第66話 救出

「こちらが、エルフたちを捕らえている牢でございます」


 髭面の隊長がそう言って、連れられた場所は酷い有様だった。

 見た目麗しいエルフたちがみな、憔悴した様子で鋼鉄の手錠と足かせをはめられていた。

 エルフの里で全員を捕らえてから碌な食事すら与えられていないことが分かった。

 それだけではない、幾度となくムチで打たれたかのように全身が腫れあがっているエルフや、身ごもっているエルフですら布団も用意されていない石畳の上に座らされている。


 牢の前には2人の兵士が立っていた。

 彼らは俺たちを見ると、敬礼する。


 エルフたちは、俺に縄で捕らえられているフェリの姿を見てその瞳の色が更なる絶望の色に染まった。


「そ、そんな……姫様……!」

「くそっ! 残虐な貴族どもめ、地獄の底で呪ってやる……!」


 嘆き悲しむ者、怒りの眼で俺やこの髭面の隊長を睨む者。

 そんな彼らを見て、髭面の隊長はあざ笑う。


「ぐははは! 馬鹿な奴らだ、貴様らが命がけで姫の居場所を黙秘したのは無駄だったな」

「……彼らを拷問したのか?」

「はい、しかしアラン様がいくら鞭を打っても一言も話しませんでした。大変でしたよ、売り物ですから殺したくはありませんし……」

「……そうか」


 ロマリアが俺の袖を引っ張って言う。


「ロア様、もう大丈夫です……!」


 そう言うと、髭面の隊長は首をかしげた。


「大丈夫? 一体なにが――」


 ――ボガァン!


 ロマリアの言葉の直後、俺はこの髭面の隊長の顔面を殴り飛ばした。

 捕らえられているエルフたちの場所も分かり、後はロマリアの案内さえあれば全員を救い出せるという、ロマリアからの合図だった。


「な、なにを――!?」


 牢の前に立っている2人の兵士は俺の行動に驚いた直後、すぐに両手を挙げて降参のポーズをした。

 片方はティアの手で首を掴まれ、もう片方は服の下に矢を隠していたフェリに矢を首元に突き付けられている。

 俺が殴ると同時にティアがフェリの分と一緒にロープを引きちぎったのだろう。


「ふぅ、全く。エノアってば突然なんだから~」

「ごめん。でも、こんなの見たら我慢できないよ」

「ありがとうエノア……私も限界だったから……」

「はい、フェリ様のご様子を見て。いたたまれなくて……」


 ロマリアの視線の先、フェリの口元と拳からは血が流れていた。

 惨状を目撃して、悔しくて、一刻も早く救い出してあげたかったのだろう。


「ありがとうロマリア。良い判断だった、さてと……」


 俺が殴って気絶させた隊長と2人の兵士をキャンプアイテムのロープで縛る。

 声を出せないよう、口には同じくキャンプスキルで出した布から作った猿轡を噛ませた。


 突然の事に驚いているエルフ族たちにフェリは声をかける。


「みんな、静かに。捕まったフリをして助けに来た。ここいるのはみんな仲間だよ」


 そう言うと、エルフ族たちの涙は悲しみから歓喜に変わった。

 大声を出して喜びたい気持ちを抑えて、みんな静かに周囲のエルフたちの手を握っている。


「ティア、全員の手錠と足かせを破壊していってくれる?」

「オッケー! 任せて!」


 ティアが居ればカギなんて必要ない。

 聖獣の圧倒的腕力で牢の扉も枷も全て壊していってくれた。


「姫様、よくぞご無事で……!」

「心配かけたね……みんなも無事で良かった……!」


 フェリは再会を喜び、何名かの側近と抱擁をする。


「さて、ここから逃げる方法だけど……まずは弱ってるみんなを元気にしないと」


 俺はそう言って、キャンプスキルからリュックサックを取り出した。

 あらかじめ料理をしてこの中にみんなが元気になれる料理を入れておいたのだ。


「傷が酷い方にはこっちの薬草スープを飲ませてください、直ちに傷が治るはずです。身ごもっている方はこの牛乳粥を飲んでください、栄養満点で一時的に強力な防御バフがかかりますから、お腹の子も守れます」


 それぞれに説明をしながら、俺は料理を出していく。

 彼らの里を焼いたエラスムスの肉も、滋養強壮に一役かってくれた。


「さて、みんなが食べている間に攫われたレイナさんの娘さんや他の奴隷たちも助けに行かなくちゃ……」

「エノア様! 多分他の奴隷のみなさんは私が捕らえられていた場所と同じ場所にいると思います! ご案内できます!」


 ロマリアの言葉を聞いて、俺はフェリとティアに伝える。


「分かった! じゃあ、フェリはここでエルフのみんなと居てあげて! 戦えそうなキャンプ道具も置いていくから、兵士が来たら上手いこと口封じして! ティアは俺と一緒に行こう!」

「うん! もうしゃべっても良いよね、エノア!」

「分かった……こっちは任せて……」


 俺はキャンプ道具のクマ撃退スプレーやフライパン、捕らえる為のロープなどを置いていく。

 もっと殺傷力の高い斧やナイフを出すことも出来るけど……、ここにいる兵士たち全員が最低な奴らだという訳ではないと思う。


 俺もブラック企業で生活を人質に取られていたからよく分かる。

 逆らえなくて、嫌々従っている兵士も居るはずだ。

 そんな人たちの命までは奪いたくない。


 そう言えば、兵士たちは金属製の鎧を着ている……ということは、これも使えるかもしれない。

 俺はキャンプ道具のスコップを取り出した。


【開闢のスコップ(かいびゃくのスコップ)】

 効果:

 ・ 巨大な窪地や穴を意のままに瞬時に作り出すことができる。埋める際も一瞬、掘る前と変わらない地表にすることもできる。

 ・大地属性付与: スコップによる打撃に大地属性を付与。岩石やダメージ。

 概要:

 SSランクのキャンプスキルによって具現化される天地創造のスコップ。その柄は枯れることのない世界樹の枝から削り出され、使用者は土の重さを感じることなく、大地をデザインできる。


「これも置いて行くね。じゃあ、行ってくる」


 そこから、他の兵士たちに見つからないようにロマリアの案内で他の奴隷たちが捕まっている牢へと向かった。


 ――――――――――――――

【業務連絡】

 本日より、投稿していきます!

 夜にもう一話投稿します!

 漫画、第1巻の発売日は9月9日です!

 何卒、よろしくお願いいたします!

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