勢を崩す。
「グ、アァ!」
泡魔法の効果が切れ、再度火を吹こうとするドラゴン。今だ。
【ル・ミケカ・オ・ズ】
ドラゴンの顔面に水魔法を放つ。細く、細く、圧力をかけて。転生者である俺はウォーターカッターがダイヤモンドをも切ることが出来ることを知っているので、イメージしやすい。
「グア……」
鱗が数枚剥がれ、ドラゴンが倒れ込んだ。
決まったぜ。
「見たか、マルス!」
我ながら、良い出来じゃないだろうか。
観客席に来てくれたマルスに手を振る。
「ハク!」
基礎を直向きに極める。きっとこれが俺のチート能力。チートだって、その才能を開花させるには努力が必要だったと、そういうことなのだろ──
「まだ終わっていない!」
「は」
振り向くと、ドラゴンは起き上がり、大きく息を吸い込んでいた。
あ、やばい。
【ル・ミケカ……】
間に合わない。
炎がかかる、その時。
実家から持ち出し身につけていたペンダントが青く光った。
【テルマ・モタ】
小さな結界が張られ、間一髪で炎が弾かれた。
「な、なんだこれ!?」
「おお、それは、錬金術師の……」
胡散臭い校長らしき人が何かを言っている。
いや、聞いている場合じゃない。
【ムワボ・ア】
再びドラゴンを足止めして、構える。
石を投げつける。
見ろ、修行の成果を。
「ゴァ……」
ちょうど目に当てることが出来た。ドラゴンが倒れ、今度こそは動かなくなった。
合格した。今日からマルスと同じヤバーツョ学園の生徒である。
「良かったな」
「良かった良かった」
などとのんびりしていると、また事件が起こった。
「ハク、なんでここに」
そこに、アミルが居た。
「あーー!! 魔法発表会で披露するはずの魔法が!!」
そして、中等部入学式へと向かう中、一般通過学生の暴発した魔法が俺に降りかかった。
「ゲホッ、なんだ、これ……」
「…………ハクが女の子になってる」
展開が早い。
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