第6話 山賊の襲撃

二人は"愛し合ってから日が浅そうな男女たちの肥料"を求めて村を出た。

ふとハオルドはこんなにも人と会話をしたのはいつぶりだろうと考え、少し嬉しくなった。

不老を打ち明けたのも、いびきを治すために薬草を探しているということも、初めて他人に話した。

リリーナにならなんでも話せるような気がした。


「なぁ、ハオルド。そんなに生きてたら何人も愛してきて…その…見送ったのか?」


つい緩みかけたハオルドの表情は再び硬くなった。


「……妻がいた。許嫁いいなずけで相手はどう思っていたか分からんがな。…俺なりに愛していた。一緒になってすぐ事故で亡くした。彼女はまだ若かった。それからはずっと一人だ」


「そうか…。その頃不老は?」


「……。その頃からだ。いびきもな」


妻を亡くしたハオルドは、その頃からよく眠るようになっていた。

その深い眠りに連動するかのように日に日にいびきは大きくなっていったという。

つい喋りすぎたと、焦って話題を変える。


「リリーナも俺と同じ天涯孤独なのか?」


「そうだな…。疫病えきびょうで家族全員苦しんでいなくなった。村の人達を、大切な人を失う悲しみから救いたい」


「大切な人を失う悲しみ…か。仲間想いなんだな」


「ハオルドこそ、村に食糧を配っていただろう。私の村にまで…。それに村を襲った私を…」


「利害が一致しただけだ。…っ!止まれ」


突如ハオルドがリリーナの腕を掴み、歩くのを止めた。

獣の咆哮ほうこうがけたたましく響く。

狼を引き連れた山賊たちが二人を囲み笑みを浮かべている。


「あいにく金目のものは持ち合わせていない。失せろ」


「金など要らん。その女を渡せば大人しく退いてやろう」


「私に何の用だ!」


一人の山賊がリリーナの顔に向かって松明たいまつを近付ける。


「やはりな。おい大男、その女を抱く予定はあるか?」


「何を言っている?」


「なんだ知らんのか。その女の青い目は男を知らん証拠だ。その肉体を食えばどんな疫病にもかからないらしくてな。青い目のうちにそいつの血肉が欲しい」


「おい、こいつらの言っていることは本当なのか?」


リリーナは顔を赤くし、小さく頷いた。

山賊たちが剣を取り、戦闘態勢に入る。

弓を引きリリーナに狙いを定めている者もいる。

とっさにハオルドはその大きな体で守るようにリリーナを包み込み、大声で叫んだ。


「俺と戦え!俺を殺せたならば女は好きにしろ!」


不敵な笑みを浮かべる山賊たちは狼に号令を出し、一斉に弓を射った。


「ハオルド!!!!」


隙をつき身を潜められそうな木陰に向かって、リリーナを全力で投げた。

ハオルドの背中には複数の矢が刺さり、足には狼の鋭利な牙が食い込んでいる。

抜ける限りの矢を抜き、狼達を殴り飛ばした。


「死にたいやつだけ、かかってこい!」


ハオルドは近くの木を根元から引っこ抜き叫んだ。

山賊たちはハオルドの激怒した表情と、大木を抱える剛腕さに一瞬怯み、動きが止まった。


「何をしている!相手は一人だ!切り刻め!」


山賊の一人が声を上げ、それに釣られるようにハオルドに向かって攻撃を仕掛ける。

ハオルドは大声を上げ、山賊めがけて大木を振り回し次々と遠くの方へ飛ばしていった。

それを見た残りの狼と山賊たちは悲鳴をあげながら逃走していった。

ハオルドは急いでリリーナが隠れている木陰に走り身の安全を確認した。


「おい!無事か?どこか痛いところはないか?」


血だらけのハオルドを見てリリーナの血の気が引く。


「ハオルド!私の心配より…!あぁ、どうしたら…!」


「俺のことなら心配ない、3日もあれば大丈夫だ」


「こんな傷が深くてそんな訳…!不老なだけで、不死ではないんだろう?!」


「あぁ、でも大丈夫だ。それより怪我はなさそうだな。良かった、本当に良かった」


新鮮な愛の肥料も結局見つけることは出来ず、負傷までしてしまったハオルドはリリーナと共に山奥の家に帰ることにした。

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