インタビュー記録(一部抜粋):2022/08/11
インタビュー対象者:北田■■氏
旧■■村の元住民・84歳・女性
えぇ、たしかにそのような話はあったと記憶しています。
ただ……信仰だとか伝承だとか、そのような大袈裟なものではないんです。私が子どもの頃に両親から聞いて、両親はそのまた両親から聞いた昔話のようなもので。ですから私が直接何かを見たりしたわけではないのはもちろんのこと、身近な人間が実際に会ったという話すらも……少なくとも私の知る限りではないのです。何代前なのかもハッキリしない遠い遠いご先祖様が、亡くなった死者を想いながらあの山を登っていると山頂でその人に会えたらしい……という話が住民のあいだでのみ、かろうじて伝わっている。それだけなんです。それを示すような古い文献があったわけでもなければ、■■山に何かが祀ってあったわけでもありません。私自身、本気で信じているわけでもありません。たしかに何もないところから、そういう話は生まれないかもしれませんが……しかし、それ以上のことを私は知らないのです。
──妖怪?すみません、私にはさっぱりで……生まれてからずっと私はあの村で生きてきましたが、小耳に挟んだことすらありません。何か別のことと勘違いされているか、誰かが作った噂話でしょう。事前に旧■■村のことをお調べになったのなら、そのような話はなかったはずです。あなたは何かを知りたくて、あの村のことを調べた。ただ満足する情報が得られずに、私のところへ赴いたことと思います。でも恐らく、それで全てなんです。情報が出てこないのは、それだけ何もないような平凡な村だったということを示しているだけなんです。どうしてもと言うなら、■■山を探し歩いてはいかかでしょう。何もないと、お分かりになるはずです。
……まだ、納得されていないご様子ですね。
あなたが何を知りたくて、あるいは何を求めて此処に辿り着くに至ったかは存じませんが、今一度ハッキリと申し上げておきます。
旧■■村は、ただ時代の流れに取り残され、そして消えていった無数にある村落のひとつに過ぎません。
あそこには時代遅れの因習も、わけのわからない土着の神も、血生臭い儀式も、胡散臭い言い伝えもありません。そしてあなたが求めているものも、恐らくありません。そこに静かにあって、皆で静かに生きてきた。ただ、それだけのことしかありません。すみませんが、私からお伝えできることはもうないのです。
だから、これ以上はどうか……
他を当たって、もらえますか。
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