第11話 謎その二〜東北の鬼とは?〜
「次の質問、私いいですか?」
「どうぞ」
「先生が、「わかりました」と言った意味が全然分かりませんでした。吉野さんに憑いていた怨霊が東北の方向の鬼というのは話し方や風貌で何となく分かったのですが、吉備津彦神社と東北の鬼の関係が全然分かりませんでした」
茜ちゃんの質問だ。あの一言を最後にカウンセリングが終了した訳だが、僕も先生の「分かりました」の意味がさっぱり分からなかった。しかし、茜ちゃんも流石というか、同じ妖怪だからなのか、鬼の出身地が分かるものなんだなと思った。確かに人間同士だと方言とか話し方、風貌で何となく出身地が分かるものだが、妖怪同士もそうなんだと新鮮な驚きがあった。
「今回のカウンセリングは偶然の一致が起きていて複雑になっています。なので、私も初め分からなかった部分がありました。一つ一つ整理しながらお話ししますね」
偶然とは神様が創り出す必然なのかと思っていたが、どうやら違うらしい・・・。いや、そんなことは今はどうでもいい。お話しに集中しよう。
「まず、これから会いに行くお伽話の「桃太郎」のモデルと言われている吉備津彦命は私のクライアントです。会った時に話題に出ると思うので詳細は割愛しますが、彼にも悩みがあります。だから、先日も茜ちゃんと兼人くんとも訪ねました。あの時に、兼人くんにも紹介しようと思いましたが、ある人物の訪問で予定が狂い紹介が出来なくなりました。その訪問者が吉野さんです」
また、謎が謎を呼ぶ展開になっている。僕が吉備津彦神社を先生たちと一緒に訪れた?
茜ちゃんが、訳が分かっていない僕の顔を見て察したように言った。
「兼人が元気に参拝して祝詞を叫んだ時だよ」
え?あれは横浜・・・。でも、確かに「吉備津彦神社」と社号票に書いてあった。
「そうです。あれは、私の能力でもあるのですが、横浜から岡山までを繋ぎました」
当たり前のように不思議な事を言っているが、まあ、妖怪でも鴉天狗レベルになると空間移動くらいはできるようなので、神様且つ、アメノミナカヌシ様レベルになると簡単な事なのかもしれない。
「ここからは私が勝手に理解した、つまり、「分かりました」の内容になります。吉野さんは、「桃太郎」をモチーフにした映画原作を書くために、成功祈願とご挨拶に桃太郎のモデルと言われている吉備津彦命が祀られている吉備津彦神社にお詣りに行きました」
「そこまでは分かります」
僕と茜ちゃんは頷いた。
「そこで吉野さんは吉備津彦さんから本当の「桃太郎」の意味を知るように促されたのだと思います。それは、吉野さんが吉備津彦さんに期待された証だと思います。吉野さんの俳優としての知名度や世間からの評価、好感度。誠実さやこの映画原作にかける情熱など、全てを加味して期待したのだと思います」
「吉備津彦と吉野さんに取り憑いていた怨霊の期待は同じということ・・・」
茜ちゃんが呟くように言った。
「そうです。吉備津彦さんは、本当の「桃太郎」が書きたければ、鬼に話しを聴いてみろと促したのだと思います。もちろん、姿形を現して言ったのではないと思いますが、意識に届くように促したのだと思います。そして、吉野さんはその日から、鬼に話しを聴くために、東北、北関東にある鬼の神社を巡る旅を始めたのでしょう。一つ、二つの神社であれば問題無かったと思うのですが、吉野さんの真面目で誠実な性格と原作に対する情熱が鬼たちの期待を集めて鬼たちに歓迎されたのでしょう。だから、取り憑いている怨霊、鬼は吉野さんに悪意を持っていないのです。これは、すごい事です」
「時期的には、始めて、吉野さんが水亀カウンセリングルームを訪れたのが、吉備津彦に促されて鬼の神社を巡る旅を始める前か同時期。そして、鬼の神社を廻ったことで精神に異常を来たしている状態で二回目のカウンセリングルームを訪問。そして、先週の三回目のカウンセリングルーム訪問の数日前に偶然、吉備津彦神社に二度目の参拝をしている・・・」
時系列を整理するためにブツブツ呟いている僕を先生と茜ちゃんはジッと見つめている。悔しいけど、今は、この二人の思考や想像力に着いていくのは経験やセンスに差があり過ぎて無理だと諦めよう。成長する覚悟を決めて、自分がしっかり納得できるように質問しようと心に決めた。
「一回目のカウンセリングから二回目のカウンセリング間に鬼の神社をいくつも訪問して取り憑かれて、鬼の思念が流れ込んで来て、精神異常や毛弱、思考の混濁などが起こっていたとのことですが、そもそも、鬼の神社って何ですか?その神社と東北の関係が深いのですか?」
「はい。シンプルに鬼の神社とは、「鬼」を神社の名に冠している神社です。吉野さんは、鬼の話しを聴くために、吉備津彦神社をお詣りしたように、鬼の名が付く神社を参拝して廻ったのです。」
「それが東北と北関東辺りにあるのですね。「鬼」の文字が付いている神社なんて珍しいですよね。何社くらいあるのですかね?十社くらいですか?」
「社名や祭神の名に「鬼」を冠している神社の総数は全国に七十八社です。そのうち、五十四社が関東から東北地方にあります。吉野さんは、この五十を超える神社の鬼の声を聴いて廻ったのだと思われます。それも一社につき一柱の鬼という訳ではなく、その鬼を慕って集まる者たちが無念の気持ちを伝えたくて吉野さんに憑いていたりもするので、数は計り知れません。カウンセリングルームに憑いて来たものだけではないですからね」
「つまりは、吉備津彦命が鬼を知れと吉野さんに言い、吉野さんは鬼を知るためにはどうしたらよいかと色々調べていたら、鬼神社が東北に集中している事が分かり、お詣りしまくったら取り憑かれたという訳ですね」
「兼人、シンプルにまとめたね〜」
茜ちゃんが感心してくれた。
「因みに、福島県の辺りに二十六社鎮座しています」
「多賀城が近くにありますね。蝦夷征伐。初代征夷大将軍坂上田村麻呂が繋がりました」
「これで、吉野さんが話した鬼の正体と東北地方の関係は分かりましたね。取り憑かれている理由も何となく分かりましたよね。鬼たちが伝えたい内容はまだ分かりませんがね」
「でも、分かったのは吉野さんが言っている鬼の事だけで、本質的な鬼については分かりませんし、吉備津彦命は吉野さんに東北地方に行けと言った訳ではないですよね。もし、そんな事を言ったとしたら、桃太郎伝説の桃太郎のモデルは初代征夷大将軍の坂上田村麻呂だというミスリードになりますし、自分の所にお詣りに来た吉野さんに期待どころか、冷たく突き放すことになりますよね」
「兼人くん、急に鋭くなりましたね。とてもいい視点です。では、次の謎解きは、桃太郎伝説と鬼の関係についてお話ししましょう。そこに鬼と怨霊の関係性も隠れています」
先生が楽しそうに笑いながら言った。
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