第18話 厳しい妃教育 ※マルク王子視点

「マルク様ッ!」

「おっと、どうした?」


 いきなり部屋に入ってきて、私の名前を呼んだのはアイリーンだ。部屋に突入してきた勢いのまま、私の体に抱き着いてきたので受け止める。


 アイリーンが、椅子に座っていた私の上から覆い被さるような体勢になる。


 両親にアイリーンとの関係を認めてもらい、正式に婚約した私たち。だけどまだ、結婚はしていない。こんな姿を誰かに見られたりしたら、小言を言われそうだ。特に礼儀作法の教育係なんかに見られたら、しつこく注意されるだろう。


 人目を気にせず甘えてくるアイリーンは、可愛いんだけどな。


「おいおい、はしたないぞ」

「そんな事より、聞いてくださいマルク様!」

「一体何があったんだ? とりあえず落ち着いて話してくれないか?」


 そう言うと、ようやく落ち着いたのか私から体を離すアイリーン。だけど、その顔には不満の色がありありと浮かんでいる。


「妃教育が厳しすぎるんですよ! あんなの、絶対に無理です。辛すぎます!」

「だが、ちゃんとしておかないと。王妃になった時に困るんじゃないか?」

「それは……。はい、そうなんですけど」


 しゅんとした表情になるアイリーン。彼女も、将来の為に頑張る気はあるようだ。けど、やっぱり厳しいらしい。


「それなら、頑張らないとダメだろう? それに君は将来、私の妻になるんだ。王妃になるために、今から頑張って勉強するのは当然じゃないか」

「……はい。でも、やっぱり辛いものは辛いんです。あんなのを続けないといけないのなら、私には無理です。王妃の座は、他の誰かにお譲りします」


 うーん、これはちょっと問題だな。このままでは本当に諦めてしまいそうだ。つい先日、オリヴィアとの婚約を破棄したばかり。それでまた、アイリーンから別の婚約相手に変わることになったら色々と大変だ。私の評判も悪くなるかも。


 妃教育が辛いという理由で、アイリーンに王妃の座を諦めさせるわけにはいかないのだ。


「わかったよ。私から、担当の教育係たちに伝えておく。もう少し、内容を緩くするようにってね」

「はい! ありがとうございます!」


 私がそう言ってやると、アイリーンの顔に笑顔の花が咲いた。不満は解消したようだな。とりあえず、これでいい。



 しかし、アイリーンがここまで言うなんてね。


 もしかすると、オリヴィアも辛かったのかな。でも彼女は、文句を言わなかった。そんなの、気付けるわけがない。


 それで常に不機嫌だったり、ストレスを発散するためにイジメを行うのもどうかと思うが。イジメの件については不確定だけど。とにかく。


 アイリーンのように素直に言ってくれないと、分からない。今になって考えても、意味はないか。オリヴィアはもう、私の婚約相手じゃないんだから。

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