It's a small world

山田

Le Mat:愚者

#1

「ねーねー、杉本君に松田君、恋占いやらなぁい?」


 傾いた夕日が空を赤く染めながら、教室の窓をすり抜けて俺らを照らす。


 この時期には風物詩とも言える蝉時雨がノイズとなって俺の脳内を反芻させているせいでかなり不機嫌なのに、占いなんて不確かな物考えを押し付けようとする声に俺は思わず苦い顔をした。


 残念ながら俺は、占いなんて丸っ切り信じちゃいない。


 慎まやかで浪漫に溢れた女子群ならまだしも、何が虚しくて大学生の男2人がそんなおままごとに参加しなくてはいけないのか……。


「いや、俺らはもう帰るし」


 ため息混じりに恋バナの余興に誘われて不愉快な俺──松田 修也は、声を掛けた女子達を冷たく一瞥した。


 しかし、俺の隣にいる『杉本君』もとい杉本 翔太は、ポメラニアンみたいにクリクリの黒目がちな瞳を輝かせて俺の顔を見ると、今にも跳ねそうな勢いで栗毛色の髪を揺らして笑う。


「なぁ、楽しそうじゃん!……ほら修也も折角だからやろうぜ」


 ──あぁ、本当に……本当に皮肉な話だ。


 無表情よりは人間味のある呆れた表情を表に呈しつつも、俺は心の中でひどく悲嘆に暮れていた。


「そうこなくっちゃ!……じゃあ、2人ともここに座って」


 俺の言葉など最初から聞いてすらいない様子の女どもはノリの良い翔太の手を引くと、半ば強引に椅子に座らせる。


「へーい」


 そんな状況でも楽しそうに目を細めた彼は俺の名前を一際大きく呼んで、「早くやろー」と手を差し出す。


 ──もしも、その手を迷いなく俺が掴んだとして、その掴んだ俺がお前に不純な気持ちしかないと知ったらお前はどうする?


 喉の奥から這い上がってきた言葉を奥歯で噛み締めた俺は翔太の手を叩いて払い除けると、「さっさと帰らせろ」と態とらしく文句を垂れてみせた。


「素直じゃないなぁ、修也は」


 子供みたいな笑顔に穏やかな声と柔らかな仕草……その全てが俺の心を痛めつけて蝕む、甘い毒牙に他ならない──。

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