第40話 リーダー決め
誰がこの曲者だらけ、血気盛んな〈特進〉クラスを治める【王】になるか、そしてその選定方法は如何にして決めるのか――――答えは既に事前のヴォルト先生の発破で提示されていた。そしてクラスの殆どの生徒————特に〈試験組〉の生徒は即答であった。
「一番強い奴がここのリーダー。それしかないだろ」
とは〈試験組〉の頭目であるガイナ・バスターくんの言である。
「そうだね。それがお互いに納得できる選定方法かな。でも一つ条件が────」
そして、その意見には自然と〈推薦組〉を取り纏めることになったクロノス殿下が肯定した。
そんな順調すぎる話し合いに俺は辟易としていた。流石は魔剣学院、やはりどいつもこいつも頭が脳筋だ。あの王子殿下でさえ何の迷いもなく戦うことを選んだのが驚きである。
————一度目の時はもう少し思慮深い印象だったが……。
所詮は大した関わり合いのない相手、一度目の人生で培った知識など少し調べれば誰でも知り得ることのできる常識ばかりだ。生来、身内同士でも王位争いや、派閥の諍いで荒事の絶えない王族だ、よくよく考えれば別に不思議な話でもなかった。
「それじゃあ、具体的な形式は────」
〈試験組〉と〈推薦組〉は互いの信念の元に真剣な様子で細かい取り組みを進めていく。
各派閥で代表者一名を選出、そして各々が出した代表者同士で本気の決闘をする……等々。最初こそ「乱戦をしよう」とかアホを抜かしていた〈試験組〉だったが、それでは流石に時間が掛かりすぎるし、戦いたくないと辞退する生徒もいた。もちろん、俺も無駄な争い事は嫌なのでこのリーダー選定には参加する気はない。なんとか無駄なヘイトを解消しようとも思ったがそれはまたの機会だ。勝手にやってくれと言った感じである。
「勝負……決闘ってことね!レイ!私と勝負よ!!」
「うん。お前、話聞いてた???」
やいのやいの色めき立つクラスメイト達に感化され、ただ一人、「戦う」と言うことしか理解してない
「お前が騒ぐとややこしくなるから少し黙ってようね」
「ぶー!!」
「ぶー、じゃありません」
このクラスの
────キャラがブレブレじゃねえか……。
なんてやり取りをしているとクロノス殿下がこちらに話を振ってくる。
「レイ、君達ももちろん俺達の陣営だろう?」
「え?ああ、はい。そうっすね……」
どうやら俺とフリージアがどちらの陣営に入るかの確認らしい。地味に「君達」と一緒にされたのは不服だが、彼らと同じ〈推薦組〉の俺達の選択肢はそれしかない。仮に〈試験組〉に肩入れしようとしても、そもそも仲間に入れてもらえないだろう。
「よし、それじゃあ作戦会議に混ざってくれ」
俺の適当な返答を聞いてクロノス殿下は嬉しそうに頷いた。
「あ、はい」
前述した通り、俺はリーダー決めなんてどうでもいいし、勝手にやってくれと言った感じなのだが、ここは変に尖らず素直に彼らの輪の中に入ろう。それこそ目立つからな。〈特進〉クラスの〈推薦組〉と〈試験組〉の細かな人数内訳としては推薦が十人で試験が十五人。五人ほど〈試験組〉の方が頭数は多い。
「この中でリーダーに立候補する者はいるかな?」
「「「……」」」
クロノス殿下の確認に〈推薦組〉陣営の俺を含めた生徒たちは何も言わない。俺は勝手に王子がなるもんだと思っていたが、他の連中も同じ考えだったらしい。まあ普通に「やりたい」と思ってもここは王子殿下を立てるべきだろう。
────実力至上主義とは?
そう思わないでもないが、まだ学院に入って二日目の少年少女にそれを言うのは少し酷な話だろう。まだこの学院の常識すらまともに理解できていないのだ、馴染めてる方がおかしい。
「それじゃあこの決闘に勝ったら俺がこのクラスのリーダーになるわけだが……正直に言って俺は戦うことがあんまり得意ではない。だからこの中の誰かに代わりに戦ってほしいんだが――――どうだろう誰か俺の剣として戦ってくれる人はいないだろうか?」
自嘲的に笑った王子殿下は懇願するように俺達に頭を下げた。一国の王子が学院の一生徒に頭を下げるというのはなかなか肝を抜かれるが、誠意は十分に伝わった。しかし、俺達はやはり何も答えない……と言うよりかは互いが互いの出方を伺っている感じだ。
まだ同じクラスになって二日目、本格的に話しをするのも初めてなのだ、ここで出しゃばれるほどの胆力を持った人間はいない。そもそも「代表の代理なんて認められるのか?」と疑問も浮かんだが、王子が提案したのだからいいのだろう。そこら辺の詳しい取り決めは聞いてないからよくわからなかった。
依然として様子見の均衡状態。それを見かねて殿下が意見を出した。
「この中なら……グレイフロスト嬢、どうだろう、代表戦に出てくれないかな?」
「え?私ですか?」
殿下に指名されたフリージアは首を傾げる。
————そりゃあいい。
今も「決闘」と聞いて興奮していたし、戦闘狂の彼女ならば喜んで引き受けるだろう。そう判断してか王子殿下の押しも強い。
「うん。君は去年の剣術大会でも上位入賞しているし安心して任せられる。どうだろうか?」
「うーん……」
なんだかよく分からん補足情報まで出して説得する殿下、対してフリージアは思いのほか淡白な反応だ。この女が戦えると聞いてここまで冷めた反応をするのは珍しい。
————俺から「勝負だ」なんて言おうものなら飛びついてくるくせに……。
妙な違和感を覚えながら、どう返答しようか考え込んでいる彼女の様子を伺っていると不意に目が合う。そしてニヤリと笑みを引きつらせて戦闘狂は口を開いた。
「それならここに私より強い人間が一人いるわ!」
「ほう、それは?」
途端に得意げになったフリージアを見て、殿下を含める他の推薦組は次の彼女の言葉に期待する。逆に俺は今の彼女の言葉で嫌な予感が駆け巡った。
————まさか……。
「私の隣にいる彼、レイが代表戦に出れば確実に勝てる!なにせ、私はレイに一度だって勝てたことがないもの!!」
どうして負け越している相手のことをここまで自慢げに話せるのか。彼女の真意は定かじゃないが、やはり俺の嫌な予感は的中した。
「なるほど────」
「……」
王子殿下含め〈推薦組〉の視線が一気に俺へと集まった。殿下とグラビテルの令嬢は納得と言った様子だが、他の名前もよく覚えていない生徒は半信半疑と言った様子。なんなら信じられないといったようにひそひそと密談を始めた。
彼らも俺の噂を全部ではないがそれなりに信じてるらしい。そのまま彼らが俺の選出に異議申し立てをしてくれれば何とか危機を脱せたかもしれないが、現実はそう上手くはいかないらしい。
「────婚約者の直々のご使命だ。どうだろうレイ、俺の剣として戦ってくれないか?」
「えーーーーっと……」
なんだか殿下のその言葉には「これからも」的な意味が含まれているような気がする。そんなの絶対に勘弁だが、今この場で素直に「無理です」と断ることはできなさそうな雰囲気だ。
「話し合いはまだかかりそうか?」
既に〈試験組〉陣営の話し合いは終わっている。ここで辞退をしてグダグダと話し合いを長引かせるのは憚られた。それを感じ取った〈推薦組〉の仲間が「もうお前でいいよ」と暗に視線を向けてくる。何よりも、隣の策士系お嬢様が期待の籠った綺麗な瞳を蘭々と輝かせているのが鬱陶しい。
————クソ、こういう時だけ一度目みたいなことをするなよ……。
致し方なく。大変、遺憾ながら腹を括る必要があるらしい。どちらにせよ、ここまでくれば詰み。俺はまんまと追いやられてしまったわけだ。
「分かりました。今回だけ、殿下の為にこのクレイム・ブラッドレイが貴方の剣として戦いましょう」
「今回だけとは言わずにこれからずっとでも構わないよ」
「————考えておきます」
序でに、ここで〈試験組〉の変なヘイトを少しでも解消させてしまおう。一度は諦めた目標ではあったが、図らずしてその機会は訪れた。
────気持ちを切り替えよう。
それを抜きにしても俺に話を振ってきたフリージアは絶対に許さない。
そうして代表戦が始まる。
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