第3話 ゾンビと勇者




 俺達は石造りの部屋の大きな魔法陣の上にいて、正面には騎士や兵士、神官、魔法使いっぽい恰好の人達と姫っぽい女の子がいた。


 俺の周囲にはクラスメイト達とゾンビがいた。


 そしてまず目に入ったのはゾンビに襲われている女子だった。

 ヴぁぁぁぁああ!! 「キャー!!」

「危ない!」 ブン!ドカ!

 俺はとっさに持っていたバットでゾンビを殴った。

 ゾンビは凄い勢いで兵士の方に飛んでいき地面を転がった。


「なんだ?!」「うわあぁ!」「姫!お下がりを!!」


 ゾンビはまだ10体以上いる。マズいぞ。

「オラ!」「えいやっ!」「はっ!!」

 剛士とハイドがゾンビを殴った。二人はこういう時に何も言わなくても動いてくれる頼れるヤツだ。

 剣道着を着た女子もゾンビと戦っている。


「ゾンビです!助けてください!」 俺は騎士と兵士に向かって叫んだ。


「く!!わかった!!」「行くぞ!!」「おう!!」 騎士と兵士はすぐ動いてくれた。


 安本と黒井もバットで戦いだした。


「ぎゃー!!」「キャー!!」「あゆみ!!」

 ヴぁぁぁぁああ!!「優香ぁぁ!」


 ヤバい噛まれたヤツがいる!


 ビュン!! 「オラ!!」

 俺が走って行ってゾンビを殴り飛ばす。なぜか体が軽いしゾンビを易々と吹き飛ばせる。

 それより噛まれたヤツだ。


 3人噛まれている!マズい!そうだ!

「治療をお願いします!」 俺は神官らしき男に向かって叫んだ!

 反応して神官が寄ってくる。

 わけが分からない状況だが、魔法とかあるんだろ? 頼むぜ。


「死んだらゾンビになるから注意して!」 剣道着の女子が言った。薄汚れていてよく分からなかったが、同じクラスの剣道部の日野だ。

 言いにくいことを言ってくれて助かるぜ。


 噛まれたのは、俺達と一緒に行動していた女子2人と別行動だった男子1人だ。女子は俺達とよく遊んでいたグループのあゆみとオタク女子の有岡さんだ。女子はバットを持っていなかったから突然目の前にゾンビが現れてどうしようもなかっただろう。やられた男子の方は部屋着っぽい恰好で靴も履いていない。竹下だな。家で休んでいたのかもしれない。


 神官が何か呪文をとなえると光を放ち有岡さんが治っていく。


 騎士と兵士のおかげで他は片付いたようだ。容赦なく首をはねている。さすが騎士と兵士だ。慣れているのだろう。

 顔がよく分からないヤツもいるが、ゾンビは多分元クラスメイト達だ。

 覚悟はしていたが、この前まで普通に話していたヤツがゾンビになっていて、しかも首をはねられているのを見るのはきつい。


 ヴぁぁぁぁああ!!「あゆみぃ!!」「危ない!!」

 ヴぁぁああ!!「くそ!!」


 あゆみと竹下がゾンビに!


 騎士と兵士がすぐ二人を処理した。


 クソ!二人は間に合わなかったか・・・有岡さんは回復したようだ。


「うう・・光輝君・・・ありがとう。うう・・・」

 さっき助けた女子が話しかけてきた。汚い恰好ですぐには分からなかったが、最初に別行動すると言ってきた美樹本だ。

「美樹本・・・無事で良かった。」

 いつもバッチリメイクで気が強い美樹本が見る影もない。

「光輝君達は無事だったのね・・・」

「ああ・・・今あゆみがやられてしまったが・・」 クソ!こんなことになるなんて予想できるかよ! 

「うう・・・私があんなこと言わずに光輝君についていっていればキョウコも・・・うう・・」

 美樹本が泣いている。どうやらキョウコと一緒だったらしいがやられてしまったようだ。キョウコは同じクラスの美樹本と仲が良かった女子だ。

 剣道着の日野も寄ってきた。

「神代君達は全員無事だったのね。あの状況で凄いわ・・・」 神代は俺の苗字だ。

「いや、安本の家に立て籠もっていただけだよ・・・」

 日野も美樹本も汚い恰好だ。それに対して俺達は綺麗な格好をしているから差が目立つのだろう。

 クラスメイト達を見ると俺達以外に生き残っていたのは、さっき死んだ竹下を入れて5人だけだったようだ。


「皆様よろしいでしょうか?」

 姫っぽい豪華なドレスを着た女の子が話しかけてきた。

「はい。」 何となく俺が代表で答える。

「私はリオレスト王国の王女レイアです。このようなことになってしまいましたが、勇者様方を歓迎いたします。」

「勇者?」 薄々察していたが、マジか・・

「はい。私達は異世界から勇者様を召喚する儀式を行いました。そして現れたのが皆様です。」

「続きは私が説明いたしましょう。」 司祭っぽい爺さんが後を引きつぎ、姫は下がっていった。

 姫は最初の挨拶だけする段取りだったようだ。


 ゾンビは兵士達が片付けている。感染とか大丈夫だろうか?

 不安だがとりあえず話を聞こう。


「この世界は今危機に瀕しています。魔王が復活し、魔族達と共に人類を滅ぼそうと攻めてきています。我々も懸命に戦っていますが、このままではいつか滅ぼされてしまうと考えた我々は、女神様に祈り、女神様より秘術を授かりました。それが皆様をこの場に呼んだ勇者召喚の儀式になります。皆様は女神様より選ばれたこの世界を救う勇者なのです。」

 ざわつくクラスメイト達。

 ありがちな話だが・・・とりあえず奴隷にされたりしない展開なら問題ないだろう。

 俺が代表みたいになっているし、一応定番の対応をしておくか。俺はオタクじゃないことになっているから物分かりが良すぎるのも不自然だしな。

「待ってください。俺達はただの学生です。戦いの経験もほとんどありませんし、世界を救うことができるとは思えません。」 俺は言った。

「そうよね。」「魔王と戦うとか無理よ。」「いや勇者の力が与えられてるんじゃないか?」「光輝君はオタクじゃないから予想できないか・・」

 クラスメイトは俺に同意したり、予想を言ったりしている。俺は予想できているけどね。

「ご安心ください。皆様には女神様より大いなる力が与えられているはずです。今から皆様の力を確認いたしますので、こちらへお越しください。」


 別室に案内するようだ。まあここは魔法陣がある大事な部屋っぽいしな。ゾンビの片付けもあるだろうし。



「ちょっとあんた!何であゆみを助けなかったのよ!」 案内で移動しようとすると女子が叫んだ。泣いている。あゆみと仲が良かった瑞希(みずき)だ。

「う・・・そんなこと言われても。」 文句を言われているのは俺達と一緒に行動していたオタク男子の鈴木だ。鈴木は小柄で細いヤツだ。

「あんた横にいてバット持ってたのに!あんたが助けていればあゆみは!あんたのせいよ!」

 どうやらあゆみを助けることができそうな位置にいたらしい。怖くて動けなかったのかもしれない。まあ俺も直前に先頭で戦う覚悟をしていなければ動けなかったかもしれない。ましてや運動神経も力も低いヤツはもっと怖いだろう。

「うう・・・」 鈴木は反論できずに黙っている。

 オタクに詳しい俺は知っている。女子に慣れていないオタクは女子に責められると何も言えなくなってしまうのだ。

「はあ?!お前あゆみの横にいたのに助けなかったのか?!ふざけんなよ!何のためにバット渡したと思ってんだよ!」 ハイドが切れた。剛士も鈴木を睨んでいる。

「何とか言いなさいよ!」 瑞希が泣きながらヒステリックに叫ぶ。


 周囲の異世界人が、こちらを厳しい目で見ている。内輪もめは印象が悪いだろう。

 マズいな。止めないといけない。俺は必至で対応を考えた。



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