第8話

「いえね、千冬が寝た後、女の子なのに、こんな怪我させられて可哀想にと思って触ったの。そうしたら治っちゃった」


 その時の再現なのか、私の頬に手の平を添えるおばあちゃん。


「もう本当にびっくりしたんだけど、もしかしたら夢かもと思って寝ちゃった」


 わかる〜! 私も寝て起きたら我が家にいると疑わなかった〜!

 てかあっさり言ってるけどおばあちゃんすごいな!? もうRPG要素がすごい! 才能ありすぎては?


「白魔術か。ば……おばあさんは、なかなか才能がおありのようだ」


「おいこら! おばあさんて呼ぶなよ!」


「はあ!?」


「どう見てもおばあさんて見た目じゃないだろ! 孫でもないくせにやめろ!」


「えぇ……」


 すんごい面倒臭そうな顔をしている。

 違うんだ、なんか嫌だったんだ。


「また千冬は変なことを……トリスさん、名前でいいですよ」


「えっ」


「私は孫という立場上、おばあちゃんと呼ばざるを得ないけど、こんなに若々しくて背筋もしゃんとして美人なの奇跡でしかないしババアとか言語道断だしもう、でもおばあさん、おばあちゃんと血も繋がってないのに呼ばれるのはちょっとうんぬんかんぬん……」


「こうなった千冬は死ぬ程面倒なので、どうぞ気軽に千登世とお呼びくださいな」


「チトセか。わかった」


「よっ呼び捨て!? 家族でもないくせに!?」


「千冬。いい加減にしなさい。いちゃもんばかりつけるのは底意地が悪いですよ」


「!!!……ご、ごめんなさい」


 ガチで怒られた。いや確かにちょっと意地が悪かったかな……。よく考えたらこいつ以外が言ってもそんなに気にしなかったかもしれない。近所の子供達が「ちとせおばあちゃん」「ちとせさん」って言って言っても気にしないもんな……。


 なんて、しょんぼりとしつつ反省していたらボソリと小さな呟きか聞こえた。


「本当にめんどくせぇなコイツ」


 聞こえてるからな!!

 多分、私がこいつのこと気に入らないからなんだろう。私もなかなか嫌な女だなぁ。


 なんてことがありつつ、気づけば城に着いていた。


「あ、トリス様! レオルカ様が騎士団の訓練場へ来いとの言伝です」


「何だってそんな所で……」


 近衛兵らしき人の伝言に首を傾げつつも、トリスは「こっちだ」と歩を進めていた。

 そういえば、割と最初から思っていたのだけれど……、


「トリス、さまは騎士様の隊長か何かなんです?」


「ん? ああ、まあ。隊長だ」


 やっぱりそうなのか。まあ皆敬語で話していたしだろうとは思った。


「ふーん」


「お前が聞いたんだろう……何だその反応は」


「え? 何だと言われても……でしょうなとしか……」


 リアクションがお気に召さなかったらしい。とは言え確認しただけで別にすごい興味があったわけではないので、何かごめんなさい。 


「あら、目的地はここかしら」


「ん? ああ、そうだな。レオルカ様は……」


「おーいトリス!!」


 トリスを呼ぶ声。それは若い男の声で、視線を向けるとこちらへ走ってくる白髪の男がいた。

 あの男が、レオルカ様とやらだろうか?


「やっときてくれた! 楽しみすぎてふっ飛んできた! で、そちらが召喚されたお二人?」


「そうだ」


「はじめまして、オレはレオルカ! 君達が孫とおばあちゃん!? 嘘だろ!? 親子かと思ったよ!」


「!」


 こ、こいつ!!


 わかってるじゃないか〜〜〜〜!!


「そうでしょうそうでしょう!! おばあちゃんと呼ぶのも憚れるレベルでしょう! 15になる孫がいながらまだ50代のおばあちゃんはおばあちゃんにあらず!! 若々しいでしょう! 間違ってもばばあなんて言葉は出てこないはずなのです!」


「おばあちゃんにあらずじゃないよ。おばあちゃんだよ千冬。貴女は私の孫だからね? 私の娘の娘なんだからね?」


「……これ、ずっと言われるんだろうな……」


「……千冬はしつこいからねぇ……」


 あれっトリスとおばあちゃん会話してる!? ちょっと打ち解けてきてない?

 なんで!? おかしない!?


「ああ、そのことね。ごめんね。トリスは年下趣味だから。30から上は皆ばばあなんだよ」


「は?」


「何だって!?」


「今アイツは26だからね」


 まじかよ。判定厳しすぎでは? 30からばばあ? 今日日生意気盛りの小学生か?


「おいっなに勝手なことを……」


「しっ」


「トリス、さん」


 ここは、私が。大人になるべきか。



「そういう性癖なら、昨日のことはもうやんややんや言わないです。目を瞑ります。でも、次言ったら絶対に許しませんから。30からばばあなんて女性を敵に回しますよ」


「いや、ちが」


「うん、ほんとごめん。オレも気をつけて見とくからさ。失言しないよう見張っとくよ」


 何故かレオルカさんが謝ったけどもう触れないでおこう。


「(何人の性癖を歪めてくれてんすか!? 年下は好きですけどそこまでじゃあ……)」


「(このくらい言わないといつまでも敵視されるじゃんか。むしろ感謝してほしいね! 話は大体聞いてたからこれからの為にも印象は変えないと)」


「(決して好印象になったわけではないんすけど)」


「(敵視されなくなっただけマシだろ!)」


「(はぁ……)」


 あそこは男2人で何こそこそ話してるんだろう。

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