二度目の異世界生活は難アリのようです
葉气
第1話 空から
「今宵、ここより遥か遠い世界の月下にて……導かれるは宝石の卵」
久しぶり──いや久方ぶりに俺の元に予言が導かれた。
「お、おはよう。八神くん」
教室の最後方窓側の席で妄想に耽りながら窓の外を眺めていると、クラスメイトの相田
このクラスの委員長である彼女は誰とでも分け隔てなく接し、孤高の存在である俺と対等以上に話し合える強者だ。
「ああ、おはよう」
「相変わらずいつも楽しそうだね、京くんは」
隣の席でカバンをおろし、着席する。
「楽しそう……?そうだな、もうすぐ始まる儀式を前に俺は浮ついてしまっていたのかもしれない」
「儀式?」
「そうだ」
再び俺を呼び起こすとは実に矮小で滑稽な考えだ。
だがしかし、それもまた俺という存在に導かれた運命なのだろう。
「澪ぉ〜?そんな厨二陰キャなんかに構う必要ないって。こっち来てウチらと話そーよ」
教室前方で群がる男女数人の一人である神崎カンナが、手招きするように相田澪を誘っている。
フッ………彼らには少々悪いが、相田澪と彼らではあまりにも理解応力が足りていない。
彼らのような陳腐な思考しか持ち合わせない人間が対等でいると勘違いしているのは、相田澪が自ら立つ土台を降りて彼らに合わせた土台にいるからである。
「ごめんね京くん。神崎さんたちは悪い人たちじゃないんだけど」
「──すまんが話はあとだ。もうすぐ儀式が始まる。心してかかれ」
勢いよく席を立ち、教室を飛び出した。
「……やっぱあの陰キャ結構やばいじゃん」
ここは二階。屋上までは二つの階を超えていかなければならない。
数段飛ばしで階段を駆け上がりながらも、確かに感じる魔力の流れに再びこの心臓が嬉々として踊っているのが分かる。
屋上に到着し、勢いよく扉を開いた。
学校全体を包む謎の輝く光を、八神京は知っていた。
両手を広げ、天を仰ぐようにして空虚なこの世界の空のただ一点を見つめている。
そしてその瞬間、目の前が真っ白になった。
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緑豊かな森に透き通るようにきれいな川の水が流れている。
獣の鳴き声すら聞こえず、鳥のさえずりが心地よく流れている。
「ふむ……感じた魔力は確かにあの世界のものだったんだがな」
全く見覚えのない風景に多少なりとも、ほんの微々たる戸惑いを感じた。
「……?」
耳をすませば何か、鳥のさえずり以外に聞こえてきた。
「───
────ぁ」
─────ぁぁ」
──────ぁぁああ!!!」
「ぶへっ」
甲高い叫び声とともに空から降ってきたのは人だった。
音よりも速く落下してきて俺の頭に直撃した。
直撃する瞬間に空を見上げた時には、目の前にデカい尻があった。
「いったたた……。何かにぶつかったのかしら……?」
「ぼぼい……どびべぶべ」
「ひぃぃっ!」
一目散に俺の顔から尻をどかして距離を取った。
やわらかく弾力のない尻は顔に埋もれれば致命的な状況となる。
しかし、降ってきたのは女か。
「そこの女、なぜパンツを履いていないんだ?」
「は、はあぁぁ!?変態……!」
赤面し、自らの尻を隠すようにして後ろに手を回した。
「自分の尻を人の顔に押し付けたのはお前じゃないか」
「ぐぬぬ……っ!」
なぜか悔しそうな表情をしながら俺のことを睨みつけてくる。
この俺に牙を剥くとはいい度胸だ。
「だいたい女、なぜお前が空から降ってきたのだ。もしや貴様………」
「もしや、何よ……」
俺の誕生国、日本では滅多に見かけることはないがこの世界では珍しくもない銀色の長髪に、人間と遜色ない顔立ちをしている。
「何の変哲もないただの女が悪魔の策略……とは考えにくいか」
バカ正直に落下して攻撃するなどといった単純なことをする悪魔王ではあるまい。
「おいコラ、誰がただの女だ。あぁん!?」
俺の思考をもってするにはあまりに不可解すぎる。
この俺に不可能なんて言葉は存在しない。しかし、ただの白い布にしか見えない服一枚で空から降ってくる女とは聞いたことがない。
「もしや……」
「もしや……?」
「いや。ただの変質者だろう」
この女からは魔力の欠片も感じられない上に、邪悪なオーラ一つ漂わせていない。
「それで、変質者がなぜ空から降ってきた?」
「違うの……変質者なんかじゃないの」
「じゃあなぜパンツを履かずに卑猥な格好でいる」
「だって下着つけると窮屈に感じるんだもん!パンツもなにも付けてないときの解放感って、やっぱ最高じゃん?」
「ふんっ……共感などできるはずもないが、事情は理解した。だが変質者と構っていられるほど俺は暇ではない」
女の横を通り過ぎて先へ進む。
俺にはこの世界でやらなければいけないことがある。一つや二つではない、やり残したことが。
「お願い……置いてかないでよ。私これからどうやって生きていけばいいの……」
背後を振り返ると、項垂れて地面に手をついている女の姿があった。
演技か本音か、涙を流し鼻をすすっている。
「どう………その身体を売って金にすればいいだろう」
別にアドバイスを与えてやることくらい造作もない。
勇者たるもの、慈悲深く常に高貴な存在である。
「そりゃあ、私の身体を欲しがる男はこの世界中どこにだっている。けれど女神の名を汚すことは許されない行為よ」
あの女には自分の姿がどう見えるのか知らないようだ。
なんの凹凸もない胸部に、ただデカいだけの尻。あれに魅力を感じる男がいるだろうか。
もっとも、俺が女に対して欲情するということは決して有り得ないのだが。
それよりも、この女は妙な発言をした。
「女神………」
「そうよ、私は女神。本来人間が会うことのできない存在」
「堕落したのか……?」
「うっさいわねっ!堕落してないよ!」
この女が本当に女神だというならば、この世界にいる女神は一人だけじゃないということになる。
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