第10話 妖精猫的異世界ライフ

肉球を見て少しホッとした。昆虫系や芋虫系ではなく、動物系である事は確定だ。


肉球に力を入れると爪が出てきた。指の先端にもう一つ関節があり、そこから爪になっている感じである。爪は脱力していると指の背側に折り畳まれた状態になるが、力を入れると爪が指の先に出てくる仕組みである。


体を見ると、毛皮を纏っていた。もちろん、毛皮のコートではない、自分の皮膚から毛が生えている。足も、身体も同様であった。


自分の背後を見れば、尻から伸びる50センチほどの尻尾が見えた。(身体が妙に柔らかく、自分のお尻を余裕で見ることができた。)


近くに泉があったので近づいて覗き込んで見た。すると、そこに映ったのは―――


二足歩行の大きな猫が居た。


……おっと、一瞬、自分だと認識できなかった。


理解した後も、自分が人間でない事の強烈な違和感に少し焦る。


だが落ち着け、俺。


俺が自分で人間じゃない種族を選んだんじゃないか。


落ち着いて見れば、美しい毛並みである。


色は単色……グレーというにはやや濃く、黒というにはややうすい。しかも青みがかっている。紺色というよりは、黒だが光の加減では青っぽく見えるという色あいであった。概ね黒猫と言っていいだろう。


確かオスの猫は遺伝子の関係で三色(三毛)にはならないという地球での雑学がふと頭に浮かんだが、そもそもこの世界の生物の遺伝子が地球と同じとは限らないので忘れる事にした。


毛並みは最高、自分が人間であったらモフりたいと思ったであろうが、自分でやってもそれほど気持ちよくはなかった。あれは、毛皮のない人間の肌だから気持ち良いのであって、毛皮で毛皮をモフってもあまり意味はないのだ。


姿形はともかく。


まずは能力の確認だ。


俺が要望した通りならば、魔法が得意な、この世界で自由に生きられる強さを持った生物のはず。


ステータスボードを下にスクロールしていくと、魔法に関する情報が出てきた。


魔力量は5000と表示されている。これが多いのか少ないのか良く分からない。


後で検証する事にする。


魔法は全属性と書かれていた。これではどんな属性があるのか分からない。


だが、全属性の文字だけ色が違ったので、肉球でタップしてみたら、内容が表示された。


属性は


光・闇・火・風・水・土・無


とあった。


それぞれをさらにタップしてみると、使える魔法がずらりと表示された。ラノベの異世界モノに出てくるような魔法はだいたい網羅されているようだ。


試しにいくつか使ってみる。


まずは攻撃魔法の基本中の基本、火球ファイアーボール


「おお~」


掌の上に火の玉が浮かび上がり、思わず声を上げてしまった。


その火球を、正面にあった木に向かって放つと、かなりの速度で飛んでいった。線上の残像を残し、火球は木に衝突し、爆発。


結構太い木だったのだが、幹が折れて倒れ、燃え上がり始める。


「おっと、森の中でこれはまずいかも?」


慌てて俺は、今度は水球ウォーターボールを使ってみた。


打ち出された水球は燃え上がる木にぶつかり、無事消火する事ができた。ただ、水球もかなりの威力があるようで、火は消えたが同時に木もさらに砕けて飛び散ってしまった。


次は風……風刃ウィンドカッターである。爪を出し、別の木に向かって引っ掻くように手を振りながら風刃を放つと、目標にした木の幹が四つに分断されて倒れていった。爪を出したのはなんとなく雰囲気だったのだが、爪の数だけ風刃が出たようだ。


試しに、風刃を、飛ばすのではなく爪に纏わせるようにしてみたら、爪で引っ掻いた部分がキレイに切れていった。


面白がってその辺の木や岩を切ってみたら、岩まで両断できてしまった。前世のマンガにこんな拳法を使うキャラが居た気がするな…。それに習ってにゃんと猫拳とでも名付けようか?


おっと、いけない、魔力消費量を計測しないと……


ステータスを見てみると、先程5000と表示されていた魔力量が4984になっていた。


もう一度、風刃を空に向けて放ってから魔力を見ると4982に減っていた。風刃一回2MP? いや待てよ、俺は爪を一本だけにして風刃を飛ばして確認してみた。


変わらず4982のまま。


もう一度。


今度は4981になった。


やはりだ、風刃2回で1MPか。爪を四本使ってやると、四倍消費するということだ。爪四本分、風刃4つ同時に飛ばすと一回2MP消費するわけである。


だが、どうやら爪に風刃を纏わせる場合は、どうやらさらにその半分で済むようであった。


火球も水球も同様、どうやら二発で1MPという計算らしい。(ステータス表示は小数点以下は四捨五入されて表示されるようだ。)


「つまり、マックスMPが五千にゃから、火球なら一万発は打てる計算にゃ…」


……声に出してみたら言葉に『にゃ』が勝手についてしまったんだが…?


「まぁこれはお約束ってやつかにゃ?」




  +  +  +  +




ふと見ると、泉の対岸に何か実が生っている木がある事に気付いた。


近づくと、俺の身長では木の実に手が届かない。かなりしっかりした爪があるので木登りもできそうだったが、ふと、先程の風刃を小さく一つだけ、実のヘタの部分を狙って飛ばしてみたら、見事命中、実が落ちてきた。


「鑑定!」


先程使える魔法をチェックしている中にちゃんと鑑定があるのも確認済みである。


そして表示された内容は……


――――――――――――

【ラキシスの実】

食用

非常に美味

食べると色々回復する

――――――――――――


と出た。


早速齧ってみると、異様に美味い。ほっぺたが落ちそうなという表現が日本にあったが、異世界に来てそれを実感するとは思わなかった。(ちなみに味は密たっぷりのりんごと桃を合わせたような味であった。)


“色々回復する”と書いてあったので、もしかしてと思ってステータスを確認すると、魔力が5000に戻っていた。


なるほど、これは便利。


「しばらくこの泉を拠点に活動するかにゃ…」


水も食料もある。次は―――寝床か? 猫だから濡れるのは……いや猫でもなくても濡れながら寝るのは嫌か。


ならば、次に試すのは……




― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―


※この【名無版】は周回遅れ投稿となっております。

先行投稿のオリジナル版(戯曲形式)はこちら

https://kakuyomu.jp/works/16818023212593380057



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