第11話 悪夢の終わり
古馬本家も大変だ。
体裁の為に3千万も払うんだから。
そこ迄しても体裁は保たないと成らない。
お金が唸る程ある古馬本家からしたら大したお金じゃない。
だが、決して古馬本家は湯水のようにお金を使う家柄じゃない。
今でこそ色々やっているが、元は農業と畜産を生業にしていた。
その為、お金を稼ぐ大変さをよく知っている。金持ちだが決して飾らず『質素倹約』を旨に生きている。
その古馬本家が3千万を払うのだから、今回の件は相当重く見ているのかも知れない。
それに慰謝料を払う相手は俺だけじゃない。
俺は、この村の人間だから大きな話にならない。
問題は、東条家と南条家と北条家だ。
この三つの家は古馬家にはおよばないが名家だ。
東条家は、メロンやスイカを扱う隣村の農家だが豪農と言っても良い位の家だ。高級な果物専門の農家でブランド品の果実を多く扱っている。
芽瑠はそこの一人娘だ。
南条家は隣村の網元であり南条水産という水産業を営んでいる。真理愛はそこの次女。 長女ではないから後を継がないかも知れないがお嬢様ではある。
そして、最後は北条家。
北条家は隣村の村長で、身内に村会議員も多い。 そして当主は次は県会議員を狙っているという政治家の家系。
恵子はそこの長女だ。
何故か同世代の近隣の女の子は全員がお嬢様だった。
正一は、そんなお嬢様ばかり3人に手を出した。
誰か1人なら『婚姻』という形で決着がつくのかも知れない。
正一は古馬本家の跡取り、彼女達の実家を継がなくても対面は保てる。
だが、3人相手じゃその手は使えない。
誰か1人を娶ったとしても残り2人の家が黙ってない。
逆に下手に娶れば、余計に残りの2家の親を怒らせてしまうかも知れない。
『困っているんだろうな』
俺じゃ解決法が思いつかないレベルだ。
まぁ、他人事だし、俺がどうこうする事じゃ無い。
◆◆◆
「美沙、行こうか?」
「うん……これで私もバツイチかぁ~あんまり実感がないな」
「美沙の場合は特殊だからね」
「結婚ってよりも、ただ使用人になっていた感覚しかないしね。しかも凄く酷い環境の」
美沙は凄く心が強い気がする。
あの地獄の様な日々からまだ1日しか経っていないのに、俺に昔の様な笑顔で接してくれる。
「そうだね、本当に酷い思いしたね」
流石にそれ以外いう事が出来なかった。
美沙が過ごしてきた日々は、到底気軽に話せる内容じゃない。
「まぁ、これからは和也が幸せにしてくれるんでしょう?」
「勿論」
さっき受け取った離婚届を美沙に渡すと、すぐにでも縁を切りたかったのだろう、すぐに美沙は離婚届に記入した。
そしてすぐに俺達は村役場に向かう事にした。
これで、美沙は古馬家と正式に縁が切れる。
「はい、書類に不備はありません。受理いたします」
これで美沙は古馬美沙から紺野美沙に戻った。
「始まりの時もあっさりした物だけど、終わりもあっさりしたものね」
紙きれ1枚で縁が終わる。
本当にあっさりしたものだ……本当にそう思った。
ついでに、俺と美沙との婚姻届けを出したかったのだが、再婚禁止期間があり、この場では入籍できなかった。
だけど、俺も美沙も出来る事なら、すぐにでも婚姻届けを出したかった。
「6か月も待たないといけなのか……」
「和也、仕方ないよ、法律ならね」
「あの、何か方法はありませんか?」
何か良い方法がないか、村役場の受付の方に聞いてみた。
「それなら方法はありますよ。これは妊娠した場合。その子の親がどちらの父親の子か決める為の法律です。 例外の一つとして今現在妊娠してない証明書があれば、婚姻届けを受理可能です」
「「それじゃ」」
「はい、医師による、妊娠してない証明書があれば婚姻届けの受理可能です」
一刻も早く夫婦になりたかった美沙と俺は、すぐに村の診療所で検査を受け、再度、村役場に向かい、必要書類を提出。
これで晴れて夫婦になった。
「凄いわね。今日一日で、古馬美沙から紺野美沙になって今じゃ今泉美沙なんて!うふふっ本当に凄いわね」
「本当に、まだ実感はないけど、これで美沙がお嫁さんになったんだ」
「うん、これから宜しくね! 旦那様」
「旦那様……宜しくね! 美沙姉……いや美沙」
「お二人ともおめでとうございます」
村役場の受付のお姉さんに祝福を受け、ようやく俺は『結婚』を実感し始めた。
今泉美沙になった戸籍謄本と住民票をとり嬉しそうに眺めている美沙の笑顔は凄く幸せそうで綺麗だった。
これで、全部終わった。
これからはきっと二人で幸せになれる。
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