第23話
「——まさか」
マリはポツリと呟いた。
「ネオワールドが意識を操ったとでも言うのですか? 本人の意識を奪って、記憶に残らないように犯罪を仕向けた……とでも?」
「可能性は、十二分に有り得ると思うがね。如何思う?」
「如何思う、ったって……。でも、仮にそれが真実として、一つ疑問がある。どのようにして——」
「——意識を奪った、か?」
わたしはマリの言葉を奪うように、そう言った。
マリはその言葉を聞いて、同意するように大きく頷く。
「それが分かれば苦労しないのだが……。ヒューマニティは何も異常を発していない以上、何とも言えない。もしかしたらスマートフォンから何かしらの催眠電波でも発せられているのかもしれないか、って思ったこともあったが」
「そんな、まさか。幾ら技術が発展しているからといって、そんなことが出来るはずが……」
堂々巡りだ。
これでは何も見つからないし、次のアイディアが出てくるはずもない。
「……イブは如何思う?」
「わたくし、ですか?」
突然質問を振られたからか、イブは少し挙動が遅かったように見える。
尤も、ロボットであるのだからそんな人間くさい仕草が出来るとはあまり考えづらいのだが……。
「そう。人間とは違うアイディアや考え方ってものがあるのかな、って思ったのだけれどね。それとも、まだ具体的なアイディアは出てこない?」
「何かわたくしを焚き付けようとしているのかもしれませんが、わたくしが人間ならばそれに乗っかることもあったのでしょうけれど、残念ながら目の前に居るのはロボットですから、そこについては失敗でしたね」
そんなことを周りくどく言わなくても良いだろうに。
とにかくこちらが知りたい情報を、サクッと言ってくれれば、それだけで良いのだから。
「……何を考えているのかは、あまり考えたくはありませんね。何故なら、」
「無駄、だと思っているからか?」
ちょっとだけイブがむっとしているような、そんな気がした。
ロボットは人間の肌とは違って柔らかい体をしていないから、そんな表情の変化など見えるわけがないのにね。
「無駄だとは一言も言っていませんし、思ってもいませんよ。だって人間はロボットを作り上げた。つまり、人間の予想の範疇にロボットが居る——それは今までの常識なわけでしたから」
「でも、それは今は違う。……あんたは、自分で物事を一から考えることが出来るんだろ。人間が書き上げたプログラムの範疇を通り越して、創造主たる人間の考えを裏切ることだって容易に出来るんだから」
「……わたくしのことを随分と買っているようですけれど、だからと言って何も出ませんよ?」
そう思ってくれているのならば、別に良いよ。
こっちだって何かリターンがくると思っていないし。
「……で、何かアイディアはないってことで良いのかしら?」
わたしではなく、マリが質問をした。
痺れを切らしたのかもしれないな——わたしとイブの、ふわりとした押し問答に。
マリはタイムパフォーマンスを大事にするからね。一時間かけて解決することが、少しでも縮まる可能性があるならば遠慮なくそれを使う。仮にそれが変な手段であったり、誰かの顰蹙を買ってしまったとしても……。
「いずれにせよ、一つでも可能性があるならば向かうべきでしょう。そう思いませんか、お姉様?」
何かあったっけ?
不毛な話し合いをずっと続けていたような気がするけれど、一つでも何か具体的なアイディアって存在していたかな。
「お姉様。それはネタとして受け取りますよ。……もし本気で言っているのならば、病院に行くことをお勧めいたします。もしかしたら、何か病気になっている可能性がありますから。さっき言いましたよね? 放火事件。あれはホームレスが犯人として捕まっているのに、なぜそれをしたかと言うのを全く覚えていないという、何とも不思議な事件。このままでは——きっと迷宮入りしてしまうことでしょう」
ああ——そうだった。
遠く離れたわたしの住んでいるところでも起きていたことが、ここでも起きていたのだ。
もしそれもヒューマニティが検知していないことだとすれば——。
「——ネオワールドはヒューマニティを操作することが出来る。それはまずいと思いますし、仮にそうだとしたら、如何してそれを悪用しないのでしょうね? やろうと思えば、ネオワールドはヒューマニティを装備している何十億人もの人類をコントロールすることだって出来ると言うのに」
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