『…魔力も魔法も関係ない! 必要無い! 俺は舌先三寸で人を動かして、魔王に勝って魔族を滅ぼす! 』
トーマス・ライカー
第1話 8人の用心棒
日没には、あと三時ほどだった。
城市『アガラ』の西門を、馬に乗った7人の男とひとりの女がくぐる。
この城市には隊商や乗り合い旅客馬車用の旅籠が多い……1番大きい旅籠の前に乗り付けて降りる……さすがに繋ぎ場も広く設えられている……手綱を留め横木に繋ぎ、鞍と鎧を外す。
「……宿の主人に金を払って来る……取り敢えず、3泊分だな……廻りの話も聞いて来るから、馬に水と飼葉をやってくれ……」
「……シエン! 『アガラ』お抱えの騎士団は、結構数が揃ってるな……それにここまでの道すがらで聴いた話じゃ、魔物や魔族の動きも目立ってるようだ……3泊じゃ短いんじゃないか? 」
「……その辺も含めて主人に話を聞くよ…ジング……鞍と鎧を部屋に置いたら、馬達の世話を頼む……終わったら、俺も入るから……」
「……分かったよ……」
ジングの相棒…馬の『キエラ』は疲れが溜まってる……出来れば暫く休ませてやりたい……それには、魔物退治で謝礼や報償金を貰う必要がある……入り口のドアを開く……1階…昼は飯屋で夜は酒場か……左のカウンターで受付もしてるようだ。
「……親父さん……女1人…男7人の8人だ……馬の世話はこっちでやるから、水と飼葉を頼むよ……三部屋で…取り敢えず三泊で頼む……」
「……あいよ……朝飯込みの宿賃な? 馬の糞は片付けてくれよ? 」
「……ありがとな、親父さん……分かってるって……農家の人を紹介してくれないか? 」
「……ああ…ファーマニアンなら、夜は大体ここで呑んでるから訊いてみると好い……じゃあ、宿帳に書いてな? 」
「……ありがとう、親父さん……」
そう応えて差し出された宿帳を開き、8人の名前・年齢・職業欄に書き付ける。
「……へえ……あんたら、勇者御一行様かい? 」
「……いやあ…そこまではいかないな……まあまあ…力と技のある…仲間内ってところだ……それでさ、親父さん……ここまで来る道すがらでも…魔物や魔族の目立つ暴れっ振りについちゃ、小耳に挿んでたんだが……実際、どんな様子なんだい? 」
「……ああ……酷いもんさ……5日に1回は隊商が襲われて……3日に1回は乗り合い旅客馬車が襲われてる……おとついも騎士団が出張って行ったんだが……4人が帰って来なかった……」
「……遺体を連れて帰って来れなかったのかい? 」
「……ああ……」
「……なるほど……そいつぁ、ちょっと……マズいかもな……ありがとう、親父さん……ちょいと奮発して、4泊にするわ……世話になるね……」
「……はいよ……毎度ありぃ……」
8人で4泊……馬の水と飼葉の代金……ほぼ半額を前金とし、親父さんに渡して外に出る……待っていた仲間達に部屋番号を伝えて、鞍・鎧・荷物・得物を部屋に運ぶ……また戻って馬をブラッシングする。
「……どうだった? 」
「……ああ…取り敢えず4泊にしたよ…ジング……それと親父さんに聞いた話じゃ、やはり魔族に操られた魔物共による被害が深刻なようだ……隊商や乗り合い旅客馬車が定期的に襲われている……」
「……それじゃ、取り敢えず警護役を勝って出るってのが、取っ掛かりの仕事としては好いんじゃないか? 」
「……そうだな、ナブィド……だがいきなり売り込んだんじゃ、怪しまれるだろうから……陰ながら見守って、襲われたら偶然を装って助けるってのが好いんじゃないか? 」
「…アタシ、それ乗った! 今日は馬達の世話と準備をして、明日からやろうよ! 」
「…ハッハハ! そうだな、レーナ! もしもケガ人が出たら、お前の出番だ。今夜はよく寝ておけよ! 」
「……分かってるよ、クヴァンツ! アンタも呑んだくれてないで、早く寝なよ! アタシ、二日酔いのヒールなんて嫌だからね! 」
「……ヘイヘイ…💦…」
おっさんのクヴァンツが小娘のレーナに遣り込まれる様子が面白くて、皆声を挙げて笑い合った。
馬達を綺麗にして、一度部屋に引き揚げる……軽装に着替えて、聞き込んでくると告げて部屋を出る……ジングは剣の手入れを始めていたし……デラティフは荷物を解いて確認している……ナヴィドは弓と矢のバランスを観ていたし……サミールは斧を磨いていた……クヴァンツは湯を貰って湯浴みしようとしていたし……エフロンは槍を磨いていた。
もう一度親父さんに声を掛けて軽めの酒を貰って呑みながら、隊商と旅客馬車についての話を聞き込む……それに拠れば明日の到着は隊商がひとつ……馬車が2台……出発は馬車が2台……停車場は東門と北門にひとつずつ……騎士団の傷はまだ癒えてない……ここの城代は襲って来る魔族に対しての防衛力を強めようとしている……これは売り込めるチャンスがありそうだ。
親父さんに礼を言って部屋に戻り、レーナが泊まる部屋に全員を集めて車座に座る。
出発する馬車を陰ながら見守って尾いて行く事にした……到着する一行を出迎えようとしても、何処で出会えるか分からないからだ……頃合いなので、飯を食いに全員で降りる……料理の注文はレーナに任せて先客の皆様に一杯を奢り、挨拶して話す……ファーマニアンの方々とも知り合いになれた……馬糞を提供したいと申し出たら、喜んでくれた。
「……アンタ達……勇者の御一行様でないなら、何なんだい? 」
「……そうだな……旅人の安全を守る……用心棒ご一行…ってところかな……」
「……へえ……観たところ、勇者はおろか…魔法使いの人もいないようだし……よくやろうって思ったな? 」
「……ああ……たまにしか出て来ない勇者も…人に魔法を教えたがらない魔法使いも、俺達には要らないよ……俺達は…自分達の知恵と工夫で力を補い、技を磨き、戦い方を考え出し、旅人を守って魔物共を叩くのさ……」
「……おう……よし! アンタら気に入った! 是非とも暫く、この城市にいて欲しい! これは少ないが…カンパってか…応援だ! 宜しく頼む! 俺はダナルだ……ファーマニアンだが、商いもやってる……要り用な物とかで相談があったら、俺に言ってくれ…力になるよ……」
そう言って40才くらいの逞しいおじさんが、金貨1枚を渡して俺の右手を握った……もう1人のファーマニアンも、同じように言って金貨1枚をカンパしてくれた……俺も仲間も口々に礼を言い、握手して杯を触れ合わせて酌み交わした。
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