骸龍編
ただ頑丈なだけの剣
「あっ、自己紹介してませんでした」
「そう言えば忘れてた。私の名前はクロナ・ヴァイス、歳は18、冒険者」
「私はユイラ、歳は15、肩書は特にないです」
互いに名乗る
色々あり名乗るのを忘れていた
「冒険者だけなんですか?」
「他にもバイトもしてるよ。5級冒険者だと剣を買う金も生活する金も正直稼げないから生活費分に軽く」
「そうなんですね」
「余り時間は掛からずに生活出来るくらい稼げるから」
「そのバイトで稼げばいいのでは?」
「確かにその気になれば稼げるけど私戦闘以外苦手で……それにちょっとね」
冒険者はランクが高くないと報酬が少な過ぎて生活費も剣を買い貯める金も稼げない
他のバイトを少しして補っている
大半の時間を冒険者活動や剣の訓練に使っている為そのバイトも余りやれていない
「ユイラは杖も買うんだよね?」
話題を変える
「買う予定ですが悩んでいて」
「悩んでる?」
「また市販品を買うか特注するかをです」
「あぁ」
ユイラは悩む
市販品は量産用、安定した性能が求められる
その為、飛び抜けた性能の武器は余り売られていない
「お金あるなら特注が良いと思う。時間はかかると思うけど」
「時間がかかるのがネックなんですよね。素材調達は時間があれば何とかなりますし」
「何か急ぎのようが?」
「余り時間を掛けられない理由がありまして、そんな直ぐにではないですが」
「成程、なら市販品か高価な杖とか?」
「高い杖は正直金がかかる割に微妙なのでやっぱり市販品ですかね」
「杖の事は良くわからないけど高価な杖って性能高いイメージがあるんだけど」
「量産されている杖よりは性能は高いです。ただ杖は補助道具、魔力の性質に合わないと弱いんです」
一人一人魔力の性質や量が違う
その為、必要な杖の性能が変わる
「だから安定する市販品か特注なんだね」
「はい」
武器屋に着く
扉の横に看板が立て掛けられている
武器屋の扉を開き中に入る
壁や棚に大量の武器が飾られている
「凄い沢山、杖も結構ありますね」
ユイラは杖が並んでいる棚を確認する
クロナは樽の中に雑に置かれた剣を見る
いつもここに置いてある剣を使っている
安価の為、使い捨てしやすい
「また剣を破壊したか」
剣を見ていると老人に声を掛けられる
この武器屋の店主の男性、鍛冶師でもありここに並んでいる武器の殆どを制作している
「そ、そうですね」
「どんな扱いをしているんだか」
「あはは……特に壊す気は無いんですけどね」
苦笑いする
本人としては剣を壊す気は無いが壊れてしまう
「いつも通り複数本買うか?」
「今回は頑丈な剣を買いに来ました」
ユイラが話に割って入る
「頑丈な剣……あれかあれは高いぞ」
「私は金がありますから」
「ほう、そうか、確かにあの剣は他の剣に比べて頑丈だ」
男性は剣を持ってくる
形は普通の長剣と変わらない
見た目は装飾は一切付いていない白銀の剣
……やっぱりこの剣凄い気になる
初めて見た時から気になっていた
見る度に言語化出来ない感覚に襲われる
「幾らなんですか?」
「30ティルだ。値下げは受け付けていない」
「30ティル!?」
その値段に驚く
一部の魔剣の方が安いくらいの値段
……やっぱり高い、だから買えないんだよなぁ
30ティルとなると森の主クラスの魔物を9体倒して素材を売って稼げる値段
5級冒険者のクロナには遠い値段
「どうした? 買えないか」
「いえ、買えます」
「いや、高過ぎるから無理しなくて良いからね」
「大丈夫です!」
「それでは決まりだな。それでそちらの少女は杖を求めてきたのか?」
「はい、杖の特注をしたいんですが」
「特注か、自身の魔力の性質は理解しているか?」
「はい、分かっています」
1枚の紙を手渡す
老人は受け取り確認する
老人は眉間に皺を寄せて、困ったように唸る
多くの魔力性質の杖を作った事がある老人でも難しい注文であった
ユイラの魔力の性質は特殊
「これは厄介だな。合う素材があるか探してみる、少し待っていろ」
店の奥の部屋に入っていく
数分して出てくると老人は首を横に振るう
合う素材が見つからなかったのだ
「済まないが制作に使える素材が無い。素材の調達が出来れば1週間で作れる」
「1週間ですか……」
ユイラは悩む
1週間で作れるなら悪くない
特注の杖が手に入れば魔法の精度が高まる
……でも1週間はあくまで制作にだから諦めかな
素材がいつ手に入るか分からない
1週間はあくまで杖の制作、素材の調達の時間は含まれていない
「素材調達にどのくらい時間が掛かるか分からない。かなり希少だからな」
「その素材と言うのは鉱石とかですか?」
杖の事を知らないクロナが質問をする
老人は首を横に振るい答える
「いや、魔物の素材だ」
「杖って魔物の素材を使うんですね」
「あぁ、魔物は魔力を帯びている。その為性質が似ている、同系統の性質の魔力を持つ魔物の素材が必要になる」
「なるほど」
先程ユイラが言っていた事を思い出す
……性質、さっき言ってた奴か。魔力の性質って魔物と同じなんだ
量産されている杖は魔物の素材を使っていない
一部使われている杖は高価な上、性質に偏りが生じる
「私の性質は特殊で余り居らずその上確認されている魔物は高等級の魔物です」
「それは厄介だね」
「調達には高ランク冒険者に依頼を出し討伐して貰い商人に運んで貰わなければならない」
「この近くにはその魔物は居ないんですか?」
「1体だけ居る。ただあれの討伐は難しい」
「ですね」
「そんな強い魔物が」
「骸龍ボルロダス、エルダス山の頂上に住む魔物だ」
エルダス山は王都から南に進むとある大きな山
隣国との境界に存在するそこはそのたった1体の龍によって支配されている
その為無闇に山にはいるのは自殺行為と言われている
「骸龍……龍種が」
「知っているか」
「魔物の中でも強い龍種、その中でも名前がある龍は国1つを滅ぼせる程の強さを持つと」
「その通りだ」
国家すら下手に手を出さない程の魔物
……龍は切った事ないな。ワンチャン行けないかな?
とんでもない事を考え始める
高ランク冒険者、1級や2級冒険者がパーティを組んで挑む程の存在
「何を考えているんですか?」
「自殺行為はお勧めしない」
「ありゃ声出てた?」
心の声が口から漏れていた
2人が呆れている
それくらい馬鹿げた事を言っている
「はいはっきりと」
「師匠が言っていたんですよね。龍を切り倒してこそ一流の剣士だと、実際龍を斬ったとか」
「なんですかそのとんでも師匠は」
「龍を斬る剣士なぞ世界に数人と居ない。それが本当なら何者だ?」
「さぁ? 師匠は最後まで名乗りませんでしたから名前すら知りません」
剣を教えるのに名は不要と言い最後までクロナに名を教えなかった
「もしお前が骸龍を討伐出来たら無料で作ってやろう。その剣もタダでくれてやる」
ただの冗談、不可能だと考えているが為に発言した言葉
ユイラはそれを冗談だと理解している
ただこの場で1人だけ真に受けている者が居る
「本当ですか!」
その1人が素早く食いつく
まるで目の前に餌を撒かれた魚が如く
「本気にしないでください。無理です絶対に無理です」
「これまた師匠が言ってたけどこの世に絶対は無いよ。勝敗は勝負が着くまで誰にも分からない。挑む価値はある。それでどんな魔物なんです?」
「骸を操る龍だ、自分が食らった、殺した魔物の骨を操る。勝てば勝つほど強くなる」
「成程」
骸を操る魔法を扱う事から骸龍と名付けられた
……骸龍、別に骸骨の龍では無いんだ
「本気でやる気ですか?」
「必要なんでしょ?」
「確かにあれば目的達成に近付きますがそんな危険は犯す必要はありません」
「挑戦とはいつの時代も失敗の危険が伴う物だ、危険を恐れて挑まない臆病者に頂きを見る資格は無いと」
「師匠語録はもう良いです!」
「悪い事は言わねぇ辞めておけ」
「この剣前借り出来ますか? 流石に龍を斬るのは数本じゃ足りませんし」
「本当にやる気か?」
「そうでなければわざわざ龍の情報なんて聞きませんよ」
老人はクロナの目を見る
その目は嘘つきの目では無い、真剣に龍狩りを成そうとしている
老人はその目を見て高笑いする
「良いだろう。持っていけ」
「ありがとうございます! それではこの剣に慣れる為に魔物倒してきます!」
剣を抱えてウキウキで武器屋を出る
……依頼の魔物居たらいいな
討伐対象の居る東の森へ向かう
「クロナさん? え、えぇ……」
呆然としている
「龍の素材なら1級品の杖が作れる」
「1人で勝てる訳がそれに彼女は」
「ただの阿呆かそれとも本当に偉業を成す者かは儂らには分からん」
老人は魔力を持たない事を知らないがもし知っていたとしても同じ事をした
魔力の有無ではなくクロナの目を見ての判断であったから
……止めないと、だけど何処に行ったんだろ。魔物……
呆気に取られているうちにもう姿が見えない
行先を知らないから追いかけようがない
「落ち着け」
「落ち着いてなんて」
「一先ず市販の杖を持っていけ。どうせ安物だ」
「あ、ありがとうございます」
杖を持って外に出る
行先は分からない、持っている情報を整理して予測するしかない
……魔物狩りなら外、でも何処の魔物? 城壁からそう遠くない所だとは思うけど、この大通りから向かうなら南か南東南西の何処か、そうだ! クロナさんは東の森に出てくる魔物の討伐依頼がまだ終わってない
雑談から得た情報で向かった場所を当てる
そして急いで東の森へ向かう
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