30話-ヘレナとデート?-



 街へ向かっている道中、色んな話をしたんだけど、やっぱりヘレナは言葉遣いや所作はおしとやかそうに感じるけど、通常の女の子とは比べ物にならないほどの怪力は今も健在で、昔とそんなに変わっていないように思えた。


 それに街へ着けば、その性格に付け加えお転婆で、なんにでも興味を示す好奇心旺盛さに、昔のヘレナを徐々に思い出し、ヘレナはヘレナなんだな。なんて安心感を覚えつつ、不安に似たなにかを覚えていた。


「ねぇ、リーウィン! 私、あのお店が気になるわ!」


 ヘレナはそう言うと、僕の有無も聞かず、雑貨屋と思わしき店へ駆け足で入っていく。


「ヘレナ、あんまりはしゃぐと転んじゃうよ!」


 僕はヒールのついた靴を履きながら、普通の靴と同様の動きを見せるヘレナに、少しドギマギした気持ちを覚えつつも、あとを追うように店内へ入る。


 店内は扉を解放しきっているからか、陽光が差し込み、電灯もないのに明るい。


 それから、おじさんの性格が几帳面なのか、珍しい鉱物の付いたアクセサリーや、手頃な価格の魔水晶などが綺麗に、棚に陳列され販売されていた。


 そのおじさんだけど、内心ちょっと怖いなって思ってる僕がいる……。


 外見は少し薄毛で眼鏡をかけていて、特に怖そうにも思えないんだけど、僕が店内に入るや否や、新聞を読みながら、僕の方に視線を向け


「なんだ、ただのガキか」と、言わんばかりにまた新聞に目を落とすもんだから、冷やかしに来たとか思われてるのかな? なんて、背中にヒヤリとした汗が一筋垂れた。


「リーウィン遅いわよ! この髪留め、私に似合うかしら?」


 だけどさすがはヘレナ。


 ヘレナは特におじさんの態度なんて気にも留めない様子で、薄桃色のなにかの蕾を模した髪留めを、軽く髪にあてがい僕に聞く。


「似合ってると思うよ! うーん……。でもなんだか、物足りないような気が……」


 僕はそんなヘレナの問いかけに、まだ少しドギマギしながらも答え、ヘレナに似合いそうな髪留めを物色する。


「こういうのはどうかな?」


 僕はそこまで持ち合わせもないし、ヘレナも買うつもりはない。と思っていたけど、これだ! と、感じた髪留めをヘレナの髪に軽くあて、


「僕はヘレナにはこれだと思うな」


 と差し出した。


 僕がヘレナに選んだ髪留めは、〔スーニア〕という花の形にそっくりな髪留めで、花の真ん中には小さめの黄色い鉱物が埋め込まれている。


 そして光を当てると、キラキラと光を放ちながら輝く可愛らしい髪留めだった。


 ※スーニア=桜の様な花で、リクカルトを象徴する花※


「うーん、こっちよりちょっと、値段がお高めだけど……。リーウィンが初めて、選んでくれた物だし……。これにしようかしら!」


 ヘレナは、自分が選んだ髪留めと、僕が選んだ髪留めを両手に持ち、少しの間悩む素振りを見せる。


 だけど直ぐに僕が選んだ髪留めを新聞を読んでいるおじさんの元へ持って行き、購入する意思をみせた。


 えっ? 買うの? なんて思いつつも、ヘレナがレジへ行っている間にこっそりと値段を確認してみた。


 ヘレナが選んだ髪飾りと僕が選んだ髪飾りは、大体二・五万セクト程の違いがあった。


 次からは、ヘレナが購入するかも。ということを念頭に起き、値段も確認して選ばないといけないな。と反省しながら店の外に出た。


「リーウィン。これを私の髪につけてくれるかしら?」


 ヘレナは満足気に店を出たあと、先程買ったばかりの髪留めを僕にさも当たり前かのようにてわたしてきた。


「上手く付けれる自信ないよ?」


 自分でつけた方が良いんじゃない? なんて言いながら苦笑する。


「リーウィンにつけて欲しいのよ!」


 そんな僕を見てヘレナは、プクッと頬を膨らませ付けろとせがむ。


「もし壊しちゃっても、文句言わないでよね!」


「それはどうかしら〜」


「なら絶対つけたくない! 僕、怖いもん!」


「リーウィンは怖がりすぎよ! ほら問題ないから早くつけて!」


 ヘレナに髪留めを押し返したのに、ヘレナは自分でつけることを拒み、僕に着けてと再度髪留めを握らせる。


 これを何度か繰り返しているうちに、ヘレナはかなり不機嫌になってきたし、僕は仕方ない。そう腹を括り、ヘレナの髪に優しく触れる。


 パチンッ


 壊れてはないけど、付け方が下手だとか文句を言われたらどうしよう……。そうドギマギしながら無言でヘレナを見つめた。


「どう? 似合ってるかしら?」


 頬を少し、赤く染めながら、ヘレナは心配そうに上目遣いで聞いてくる。


 良かった。どうやら気に触る付け方をしなかったようだ。


「へっ? う、うん! とても似合っているよ!」


 僕は安堵していたから一瞬だけ気が抜けたような声を出しちゃったけど、言い直し満面の笑みで答えた。


「よかった! リーウィン、選んでくれてありがとう! 一生大切にするわね!」


 ヘレナはそう言い、嬉しそうに満面の笑みを僕に返す。


 その笑顔は、春の優しい陽射しに当てられてか? とても眩しく、さっきまで抱いていた僕の杞憂すらも吹き飛ばす威力があった。


「あははっ。一生、大切になんて大袈裟すぎるよ! もっといい髪留めがまた、見つかるかもしれないし!」


 僕は、ヘレナの


「一生大切にする」


 という言葉を冗談として受け取り、笑いながら一蹴した。


「これは、リーウィンが初めて、私のために選んでくれた髪留めだから、特別なの! ほんと、リーウィンはいつまで経ってもお子様なんだから!」


 ヘレナはそう言い、またぷくっと頬を膨らませ、近くにあった街路樹を軽く叩き、なぎ倒す。


 街路樹は大きな音を立てながら倒れ、その様子を見ていた人たちはとても驚き、パニックになりながら避難しようとする人、ヘレナへ冷たい視線を送り、陰口を叩く人なんかで、一種のカオス状態に陥る。


 だけど肝心のヘレナはと言うと、特になにも気にしていない様子で、どうして注目の的になっているのかしら? なんて言いたげな様子で、小首を傾げていた。


 一方、僕はこの空間に耐えられず、ヘレナの手を無理やり引っ張り、その場から走って逃げる。


「御伽噺に出てくるお姫様になった気分だわ!」


 ヘレナはそう言い満面の笑みを浮かべ、とても楽しんでいる様だった。


 本当にヘレナは、楽観的というか──。良く言えば、なんでも楽しい方向へ考えれるのはとても羨ましく思う。


 それからもヘレナは度々、問題行動を起こし、その都度、僕たちは逃げるようにその場をあとにしたけど、なんだかんだと、買い物を楽しめている僕がいる。


「ふう……。ヘレナちょっと休憩しない? 僕、疲れたよ」


 ヘレナは元気が良すぎて、僕は振り回されてばかりだ。目を離すと、直ぐにどこに行ったのか解らなくなって、探し回っていたからか、僕の体力が底を尽きた。


「もう! だらしないんだから!」


 今日、何度目か解らないけど、ヘレナは頬をぷくっと膨らませ、もっと色んなものを見て回りたい! と駄々をこねる。


 その姿はまるで子供の様で、地面に寝転びじたばたと手足をばたつかせ、付近にあった色んなものを破壊しいく。


 あのぉ……、ヘレナさん? あなた一応、どこぞのお嬢様だよね? なんて言いたくなるくらい服がドロドロになっているにも関わらず、そんなこと気にする必要もないわ! なんて聴こえてきそうなほど、暴れ狂う。


 僕はヘトヘトだったし、ヘレナを止める気力もなく、ここで待ってるから一人で見て回るのはどう? なんて提案してみたけど、


「女心が分かってない! リーウィンと一緒に見て回りたいの!」


 と、また癇癪を起こしてしまい、宥めるのがとても大変だった。


 僕は未だに駄々をこね、辺りを無差別に破壊するヘレナを、諦めた目で見つつ、近くにあった周辺案内図に目をやる。


 案内図を見ていると、ふと気になるカフェと思わしきお店を見つけ、ヘレナに


「このお店でちょっと休憩していかない?」


 と僕は、ここ。と指差しながら聞いてみた。


「ムーステオ?」


 ヘレナは暴れるのをようやく辞め、僕の指した場所を見て確認する。


「うん! なんかちょっと気になるなって……」


 まぁ、気になるのは本当のことだけど、本音は休憩したいから。って理由の方が大きい。


「良いわね! 早速行きましょ!」


 ヘレナは、さっきまで駄々をこね、暴れ狂っていた人物と、本当に同一人物なのか? と疑問に思うほどの素早い切り替えをしたあと、僕の手を強く引っ張り駆け出した。


「ちょっと! そんなに引っ張ると転ろんじゃうよ……!」


「大丈夫よ!」


 ヘレナはそんなことを言いながら、僕の言葉に耳を貸さず、最終的には楽しそうに僕を〔引きずった〕。


「いらしゃいませにゃ! テラスと店内、どっちがいいにゃ?」


 独特な語尾と、猫耳カチューシャ、猫のしっぽを付けた薄茶色のショートヘアをふわりとなびかせる振り返り、中性的な店員が元気な様子で僕たちに声をかける。


 そんな店員に圧巻されそうになったけど、店内は落ち着いた雰囲気で、所々にお客さんが席に着いて飲食を楽しんでいる。


 僕は折角だし、テラスへ行こう。とヘレナに提案し、ヘレナも良いわね! と賛成してくれたから、変わった見た目の店員にテラス席へ案内してもらった。


 テラス席はとても綺麗で、外観を良くするためか、所々に植物が植えられており、その外観に統一感を出す様に、床はウッド調になっていた。

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