死にゆく君の姿を僕は世界線を超えても追いかける

土山 月

決意

 目の前に広がる瀬戸内の海にオレンジ色の太陽が反射する。


 遠い過去のことを思い出し心臓を掴まれる感覚。脳裏に焼き付いたその光景と最期の言葉。それに突き刺さる一生消えない後悔。


 あの日から何年が経つのだろうか。忘れたい。忘れたい。消し去りたい。消えてしまいたい。頭を抱え、苦しみながらそう思っていた。


 「どうしたの?体調悪いの?」


 目の前から聞こえる子供の不思議そうな声。


 「いや、なんでもないんだ。昔のことを思い出しててね」


 「ふーん。あ、これあげる! 」


 子供はポケットに手を入れてなにかを握った左手を差し出す。差し出されたものを受け取るためにそれを右手で受け取る。


 「そのお花がおじさんに元気くれるよ! 」


 その子供は父親に呼ばれて「それじゃあね」と言い、手を振り去って行った。僕の手に残ったのは小さな花。


 去り際その子供は屈託のない笑みをくれた。悩みもなく幸せそうな笑み。


 救われたような気持ちだった。あの子の笑顔が僕に活力をくれた。


 もう一度歩みを進められる。過去はもう戻らない。どうしようもない。だがこれからの未来を担う若者の役に立つことはできる。


 曇りきっていた心に一筋の光が差した。自分の役割というものを見つけた。


 黄昏の空を見上げ誓い、もらった可憐な小さな花を右のポケットに入れて僕は歩み出した。

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