元締め

すぐに酒場に着く


「ここに居るんですよね?」

「正直戦闘してたし居なくなっててもおかしくない気がする」

「ですね」

「対象は?」

「リードロっていうスラムの元締め。2m位の大男で魔物の毛皮を着てる」

「それなら分かり易い」

「先に私が入ります」


アルトが先行して中を確認する


「即捕縛?」

「最初話し合う。それで話が通じるならそのまま、ダメそうなら武力行使」

「先に捕縛した方が早そう」

「それはそう」


そして一度出てくる


「どうだった?」

「居ました。しかし、中にかなりの数の無法者が居ます」

「問題ない」

「回復し切ってないけど無法者程度であれば私の魔法でどうにかなる」

「援護します」


3人は酒場に入る

ボロボロの酒場、中もボロボロ、古びた机や椅子がありカウンターには店長の男性が立っている


「何処?」

「右奥です」


アルトに言われた方向を見ると確かに大男が居る

魔物の毛皮を身につけた大男が座り酒を飲んでいる


……あれが対象か


周りにはこちらを確認する無法者達が居る

アルトが言った通りかなりの数が居る


……何も頼んでない。護衛かな


無法者達は何も食べていない、飲み物のコップもない


「珍しい客だ。何か飲むかい」

「今日は酒場に用があるんじゃないんだよ」

「なら取引か。リードロならそこだ」


店主の男性は視線を動かして大男を見る

大男リードロの前に立つ

座っているが巨大であると分かる、強面で威圧感がある


「何用だ?」

「呪使いについて教えて欲しい」

「呪使い? 誰かを呪い殺したいのか?」

「いや、解除したいんだよ。だから呪使いの情報を吐いて欲しい」

「それでわざわざここまで足を踏み入れたか。まぁ確かに呪使いとは関わっているが生憎と取引相手の情報は売れねぇんだ。帰りな」


クロナは剣を引き抜き剣先を向ける

アルトも魔法を構える


「悪い事は言わねぇ、ここで戦うのはだけは辞めておけ」

「なんで?」

「ここの店主は怖ぇんだよ。ここで行われるのは取引だけだ。裏の人間でも武力の取引はしねぇ」

「知った事じゃない。吐け」

「取引相手の情報は売らねぇが呪い解除の取引か捜索の手伝いなら受け付けている。最もその呪使いが居るかは知らねぇし両方とも呪いを掛けるとは違ぇから高額だがな」

「捜索の手伝い?」

「呪い専門の奴がいんだよ、そいつならどの呪使いがやったかすぐに分かる。だがそいつは高額でしか依頼を受けねぇしこっちも紹介料は貰う」

「幾ら?」

「200ティル」

「なっ」

「ふざけてる?」

「ふざけてなんて居ねぇよ。そもそも紹介料は1割にも満たねぇほぼ奴の取り分だ」


アルトなら支払えるが高額には変わりない

クロナは剣を振るおうとする

取引は出来ないと判断した


クロナはこの酒場で最もしては行けない行動に出た

リードロはスラム街の元締めであり無法者を率いて殺人なども犯している極悪人であり魔法が得意な貴族ですら叶わない実力を持つ人間

傍若無人な振る舞いをする男だがそんな悪人ですらこの酒場においては大人しくルールを守っている

リードロの警告は冗談や脅しでは無かった


そのルールはただ1つこの酒場においての武力行使の禁止

それをクロナは今破ってしまった

カウンターでコップを拭いていた男性が一言呟く


「帯電樹海」


床から木々が生える

クロナはそれに気付いて木々を切り裂く


「迎撃!」

「魔法!?」


切り裂いた部分からすぐに生えて伸びる


「厄介な魔法」


……魔法? 誰が


リードロが魔法を使ったような素振りは無い

アルトも土魔法と剣で応戦する


「そいつを突破するのは無理だ。強くともその魔法からは逃れられねぇ」


木々が大量に生えて無法者達はすぐに避難する

特異魔法で赤黒い剣を作り木々を切り裂く


「特異魔法?」

「そのようですね。木々を操る異能なんて聞いた事がありません」

「再生能力が高い」

「高いけどこれなら」


素早く剣を振るい切り裂いていく

再生が追いつかない速度で切り裂く


「再生速度よりも早く切り終えれば」

「魔法を使った人間止めないとこれは無理」

「だねぇ……店主って言ってたしあの男性?」

「かもしれませんね。拘束します」


木々が無限に伸びる

アルトが土の魔法で店主を拘束しようと試みるが木々で阻まれる


「ダメですか」

「多過ぎる。何この魔法」

「相当の魔法使いですよこの魔法使ってるのは」

「スラム街にそんな魔法使い居るのマジ? 騎士団とか冒険者になった方がいいんじゃ」

「このレベルの魔法なら間違いなく副団長クラスには成れますね」


リードロもいつの間にか避難していた

あれに巻き込まれたらタダでは済まないと知っているからである


「言わんこっちゃねぇ」


酒を飲む

警告したのに聞かなかったクロナを見て呆れたように言う

あの警告は親切心だ


アルトが最初に木々に掴まれ縛り上げられる


「しまった。動けないなんて力」


動けない程の力で強く縛り上げられる

魔法を使って抵抗するが再生される


「アルト!」


すぐに駆け寄ろうとするが木々が阻む


「邪魔!」


木々を切り裂く

ミラも助けようと赤黒い剣で木々を切り裂くが死角から現れた枝に腕を掴まれる


「グッ、死角から……動けない」


腕を掴まれてからすぐに大量の枝で身体を縛られる


「ミラ!」


剣で切るがすぐに再生する

そして切れた枝も地面に落ちて新たな木となって襲いかかる

どんどん数が増えていく


……硬くは無い。だけど量が多すぎる


「速撃」


素早く複数回切る

木々は硬くなく余裕で切れる、しかしその脆さを再生能力で補っている


……拘束系の魔法?


縛り上げるだけで攻撃をして来ない


「面倒だなぁ」


素早く切り倒していく

そして無理矢理再生する前に突破する


「おいおい、まじかよ。無理やり突破しやがった」

「成程、武力行使を選ぶだけの強さはあると」

「てかあいつ魔力使ってねぇな」

「奇妙な剣士、だけどこの程度では突破は出来ない」


魔法の使い手である店主に向かう

新しい木々が現れて阻む

一振りで纏めて両断する

細い枝に足を掴まれる

振り切るつもりで足を振るおうとするがビクともしない

細い枝なのに動けない


……力が強い。これは無理だ


細い枝を剣で突き刺すが他の枝が次々と身体を縛り上げていく

腕を掴まれ剣を振るえなくなる

3人が拘束されたのを確認して店主の男性が近づく


「ここでは武力は禁止だ。何人であってもな」

「君の魔法か。とんでもないね」

「私は騎士団です。騎士団長の許可も出ています」

「騎士団か。良い事を教えてやる、ここでは俺がルールだ。騎士団だろうが冒険者だろうが貴族だろうが国だろうがこの酒場での戦闘行為は許さん」

「悪いがそうは言ってられない」


力を入れて木々の拘束から抜け出そうとする


「無駄だ。お前の力では不可能だ。ここに来たのには理由があるのは分かっている。だがやるなら他所でやれ」

「こんな強いのになんでスラム街でボロボロな酒場の店主を?」

「大人には事情があるんだよ。次戦闘行為を行おうとしたら拘束では済まないぞ」


魔法を解除して3人の拘束を解除する


「今のお前達にある選択肢は2つ、外に出るか大人しく取引をするかだ。騎士という事は貴族、金持ちだろ。高額でも取引が出来るのならその方が良いだろう」

「信用が出来ません」

「若いな。まぁ良い大人しくするなら好きにしろ」


店主はカウンターに戻る


「だそうだが取引をするか? 今なら紹介料の20ティルを払えば奴の場所を教えてやる。残りの180ティルは本人に持っていけ」

「20ティルですか」

「払えないか?」

「高い」

「こっちも商売だ。お前らは常連にはならねぇ値引きは受け付けねぇぞ」

「分かりました払います。正確な情報を要求します」

「金を払う客にはしっかりと払うのが筋だ。この商売は信頼が必要だ。金が混ざれば嘘はつかねぇ」


アルトが20ティルを払う

受け取り数を数えて合っていると分かると話し始める


「呪いの専門家そいつの名前はフォーネ・リルクール」

「リルクール!?」

「知ってるの?」

「騎士団の副団長の1人がリルクール家の人間です」

「って事は貴族?」

「はい、子爵の人間です。フォーネは確かリルクール家の3女の名前ですね」

「道理で高そうな研究道具を持ってる訳だ。そいつが呪いの専門家だ。そいつは平民区に研究所を置いていて普段はそこに居る」

「成程正確な場所は?」

「焦んな」


無法者の1人が地図を持ってくる


「地図持ってきました」


リードロは地図を受け取り地図を机の上に広げる


「ここだ」


南東の地区を指を差す

大通りからは外れているが家が立ち並ぶ場所


「情報は分かった。早く行こう」

「依頼主を連れて向かいましょう」

「騎士団に居るかギルドに居るかも」

「では私が騎士団に行きますので2人はギルドへそして1時間後に研究所で合流しましょう」

「分かった」

「取引は終わりだ」

「それじゃ嘘だったら殴り込みに行くから」

「そりゃ勘弁してぇな」


酒場を出て二手に分かれてユイラを探す

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