猫と労働 第2話 「総務部のおにぎりさん」

 エヌ氏が会社から帰宅すると、飼い猫の「おにぎり」がソファの上で眠っていた。いつもならエヌ氏が帰ってきた途端に目を覚ますのだが、かなりお疲れの様だ。無理もない。なにしろ今日はおにぎりの初出勤日、社会猫デビューの日だ。初出勤の感想を聞きたかったのだが、ここは寝かせておくべきだろうとエヌ氏は思った。

 

 おにぎりの眠りを妨げない様、静かに夕食を取っていたエヌ氏は申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになっていた。猫労働法(※第1話に詳しく書いてますので是非ご一読を)が施行されて全ての飼い猫に労働の義務が課されたとは言え、あんなザル法はいくらでも抜け道があった。

 一番ポピュラーなのは飼い主と猫が警備業の契約を結んで自宅の警備をやっている体裁を取る、世間で「自宅警備員」とか「ニャルソック」と呼ばれているやり方だ。他にも動物病院で適当な病状をでっちあげた診断書を取り、労働出来ない状態だとして「飼い猫の心身の不調による労働免除申請」をする方法もある。エヌ氏の知る限り、猫を飼っている全て知り合いは上記のどちらかの方法を使って働かせるのを拒否した。 

 

 おにぎりが働く事になったのはエヌ氏に原因があった。人には決して手を出していけないものがある。まずはクスリだ。これは言うまでもなくダメ!ゼッタイである。次に手を出していけないもの、それは小豆相場だ。エヌ氏は出来心でそれに手を出し、大やけどをした。そんな火の車の家計を少しでも支えるため、おにぎりが働きに出る事になったのだ。

 エヌ氏も最初は反対したが、おにぎりがそれを許さなかった。「恩を返さない様では猫がすたるニャ」と言ってきかなかったのだ。元々、カラスに襲われていた子猫時代のおにぎりをエヌ氏が助けた事が二人(一人と一匹?)が出会うきっかけだった。おにぎりは家の主人となった今でも、捕まえたネズミを「おみやげ」としてエヌ氏の枕元に置くくらい彼に対して感謝の念を持っている。おにぎりから言わせれば、これからはネズミが日本円に代わるだけの話だった。 


 おにぎりが目を覚ました。「今日は初出勤で大変だったろう。頑張ったご褒美としてぢゅ~る(※世界中の猫が愛する液状のおやつ)食べるかい」エヌ氏はおやつを保管してる棚へ向かおうとしたが、「いや、今日は遠慮しとくニャ」と言ったきり、おにぎりはまた眠り始めた。

 大好物のぢゅ~るを食べられないほど食欲がないなんて。それに夕食も残してるじゃないか。エヌ氏は愕然とした。やはり猫が労働するなんて無理があったのだ、目を覚ましたら仕事を辞めるようお願いしよう。自責の念に苛まれながら、エヌ氏はそう思った。


 

 そんなおにぎりの初出勤日はこのようなものだった。まずは新入社員らしく全体朝礼での挨拶から始まる。

 「本日付で総務課に配属に『ニャ』りました、おにぎりと申しますニャ。よろしくお願いしますニャ」そう言って頭を下げた。

 猫は母音の「あ」の発音が苦手なので、前もって発音の練習をしてたのに緊張のせいで豪快に噛んでしまったおにぎり。語尾にニャが付くのは猫なので仕方ないとして、配属に「ニャ」りましたは少しかっこ悪い。

 頭を下げたまま失敗を恥じていたおにぎりだが、笑われるどころか拍手が返ってきた。それも万雷の拍手。まるでスタンディングオベーションだ。思わずおにぎりがビクッと後ずさりしてしまったほどの熱気だ。

 どうやら歓迎されているらしいが、まだ油断は出来ないとおにぎりは思った。元来、猫は用心深い生き物なのだ。


 朝礼が終わって総務課に戻ると「じゃあ、おにぎりさん、郵便物から始めましょうね」そう言って同じ課の鈴木さんが会社の私書箱がある近所の郵便局までおにぎりを連れて行ってくれた。郵便局から取ってきた郵便を仕分け、それを各部署へ届けに行くのが総務の朝の日課なのだ。

 郵便局への行きと帰り、鈴木さんはニコニコ笑いながらずっと「みんなおにぎりさんが入社するのをすっごく楽しみにしてたんですよ」「履歴書の写真を見て、ハンサムな猫が入ってくるって大騒ぎしてたんですよ」みたいな事をおにぎりに話しかけてきた。「これがいわゆる社交辞令というやつかニャ」と、生来警戒心が強い猫らしい反応でおにぎりは疑ってみたが、どうやら鈴木さんの態度を見る限りそうでもないみたいだ。

 会社近くにある公園に差し掛かった時、鈴木さんがポケットからぢゅ~るを取り出し、それをおにぎり見せてこう言った。「私もあんまり楽しみだったのでこれ買ってきちゃいました。おにぎりさん、そこの公園でちょっと休んでいきませんか?」

 「いや、勤務中なので・・・」おにぎりの本音としては「超食べたい」。しかし、さすがに初出勤な上にまだほとんど仕事をしていない状況なので遠慮しようとしたのだが、「大丈夫ですよ。人間だってお仕事中にお菓子とか食べますし」と、強引に公園へ連れて行かれた。

 「それではお言葉に甘えまして・・・」大好物のぢゅ~るを舐めながらおにぎりは思った。ぢゅ~るをくれる人間に悪い人はいない。どうやら良い同僚がいる部署に配属されたようだ。おにぎりは安堵し、少し警戒心が和らいだ。

 おにぎりが食べ終えると、何かに満たされたような表情で鈴木さんが言った。「じゃあ、会社に戻りましょうか」


 会社に戻り、「おにぎりと申します。よろしくお願いしますニャ」と挨拶しながら各部署の事務員さんに郵便物を渡して回った。最後は経理課だった。経理課の事務員さんに郵便を手渡し、総務へ戻ろうとすると経理課の佐藤課長から声を掛けられた。


 「経理の佐藤です。経理と総務は同じ事務系のお仕事だから頻繁にやり取りすることになるので、よろしくね」

 「こちらこそよろしくお願いしますニャ」

 「そうだ、鈴木さん。ちょっとおにぎり君を借りていいかな?少しだけ経理とのやり取りをレクチャーしたいので」

 「良いですけど佐藤課長、あんまり長く引き止めないで下さいね」鈴木さんは微笑みながらそう言って、先に総務へ戻ってしまった。


 休憩室に備え付けてある自販機で買ったコーヒーを片手に「経理と総務って仕事上の距離感が近いから、新年会や忘年会を一緒にやる事も多いんだよ」なんて話をしながら佐藤課長はポケットをまさぐっていたが、やがてある物を取り出した。またもやぢゅ~るだ。それをおにぎりの目の前にかざし、「おにぎり君、どう?」と聞いて来た。

 「いや、勤務中なので遠慮しておこうかと」鈴木さんの時と同じように一応固辞してみたおにぎりだが、勿論、本音は「超食べたい」気持ちで一杯だ。

 それを聞いた佐藤課長は手に持ったコーヒーを掲げ、「いやいや、人がコーヒー飲んで休憩するんだから、猫はぢゅ~るを舐めて休憩してもいいだろう」と強引に迫ってきた。

 ここまで言われたら断る方が失礼だし、そもそもおにぎりに限らず猫はぢゅ~るの誘惑に抗えない生き物だ。「それではお言葉に甘えまして・・・」そう言ってぢゅ~るを舐め始めた。エヌ氏の家では週に2,3本しか食べれないぢゅ~る。本日2本目となるそれを舐めながら、奇跡が本当に存在することをおにぎりは舌をもって知った。


 「じゃ、今後ともよろしくね」何かに満たされたような表情で佐藤課長は経理課へと戻っていった。しかし、「経理とのやり取りをレクチャー」するからといって休憩室に連れてこられたのに、話した内容は新年会と忘年会の合同開催の事だけ。一体何だったんだろう。おにぎりはキツネにつままれた気分のまま、総務へと戻った。


 お昼は鈴木さんに連れられて社員食堂へと向かった。社員食堂ではおにぎりのために食堂のおばちゃんが腕によりをかけて猫専用のメニューを作ってくれていた。日替わり定食らしく、今日は「マグロとサーモンの盛り合わせ定食」だ。メインにマグロとサーモンのお刺身、小鉢に鶏ササミのミルク煮込みと鰹節のチーズ和え、お吸い物はチキンのスープ。エヌ氏の家では基本的にドライフード、いわゆるカリカリがメインだ。お祝い事の日は特別にウェットフードや缶詰。それを1つのお皿に盛るのだが、社員食堂では何と四皿だ。おにぎりはただただ、その豪華なビジュアルに圧倒された。エヌ氏の出す食事とは比較にならないほどのご馳走だった。

 こんなご馳走が毎日出てくるのだろうかと思うと、おにぎりは嬉しいという感情よりも怖いという思いの方が先に立った。罠じゃないだろうか?猫は本来、用心深い生き物だ。

 見た目も豪勢だったが、実際におにぎりが食べてみると想像以上の美味しさだった。あまりに美味しくて、野良でいつも飢えてた子猫時代に戻ったかのようにがっつきながら食べるおにぎり。本人は気付いていないが、興奮しすぎて低いうなり声さえ出ていた。

 「ニャンちゅうもんを食べさせてくれたんだニャ・・・こんな美味しいご飯は食べた事がないニャ・・・本当に美味しいニャ・・・これに比べるとエヌのカリカリはカスだニャ」そんな事を考えながらも、とにかく咀嚼が止まらないおにぎり。そんな彼の姿を見ていた食堂のおばちゃんが微笑みながら「おかわりもあるよ」と言った。こんな美味しいものがおかわり自由?おにぎりは胃袋の限界まで食べる決意をした。 

 食後、圧倒的満腹感と圧倒的幸福感に包まれながら「明日から朝ご飯を少し減らそう」とおにぎりは思った。どうせ満腹になるのなら、美味しいものでお腹いっぱいになった方が良いに決まっている。猫は簡単に贅沢な食事に適応する生き物だ。

 

 お昼休憩の残りの時間、そのまま食堂で鈴木さんや他部署の女性社員の皆さんと談笑していたおにぎり。そこへ営業部の人が挨拶にやってきた。「営業部の山田です。総務には色々頼み事することがあると思うのでよろしくお願いします」

 「こちらこそよろしくお願いしますニャ」と返すおにぎりに被せる様な勢いで「ところでおにぎりさん、デザートとか食べました?」と、山田さんはポケットからぢゅ~るを出してきた。雑談を好む日本の営業らしからぬ、まるで一分一秒を惜しむニューヨーカーに負けずとも劣らない素早い本題への入り方だった。

 正直、おにぎり的には豪華な食事でお腹一杯だったけど、山田さんの善意を断るのも悪いので「それではお言葉に甘えまして・・・」とぢゅ~るを舐め始めた。「山田さん、私たちのデザートはないんですか?」女子社員たちがからかう様に山田さんを責めた。「ごめん、今度出張に行った時に山ほど買ってくるから」そう言って女性社員に謝る山田さんだったが、視線は彼女らに向くことはなく、ぢゅ~るを舐めるおにぎりに釘付けだった。

 「じゃあ、おにぎりさん、今度ともよろしくね」そう言って山田さんは何かに満たされたような表情で営業部へと戻っていった。

 


 午後になると人事部の高橋さんが書類を抱えておにぎりのもとへやって来た。新入社員は入社手続きとして雇用契約書や入社宣誓書を始めとした沢山の書類を作成しなければならない。高橋さんがそれぞれの書類について説明し、内容に異論がなければ記名押印していくのだが、ここで一つ問題があった。まだおにぎりは印鑑を持っていなかったのだ。

 「すいません、高橋さん。印鑑を頼んでるんですが、まだ出来てないんですニャ」鈴木や田中や山田のような印鑑ならどこにでも売ってるが、さすがに「おにぎり」は特別に注文しなければ手に入らない。入社の1週間前に街の印鑑屋さんに頼んではいたのだが、どこも猫用印鑑の注文が殺到しているらしく、まだ完成したのと連絡を受けていない。

 「それなら拇印、じゃなくて肉球印でもいいですよ。金融機関に提出するやつ以外はそれでも大丈夫なんで」「それでいいなら肉球押しますニャ」そう言って署名、肉球印をポンと押して最初の書類の完成だ。

 その後は小一時間ほど高橋さんの説明、署名、肉球印をポン、高橋さんの説明、署名、肉球印をポンを繰り返し、やっと提出すべき書類全てが完成した。

 「疲れたでしょう?ちょっと休憩しませんか?」出来上がった書類の束をクリアファイルに納めていた高橋さんがおにぎりを休憩に誘ってきた。

 休憩室で「初出勤、緊張しましたよね?」とか「初めての電車通勤はどんな感じでした?」そんな雑談をしていたのだが、急に高橋さんがポケットからぢゅ~るを取り出し「おにぎりさん、どうですか?」と勧めてきた。

 先ほども述べたが、エヌ氏の家では週に2,3本しか食べれないぢゅ~る。それが本日4本目。おにぎりにとって未知の領域だった。普段から「ぢゅ~るなら何本でも食べれるニャ」とか、「ぢゅ~るなら腹が一杯でも食べれるニャ」なんて豪語していたおにぎりだったが、実際にこんなに与えられるとちょっとキツいと思った。しかし、高橋さんの行為を無下にするのも忍びないので、頑張って食べる事にした。

 「それではお言葉に甘えまして・・・」

 

 例の如く、高橋さんは何かに満たされたような表情で人事部へと戻っていった。「社会に出なければ分からないことがある」なんてよく人間が言ってるが、実際それは本当だった。いくら大好物とは言え、ぢゅ~るは一日に何本も食べれない事をおにぎりは社会に出て理解した。

 「まあ、いい経験だったニャ」おにぎりはパンパンになったお腹を揺らしながら総務へと戻った。


 だが、これで終わりではない。高橋さんから貰った4本目のぢゅ~るですら、この日の折り返しに届いてなかった。後々分かる事なのだがおにぎりが入社したこの日、ほぼ全ての社員が彼のためにぢゅ~るを用意し、彼に食べさせるチャンスを虎視眈々と狙っていたのだ。

 

 別部署の人が挨拶に来てぢゅ~る。業務の説明に来てぢゅ~る。激励に来てぢゅ~る・・・。絶え間なく続くおにぎりへのぢゅ~るの洗礼は一向に終わる気配がなかった。

 そして10本目を食べ終わったあたりでおにぎりの体に異変が起こった。急いでトイレに駆け込んだ。お腹を下していた。液状のおやつなので、水分を採りすぎたのだ。


 トイレから戻り次第、おにぎりは上司である総務課長に相談しに行った。「すいません、課長。実はかくかくしかじかで・・・」

 おにぎりの話を聞いた課長は「実はうちの社員は会社で借り上げた独身寮や社宅に住んでる人が多いんだけど、そこが猫が飼えない物件なんだよ。それに割と都会で野良猫もいないから、みんな猫との触れ合いに飢えてるみたいなんだ。それを知っていながら対策しなかった僕のミスだな」と申し訳なさそうに言い、「ちょっとみんなに注意するから」とキーボードを叩き始めた。何かしらの文章を書いている。

 この会話を聞いていた鈴木さんが「ごめんね、おにぎりさん」と謝ってきた。「いやいや、食い意地が張ってる私が悪いんですニャ」ばつの悪い思いでおにぎりはそう鈴木さんに答えた。


 

 総務課長から全社員へ社内メールが送られた。題名は「総務課・おにぎり社員へのおやつの提供について」だ。以下、全文。



関東支店各位


お疲れ様です。

本日付けで入社いたしました総務課・おにぎり社員へのおやつの提供について、一定のルールを設けたくメールを差し上げました。

おにぎり社員へのおやつの提供自体は本人のリフレッシュのため問題ないのですが、一度に多くの社員が与えると過剰な栄養摂取により本人の健康を損ねてしまう可能性があります。

つきましては、おにぎり社員へのおやつ提供はAM10:30、PM15:00の1日2回とし、添付のスケジュールに基づき社員全員が交代で提供していくローテーション制を採用したくお願い申し上げます。

何卒ご協力のほどよろしくお願いいたします。


総務課課長 山田 大吾郎


 自席のPCでこのメールを見たおにぎりはホッとしたのだが、鈴木さんは少しご立腹のようだった。課長の席に詰め寄り、「おにぎりさんは総務課の猫なんだから、総務課だけのローテーションで良くないですか?」と抗議し始めた。「支店全体の事を考えたら総務でおにぎり君を独り占めってわけにもいかんだろう」課長も困った顔をしている。

 「でもですね」と食い下がる鈴木さん。ヒートアップしてきたのか、いまにも「シャー!!」と威嚇の声を発しそうな剣幕だ。

 「まあ、みんな我慢してるんだから僕らも我慢しよう」そう言って課長はポケットに忍ばせていたぢゅ~るを鈴木さんに見せ、引き出しの中へとしまった。さすがの鈴木さんもこれには返す言葉がなかったらしく、「はい、すいませんでした」と言って自分の机に戻った。


 

 お腹を壊すというアクシデントがあったものの、こうしておにぎりの初出勤日は概ね無事に終了した。彼が初日で理解したのは、

「会社の人たちは猫好きとして仕上がってるので躾ける必要なし」

「会社は美味しいものでお腹がいっぱいになる所」

「但し、ぢゅ~るの食べ過ぎは危険」

という事だ。これからは一社会猫としてバリバリ働き、そして体調に気を付けながらモリモリ食べよう。おにぎりはそう心に誓った。


 

 おにぎりが働き始めてから3か月が過ぎた。おにぎりは以前と変わらず元気だ。しかし、エヌ氏から見ると明らかに食欲が落ちていた。週末は昔と同じ量を食べるのに、平日になると食べる量が著しく減る。今日だって朝食のカリカリを以前の半分程度しか食べてない。最近は夕食を残す事も増えてきた。きっと平日は仕事がきつくて食欲が落ちるのだろうとエヌ氏は考えていた。あまりに心配なので「仕事大丈夫?無理してない?」と、何度もおにぎりに聞いてるが、いつだって彼からは「大丈夫、問題ないニャ」との返事しか返ってこない。

 「時間だから行ってくるニャ」颯爽と出勤していくおにぎりを見送りながらエヌ氏は情けない気持ちになった。食べる事が何よりも大好きなおにぎり。そんな彼が食欲不振になるほどつらい思いをしているのは自分のせいだ。悔やんでも悔やみきれなかった。安易な気持ちで小豆相場なんかに手を出してしまったためにおにぎりが・・・

 

 しかし、ご存じのように真実は全く違う。会社で美味しいものがたらふく食べられるのに、わざわざカリカリで満腹になるのはもったいないとおにぎりが判断しただけだ。昼食時が最も空腹になるよう、朝食をセーブしているのだ。猫は頭が良いのでそれぐらいの計算は訳はない。勿論、休日だけカリカリを完食するのは社員食堂が使えないからであって、彼としてはしょうがなく食べてるだけだ。

 更にこの頃になるとおやつをたくさん与えたい社員たちと、おやつをたくさん食べたいおにぎりの利害が一致し、お腹を壊さない新しいおやつを見つけ出す事に成功していた。新型おやつは昼食が消化し終わった時間帯、主におにぎりの退勤前後に与えられる事が多かった。おかげで晩御飯のカリカリが全部入らない日が増えてきた。

 


 おにぎりが会社で美味しいものをモリモリ食べてる事を知らないエヌ氏。後々の事だが、彼視点では食欲が落ちたように見えるおにぎりが食事量の減少と反比例するかのようにどんどん太っていく謎現象を見ることになる。そして「一体、おにぎりの体に何が起きてるんだ?」と、彼は首をかしげる事になるのだが、それについては機会があればいつかお話したいと思う。

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