p30



 旅館では久遠と碧斗、王寺と一樹とで、それぞれ部屋をとっていた。

 二つ並べられた布団の片方に二人で入るという、どうにもなまめかしいシチュエーションも手伝っているのだろうか。珍しく積極的に求められている気がする。

 太腿に手を置かれ、たっぷりと味わうような愛撫を臀部にも受けて、火照るような重量感が碧斗を襲っている。

「肌がしっとりしてきてる。分かる?」

 脳梁に染み入るような色気ある声に、甘苦しい疼きがさらに強まった。碧斗は瞑目して頷いた。

 唇を深くかませあい、すぐに情動を昂らせたキスは口許で水音を弾けさせる。しとった吐息が幾重にもすり抜けた。

(感じないはずなのに)

 なんでこんなに気持ちがいいのだろう。

 怖い。怖いけれど気持ちがいい。

 キスによる気の昂ぶりで興起を始めた碧斗の前のものに、久遠が触れた。

「感じてる」

 唇を離さずに、感じ入ったように久遠が呟く。恥ずかしさにかっと頬が熱くなった碧斗は、膝をこすり合わせるようにしてそれを隠そうとした。しかし久遠の手は浴衣のあわせを開き、碧斗の恥ずかしいものを難なく取り出してしまう。

 先端に執拗な刺激をくだされ、快楽に負けた蜜口が歓喜の涙をぽつぽつと流し始める。

 それをいたわるように傘に塗り付けられれば、ぬめぬめとした感覚がたまらない。

「ここは、どう?」

 久遠がくびれをさする。鋭い感覚に碧斗の肢体が跳ねた。そこは、とても弱い。

 強弱緩急を織り交ぜて刺激を与えられれば、背骨に熱い電流が幾重にも走って、碧斗は背中を小刻みに震わせねばならなくなる。

 困るほどの快楽だ。

 ちゅくちゅくと音までさせて執拗になぶられれば、爛れて、痒いような痺れが腰全体に勃興する。

 快楽は心地よいばかりじゃない。つらくて、切ない。

 疼く蠢動は碧斗の性器を張りつめさせ、さらに泣かせる。

 碧斗自身も声にならない叫びをあげ、呼吸を乱した。

 硬直した久遠のものも浴衣を押しあげ、前合わせから飛び出ている。碧斗はおそるおそる手を伸ばしてそれを握った。固い筋肉の肢体に似合い、嵩高で、筋や血管が浮きでている立派なものだ。

 久遠を真似て愛撫してみると、その昂ぶりも涙を流すように液体を湛え始める。同じように塗り付け、なめらかに愛撫した。久遠にされるのと同じように刺激し、くびれをこすった。

「そうだ。とても気持ちがいい」

 久遠の気息もかすかに震えだす。互いに互いを絶頂へ導く、その儀式の始まりだった。

 碧斗の脚の付け根の間にできた塊は、暴れて今にも爆発しそうだ。碧斗はたまらなくなって何度も腰を前後にゆすった。

 不意に、久遠が碧斗のそれを口に含む。熱い粘膜にねっとりとくるまれ、たちまち失神しそうな快感に襲われて、碧斗は全身を痙攣させる。

 碧斗も上から久遠にまたがる形をとり、久遠の陽物を口に含んだ。

 久遠は少し驚いたようだったが、すぐに碧斗の要望を理解して、自らは碧斗への奉仕を下から続け、自分のものを碧斗の口に委ねる。

 久遠を求めてはしたない格好になったことに、碧斗は自分で興奮した。頭を大きくあげさげし、腰も激しく前後に揺さぶりながら、ぐちゅぐちゅと音をたてる。互いの口元がたてるその卑猥な水音に夢中になって、いやらしい吐息を碧斗は撒き散らした。

 碧斗の大殿筋はぴくぴくと痙攣し、性欲の度合いを露わにする。

 久遠の口内を犯し、逆にその怒張を口に受け止め、上体を上下させるまでして夢中でしごく。それに合わせるようにして久遠も腰を遣い、口ではいいように碧斗を責めたてる。碧斗は必死に悦楽を貪った。不感症だった己の肉体とは考えられないほどの感じ方だった。

 恥骨の奥が、快感に鋭く痛み始めた。

(もう、出そうだ――――!)

 一つ、大きく背中を歪めて碧斗は精を放った。それを久遠が飲み込む。碧斗の口にも精が吐き出され、碧斗も心一杯に嚥下する。

 これで互いが互いのものになった気がする。互いが本当に一つになったような気がする。

 じゅるっと拳で口許を拭って、あがった息のまま態勢を戻すと、腕をとられてかかえ込まれ、強く抱きしめられた。きつく腕を回されて、肌と肌がぴたりと合わさる。

《今日は、入れてくれる?》

 碧斗はねだる。

「また、今度。碧斗がつらくならないようなら」

 久遠は今回も、思慮深げな返答をする。

 今夜は久遠もいつもより興奮していたようだったので、おおかた入れてもらえると期待していたのに…と、碧斗は内心でしょげ返る。

 自分の欲望よりも碧斗の身を率先して考慮くれるのは、ありがたいし、何より久遠のやさしさだ。けれども、それを続けてばかりいられては、やはり寂しい。

《むりやり奪ってくれてかまわないのに》

 もともと少ない自信をますます喪失しかけながら訴えると、久遠が困ったように笑う。

「そのうちイヤというほど抱かれることになる。本当はきみが欲しくて仕方ないんだ。碧斗が俺を無理せずに受け入れられるようになったら、いっぱい抱く。これでもかと抱く」

 ならば今すぐそうして欲しいのに。

 久遠のやさしい配慮を思い興し、さらにねだる言葉をなんとか碧斗は胸にしまい込んだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る