異世界オブザデッド ~隠れオタクで勇者の俺が上位カーストとオタクの間を取り持って仲間をまとめ異世界でゾンビサバイバル~

白斎

第1話 オタクとリア充とゾンビパンデミック


 きっかけは何だったのだろうか。


 ある日を境にゾンビ動画が流行りだし、少しずつ動画サイトにゾンビ動画が増えていった。

 それはとてもリアルな物だったので、何かの映画のプロモーションだと思われていて、面白おかしく話題になっていた。


 俺はそれほど興味はなかったが、話題になっていたのでたまに見ていた。だいたいは襲われて騒いでいるだけの動画だが、中にはゾンビの行動分析のような動画もあり、見た目はグロいが結構面白かった。

 ゾンビは目が悪いから人形に騙されるとか、音には敏感だから音で注意を逸らすとかだ。



 まあ気にせず俺は充実した高校生活を送っていた。俺は今高校二年生だ。


 自分で言うのもなんだが、俺は生まれつき顔が良かったし、背も高くて運動神経も頭もそこそこ良かった。学校では自然とクラスの中心人物の一人となっていることが多く、いわゆるリア充とか上位カーストと言われているやつだった。


 そんな俺だが周りに秘密にしていることがある。


 それは俺が隠れオタクだということだ。


 漫画、アニメ、ラノベ、ゲームは大好きだ。Vtuberとかも好きだ。毎日オタク活動しているが同時にオシャレや流行のチェックもしている。オタ活の時間が削られてしまうが、昔オタ活ばかりしすぎて一度上位カーストから落ちかけた時は、周囲の空気がかなり微妙になって怖かった。ある意味俺の人生のターニングポイントだった。俺は上位カーストに戻ることを選択したが。


 俺はクラスではオタクにも分け隔てなく接する良いヤツという評価を得ている。身だしなみが残念ないかにもなオタク男子や明らかに腐った話をしているオタク女子にも普通に接している。あたりまえだ。俺もオタクだからだ。



 そして、隠れオタクとリア充の半々生活を続けていたことで、気づいたことがある。


 それは上位カーストのリア充達がオタクを嫌う理由だ。


 何となくカッコ悪いとかキモいとかそんな理由だと思っていたが、一応理由があった。


 オタクから見ると上位カーストのリア充達は楽しそうに遊んでいるだけに見えるが、実は上位カーストでいるためにはかなり努力が必要だ。

 人によって違うが、オシャレをしたりコミュ力を磨いたり流行をチェックしたりなど、上位カーストでいるためには、上位カーストにふさわしいカッコイイ人間、周りから一目置かれる人間でいるための「自分磨き」みたいな努力がかなり必要になる。

 そして、上位カーストのヤツらは上位カーストから落ちてハブられることを極端に恐れている。理由は彼らの生活のほぼ全てが仲間がいることで成り立っているため、ハブられると今までの生活の全てが壊れてしまうからだ。

 そういうわけで、人によっては努力や落ちてはいけないというプレッシャーで結構なストレスを抱えている。

 まあ俺は落ちたらオタクになればいいだけなので、プレッシャーはあまりない。オタクは孤独でも成り立つからな。その辺の心の余裕が俺が上位カーストで良い位置にいられる理由の一つだろう。余裕のあるヤツの方が頼りがいがあるからな。


 そしてここからがポイントだが、上位カーストのリア充達から見ると、オタク達は何の努力もせずに欲望にまみれた趣味に浸っている堕落したヤツらに見える。

 俺はオタクなので、オタクはオタクで色々大変だし、方向性が違うだけで努力しているヤツも大勢いることを知っているから、そんなことを思わないが、良く知らないヤツからしたら欲望まみれの堕落したヤツらに見えるのだろう。実際には、自分の苦手分野を切り捨てて、好きなことや得意なことに集中しているだけで、上位カーストのヤツらとそれほど変わらない。まあ、アイドルや美少女アニメは欲望にまみれていると言えるし、何の努力もしていないヤツも中にはいそうなので否定もしきれないが。


 そういう状況なので、プレッシャーと戦いながらがんばって上位カーストを維持しているヤツらが、オタクが楽しそうにしているのを見るとイライラするらしい。理由は自分達でも分かっていないようだが、俺の予想では、「俺達はこんなに努力しているのに何の努力もしていない堕落した奴らが楽しそうにしやがって」みたいなことを無意識に感じているのだと思う。


 これが上位カーストのリア充達がオタクを嫌う理由だ。


 これが全てではないだろうが、理由の一つだろう。理不尽なやつ当たりだけどな。


 オタクとリア充はお互いに相手を遊んでばかりいるヤツらだと勘違いしているというわけだ。両方をやっている俺から見ると、どっちも違った苦労があって結構大変なんだけどな。


 まあ上位カーストのリア充全員がオタクを嫌っているわけではない。


 俺みたいな特殊なヤツや、真の上位カーストみたいなヤツはオタクを嫌っていない。


 真の上位カーストとは何かというと、努力を努力と思っていないようなヤツらのことだ。

 オタクにもたまにいる、凄い知識や技能を持っているが、本人は好きな事をやっているだけで努力を努力と思っていないような真のオタクみたいなヤツのことだ。


 好きな事をしていたり普通にしているだけで自然と上位カーストになるような、生まれながらの上位カースト達は、別にオタクを見てもイライラしない。特別努力しているという意識もないし変なストレスも抱えていないからだ。なのでオタクを嫌っていない。オタクを多少理解しているヤツは進む道が違うだけと普通に考えていたりするし、理解していないヤツはそんなんで将来大丈夫なのかと心配していたりする。特に気にしていないヤツも多い。



 俺達のクラスの上位カーストではオタクを嫌っているヤツが半分くらいと特に気にしていない興味無いヤツが半分くらいだ。仲間内にはオタクに理解を示すヤツはいないので、俺は当然誰にも言えないでいる。


 俺も気兼ねなくオタトークできるオタク仲間が欲しいが、上位カーストの地位も手放したくない。上位カーストを維持するのも結構努力がいるので大変だが、今の仲間も大事だし、何より女子と一緒に遊んだりできるからだ。見ている限りやはりオタクグループに入ると女子と仲良く遊んだりは難しいみたいだしな。 ・・・まあ、オタクを隠しているから深く付き合ったりできないという致命的な問題をかかえているが。


 一応女子と付き合ったこともあるが、長続きしなかった。さすがに付き合えば隠し事をしているのは感づかれるからだ。付き合っている最中にカミングアウトも考えたが、今の学校の状況では嫌な予感しかしなかったので、結局秘密にした。彼女は学校以外の場所で見つけた方が良いかもしれない。まあ当ては無いが。



 そんなある日、寝る前にネット動画を見ていると、ゾンビ動画がたくさん上がっていた。今までは海外の動画ばかりだったが、その日は日本の動画がたくさんあった。


 翌朝のニュースでは各地で暴動があったと報道されていた。


 嫌な予感が頭をよぎった。


 俺は学校に着いた後も休み時間のたびにニュースをチェックした。この辺りにも暴動が近づいているように思う。これは動いた方が良いかもしれない。

 俺の他にも青い顔をしているヤツが何人かいる。気づいているのが俺だけじゃないのであれば皆に呼びかけても大丈夫だろう。協力者を募ろう。


 午後になり授業もすべて終わり、先生が最後に、暴動が起きているらしいから今日は部活は無しになったから気を付けて帰るようにと言ってホームルームが終わった。


 クラスの皆が帰る前に意を決して俺は声をかけた。

「皆!帰る前にちょっと話を聞いてくれないか?」 俺はクラス全員に聞こえるように声を張った。

「どうしたんだ光輝?」 光輝というのは俺の名前だ。

「皆に話がある!聞いてくれ!」

「お、おう。」 クラスがざわつくが、俺の話を聞く態勢になった。一応俺もクラスの中心人物の一人だからな。あからさまに反発するやつはいない。

「全員まずはスマホで、ニュースを見てくれないか? 暴動のやつだ。」

 俺が言うと皆ニュースを見た。驚いているヤツやもう知っていたであろうヤツなど様々だ。

「何となく状況が分かったと思うが、俺の予想では今から駅に向かうのは危険だと思う。隣町はもうアウトみたいだ。」

「えっ!」「そんな・・・」「ど、どうすんだよ!」 クラスメイトは思い思いに話だして収集がつかなくなってしまった。マズいな。

「おら!!光輝が話ができねえだろ!!まずは話を聞けよ!!」 いつもつるんでる剛士たけしが皆に声をかけてくれた。

「剛士ありがとう。それで俺は皆でどこかに避難して、暴動が落ち着くまで様子を見た方が良いと思うんだけど、学校にずっといるのも良くないと思うし、誰か暴徒から身を守れるような良い避難場所を知らないか?」 またザワザワと皆が話し出す。

 学校は避難所になるしゾンビパニックでは危険地帯になりがちだからな。食料とかの避難所用物資はあるかもしれないが一旦離れて様子を見た方が良い。良い場所がなければ、とりあえず近くのホームセンターにでも行くかな。

「俺の家がここから近いし、寺だから大きい壁もあるよ。」 一人の男子生徒が答えた。安本だ。

「おお!それは良いな!じゃあ安本の家にいったん避難しても良いか?」

「うん。良いよ。」 安本は地味な見た目の普通のヤツだが、結構度胸があるヤツで、こういう時にもよく発言してくれる。今回もクラスの皆を家に連れて行くことを平気な顔で同意してくれた。何かと頼りになるヤツだ。

「じゃあ皆もそれで良いか?」 俺が聞くと、ザワザワしながら同意の返事が聞こえた。

「ちょっと待って!あたしは帰るわ!」 気の強そうな女子が声を上げた。俺とは別グループのまとめ役をしている美樹本だ。

「光輝君の言うことも分かるけど、家族が心配なの。暴動が近づいているならなおさら帰りたい。」 「私も!」 「俺も・・・」

 続けて何人も声をあげた。 ・・・心配だが無理強いはできない。

「そうか・・・ 仕方ない。強制はできないな。気を付けろよ。家にお金が置いてある人は、タクシーとか使った方が良いぞ。」

「うん。分かった。心配してくれてありがとう。」 そう言って何人か帰っていった。

 結局クラスの半数くらいは出て行ってしまった。まあ俺の人望ならこんなものだろう。

「じゃあ俺達も移動しようか。そうだ黒井。」 野球部の黒井に声をかけた。

「ん?なんだ?」 

「護身用に野球部でバットを借りれないか? もちろん何もなければ明日返す。」

「うーん。まあ明日返すならいいか。いいぜ。」

「おうサンキュー。バットのおかげで命が助かったら何でも奢るよ。」 軽口を言って場を和ませる。

 よし。これで武器も確保できたな。うちの野球部がエンジョイ勢で助かった。ガチ勢だったら護身用に借りるなんて無理だからな。


 安本の案内で歩いていると俺とよくつるんでいる5人が集まってきた。日によって増えたり減ったりするが、俺を入れてこの6人が中心メンバーだ。


「なあ光輝、駅がヤバいってマジか? 兄貴の店が心配だぜ。ライン送っても返事がねえんだよ。」

 まずは剛士が声をかけてきた。剛士は声も体もでかいワイルド系で悪そうなヤツはだいたい友達な感じのヤツだ。

「真司さんの店の人たちなら俺達よりよっぽど強いから大丈夫だろ。あとで連絡してみろよ。」

「そうだな。」

「光輝!突然あんなこと言い出して驚いたじゃない!事前にうちらにも言ってよね!」

 次に声をかけてきたのは亜美だ。茶髪ボブカットの猫系おしゃれ女子だ。こいつは見た目もかわいいし仕草もかわいいからモテる。かわいい仕草を研究しているらしい。

「悪かったよ。どうすれば良いか考えてて余裕なかったんだ。」

「しょうがないわね。まあうちらも光輝が深刻な顔してるのは気づいていたから放課後に聞こうと思ってたのよね。もっと早く聞けばよかったわ。」

「心配かけて悪いな。」

「そんなんじゃないわよ。」 プイっとかわいくそっぽを向く。かわいい仕草を研究しているだけはあるな。

 実は亜美とは一時期付き合っていた。しかし隠し事をしているうえに他の男のように亜美にメロメロにならない俺に、亜美が業を煮やしてフラれてしまった。その後も普通に友達でいてくれる良いヤツだ。まあ多少あったがお互い友達でいたいという結論は一致したので何とかなった。

「いやでもマジ助かった。光輝に言われて色々見たけど、電車で帰ってたらマジヤバかったかもだわ。俺んち方向もうアウトっぽいわ。マジ命の恩人だぜサンキュー。」

 次に話しかけてきたのは、ハイドだ。あだ名ではなく本名だ。漢字では灰怒と書く。キラキラネームというやつだが、結構かっこいい良い名前だと思う。

 ハイドは元の容姿は平均ちょい下のフツメンだが、おしゃれを追求して自他ともに認めるイケメンにまでなったおしゃれ上級者だ。俺もファッション関係はハイドに相談することが多い。

「でも今日どうすんの? もしかして寺に泊まる感じ? アタシお泊りセットもってきてな~い。」

 赤髪ギャル系のミレイだ。

「あ~そうだよな。途中にスーパーと薬局があるみたいだから買い物していこうぜ。手持ちが足りないなら、とりあえずハイドに借りれば良いし。ハイド今どのくらいある?」

 ハイドの家は金持ちなので、割と気軽に金を貸してくれる。でもハイドにたかったりはしないし、皆借りたらちゃんと返している。ハイドは気配りもできるおしゃれ上級者なので、皆から好かれているからだ。

「ある程度あるから大丈夫だぜ。ATMがあったら降ろして、すぐ帰れなかった時のためにたくさん買っておくか。」

「でもハイド君に頼ってばかりじゃ悪いわ。」

 愛理が言った。愛理は、清楚系でしっかり者タイプだ。

「いいよいいよ。余ったら使う人に上げれば良いし、こういうイザという時のために金はあるんだからさ。」

「ふふふ。ハイド君はやさしいわね。ありがとう。」


 その後、安本や他のクラスメイトとも相談して結構な食料や消耗品や着替えを買い込んだ。皆ヤバい雰囲気をヒシヒシと感じているようだ。


 安本の家は壁に囲まれた立派な門のある寺で、門を閉めればゾンビが簡単には入れないであろう非常に頼りになる造りになっていた。

 皆も安本の家を見て安心したようだ。


 安本の家族も事情を説明すると歓迎してくれて、寝泊りする部屋や布団も十分にあった。お通夜やお葬式などでよく人が泊るそうだ。

 俺達は少し休憩したあと、テレビやネットで情報収集を行った。



 そして嫌な予感は現実となった。




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