第23話 権蔵SIDE 北条家との話し合い

本当は4家で話すつもりだったのだが、東条家が、その席から外れてしまった。


もう正一と芽瑠さんが結ばれる未来はない。


古馬本家としては婚約の決まった相手を傷物にしたが、慰謝料の支払いだけで済んだ。


古馬本家としてはこれは良い着地点だ。


だが、正一の親としては困った事になった。


正一を『古馬本家の後継者から外せ』その声が周りから聞こえてくる。


本当に駄目な奴なのは解っている。


だが、正一は儂のたった1人の子だ。


馬鹿な子ほど可愛いとは良くいったものだ。


問題はこれからどうすれば良いかだ。


あのまま芽瑠さんと婚姻という事になれば、周りを納得させる事がまだ出来た。


『今泉の婚約者だが、正一が好きになってしまった。その結果姦淫に及んでしまった。始まりこそ悪かったが二人は愛し合っているから、どうにか見守って欲しい』


そういう筋書きを作り、他の古馬家の者や村の重鎮に頭を下げれば落ち着くはずだった。


他の相手は……まぁ男のかい性とか言えば良い。


今泉には充分な慰謝料と儂の嫁を償いとして渡しているから、現実は兎も角、対外的に問題ない。


だが、念には念を入れ再度謝罪した。


これで、終どうにか納めるつもりだった……


まさか、芽瑠さんに正一が振られるなんて予想外だ。


次はどうすれば良いのか全く、検討がつかない。


◆◆◆


「正一抜きにして話がしたい!」


「はい、北条家からその様な申し出のお電話がございました」


今回は、うちが迷惑を掛けた立場だ。


集まらずに話し合うなら此方が出向くべきだ。


「解った、そちらに出向くと伝えてくれ。 それで日時はいつが良いか聞いてくれ」


「はい……旦那様、良ければこれから此方に来たいそうですが……」


本来なら此方が出向く用件なのに、先方から来てくれるのなら、断れぬな。


「お待ちしていると伝えてくれ」


「畏まりました」


北条家は一体どう出てくるのか……


悪い方に転がらないと良いのだが。



◆◆◆


北条家の当主 修斗とその娘の恵子が来たので伊佐治に頼んで客間へ通して貰った。


「権蔵さん、こうして会合以外で会うのは久しぶりですね」


「この度はうちの息子が……」


「良い、良いその話よりまずは一杯やろうじゃないじゃか? 上等なワインを持ってきたんだ! グラスと何か良い摘まみがあったら出してくれ」


「解った、すぐに用意させよう」


何故笑顔でいられるのか、解らん。


罵倒の一つでも飛んでくる。


そう思っていたのに、肩透かしじゃないか。


なんだか知らんがまずはつき合うか。


「酒を飲むのも楽しいが、いい加減本題に入らせてくれぬか?」


「ああっ、それなら気にしなくて良い! 大体処女だ、なんだと古臭いんだよ。時代はどんどん変わって行っているんだ。なぁ恵子」


「はい、お父様。 権蔵おじ様、私相当口が悪いですが、お話しても良いですか?」


「べ別に構わんが」


恨み事でも言われるのか、この際甘んじて受けるか……


「あれは、只の遊びアバンチュールですわ。ですから気になさる必要はありません」


「そう言う訳にいかんだろう。よそ様の子を傷物にしたんだからな」


「権蔵おじ様、その考えは古いですわ。今や世界は男女平等に動きだしています。 別に手籠めにされた訳でなく同意して3回ほど関係を持っただけです。 色の古馬と言われる女好きがどれ位の好き者か知りたかっただけです。 それに傷物とか気にする必要はありません。私、正一さんと関係を持つ前から傷物ですから」


「どう言う事じゃ」


「うちの娘は経験を積ませる為にアメリカに留学させていたのだ。まぁ旦那にする男が政治家にならないなら最悪私の地盤を継いで貰わないと困るからな。それゆえ自由奔放なんだ」


「それはまた……」


「北条家に生まれた私は政治家の妻になるか自分が政治家にならなくてはならない運命にあります。 どちらにしても身ぎれいに将来しなくちゃいけませんのよ。その前の自由な時間の遊びですから、気になさる必要は無いですわよ。 正一さんが私を抱いたのではなく私が正一さんを抱いたような物です」


「凄い考えだな」


「そうですか? 私は流石に手を出しませんでしたが私が留学した先では大麻すら合法でしたわ。 性に関してもこんなに閉鎖的ではありませんでしたわ。 将来的に政治家の妻になるか自分が立候補した時は『男女平等』を掲げるつもりですわ。男女平等とは一方的に女性が有利になるのではなく『平等』にする事です。だから、今回の件はお互いに納得の上での遊び、芽瑠さんが絡まなければ表に出さなくて良い事ですわね」


「と、言う訳だから権蔵さんも気にする必要は無い。 もし気になるなら、選挙の時にでも手を貸してくれれば構わない」


「それで、恵子さんは正一とは、その結婚する気は……」


「ありませんわね。これは只の遊びですから、どちらかと言えば正一さんより和也さんの方に興味があったから茶番につき合いましたのよ」


「それはどう言う事じゃ」


「だって婚約者の芽瑠さんが不貞を働けば、和也さんがフリーになるじゃないですか? 正一さんが東条芽瑠を口説いて関係を持ったというから、本当かどうか知りたくて見に行っただけですわ」



「今泉が気になるなら、なんで何も言わず見ていたんだ」


「あの狼のような精悍な顔立ちが崩れる所が見たかったのですわ。 幾ら和也さんでも婚約者が寝取られたとあれば、崩れるかと思いましたのよ。ですが残念ですわ、顔色も変えずにすぐに応酬なさって何処までも凄い人でしたわ」


「今泉が……狼?」


「子供の頃は本当にただのガキでしたが、再会したらまるで別人でしたわ。よく考えて解りませんか? 高校にも進学しないでビジネスを始めて今や数店舗のスーパーの社長ですから凄いですわね。 しかもそのスーパーはこの辺りのライフラインみたいな物です。 そのおかげで彼、かなりのお年寄りに人気がありますのよ。 しかも、その工事の殆どが地元の工務店を使っていて、農産物や海産物の取引も地元。政治家になればすぐにでも票が集まる素晴らしい人材ですわ」


こうして言われてみれば、確かに凄い事だ。


「確かにその通りだ……」


「だから、芽瑠さんと別れたからチャンスだと思いましたのに、こんなに早く、他の女と結婚なるなんて非常に残念ですわ」


「それでは、元からうちの正一とは遊び……そう言う事か」


「そうですわ、見てくれだけは良いですからね、正一さん。避妊もしっかりしていましたからあと腐れも起きませんからご安心ください。逆に言い寄られても困ります。正一さんには『楽しい思い出をありがとう』そうお伝え下さい」


「あれでも正一は古馬本家の人間じゃ、縁を持ちたくはないのか?」


「いい歳して親の脛を齧っている様な方ですよ? 魅力を感じません」


「はははっ、こう言う娘なんだ。だから気にする必要は無い。お互いに悪かった。それで良いんじゃないか?」


「そう言う事なら、もういい」


慰謝料の支払いもしないで恨まれもしない。


良い結果の筈じゃがなんか釈然としない。


立ち去る北条家の親子を見ながらそう思った。









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