勇者のお仕事二巻前編【旅情激闘編1】
伊上申
プロローグ
プロローグ
「……ここにいたのね、テラ」
荒れ果てた村落の外れにある小高い丘。小さな墓石が二つ並んだ前に祈りを捧げる一人の青年。背後から名を呼ばれた彼は振り返る。
「うん……。最後の、お別れを言いにね」
「そうね。ここに戻って来られるかどうかも分からないから……」
テラの名を呼んだのはセレンと言う人物だった。肩まである疎(まば)らな髪を後ろでひとつに結えている。目にかかりそうな前髪をそっと払い除けて憂いを帯びた瞳でテラを見る。
「戻ってくるさ……必ず。その為に俺はもう一度アイツに会わなければならない」
何かを決意したようにテラは力強く言い放つと、側にいたセレンの腰に手を回し自身の胸にセレンを抱き入れた。
「ーーそうじゃな」
テラの言葉に賛同するように背後から可愛らしい声が聞こえ、テラとセレンはそちらを振り返る。
そこには幼い少女と、彼女に寄り添うように傍(かたわら)に立つ赤毛の男性の姿。
「それと。朕(ちん)はお前が言う『じいちゃん』にも会ってみたい」
幼女――ノリスは自身の背丈よりも高い錫杖(しゃくじょう)を軽々と振り上げた。そうすると彼ら四人の側に、荒れた大地の視界がボヤけて淡い白色の光を帯びた空間――異次元とも言うのだろうか――が何もなく浮かび上がった。いわゆる、【時空間転移(じくうかんてんい)】と言う高度な魔術の一種。
テラとセレン、ノリスと赤毛の男性の四人がその空間に吸い込まれるように入ると空間は跡形もなく霧散して消えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます