第6話 初体験
「入れるよ」
たっぷり私の体にキスをして、舐めて、体の中も掻き回した彼が、興奮して濡れた声で言う。
そのあと挿入されたけれど、痛くてやっぱり気持ちいいと思えなかった。
「痛いっ」と思わず言ったあと、賢吾くんは「ごめん」と謝ってしばらく動かずにいてくれた。
落ち着いた頃、彼はゆっくり動き、私は痛みを堪えたまま、なぜか喘ぎ声を漏らしていた。
疼痛は残っているのに、どうしてかそういう声は出るものらしい。
終わったあと、私たちはしばらく裸のままベッドで抱き合っていた。
何でもない、とりとめのない話をしてクスクス笑う時間のほうが、正直セックスをしているよりずっと幸せだった。
その日、私は皆より先に大人になり、賢吾くんと二人だけの秘密を作った。
***
夏休みに入り、皆と連絡がとれなくなった。
グループチャットは作っているけれど、そんなにベタベタした関係ではない。連絡するのが得意ではない男の子は、まったく連絡がないままだ。
いつものメンバーのグループチャットの他に、女子メンバーでのグループチャットがあった。
『ねぇ、あかり。合コンいかない?』
ムードメーカーのハルに、そう誘われた。
『やめときなよ。あかりは高沢くんが好きなんだから』
それを制したのは、まじめな所のあるサヤカだ。
『でも付き合ってないでしょ? 人数足りないんだ。付き合ってないなら義理立てる事なくない?』
カナも合コンに参加するらしく、彼女はどちらかとうと人数を合わせるほうを重視している。
友達からそんな誘いがあり、私は自室で溜め息をつく。
合コンに行きたいというより、暇だから友達に会いたい気持ちはある。
家は埼玉にあり、いつもそこから電車を乗り継いで通学していた。地元を悪く言うつもりはないけれど、色々ある東京の楽しさに比較すると、長年住んでいる自宅周辺はつまらない。
定期券もあるし、大学がある区間内ならどこででも下りられる。
(確かに、付き合ってはない……よな)
悲しいけれど、それは事実だ。
大学デビューした身としては、純粋に社会勉強として合コンを経験してみたい気持ちがある。
『いいのかな?』
迷っている旨をメッセージに打つと、サヤカが尋ねてきた。
『高沢くんと仲いいけど、付き合ってるの? だったら下手に誘わないほうがいいと、私は思ってる』
私はスマホの画面を見たまま、唇を噛む。
あのあと、何回か賢吾くんとエッチした。
けど抱かれてしまったからこそ、「私たち付き合ってるよね?」と言いづらくなってしまった。
もしこれでセフレ扱いされたら、立ち直れなくなりそうだ。
毎日顔を合わせている学友なのに、雰囲気を悪くしたら皆にも気を遣わせる。
それならこのままでもいいんじゃ……、と思う自分がいた。
『付き合ってる……、とは言われてない。仲がいい自覚はあるけど』
『傍から見たらラブラブだけどね』
カナがキャラクターが笑っているスタンプを送る。
『やめとく? それとも付き合ってないなら参加だけしてみる? ぶっちゃけ私の感覚だと、数合わせで合コンに参加する程度なら浮気に入らないと思うけどね。よっぽど束縛が激しいなら別だけど、高沢くんって淡泊っぽくない?』
ハルがメッセージを送り、私は少し考える。
興味はある。確かに合コンのあとにお持ち帰りをされないなら、健全な飲み会と言える訳で。今の時代、男女が同じ席でお酒を飲んだだけで浮気なんて言ったら、ただのモラハラだ。
『……じゃあ、行く。数合わせで参加するだけ。社会勉強として』
『OK! 私たち、高沢くんにチクったりしないから、安心して!』
そのようにして、合コンに参加する事が決まった。
夏休みだし、賢吾くんとは「会おう」と言って会わない限り、埼玉と文京区とではなかなか巡り会う事もないだろう。
今回の合コンの居酒屋は恵比寿だし、大丈夫。
心のどこかで後ろめたい感情を抱きながら、私はキャラクターが「ありがとう」と言っているスタンプを送った。
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