第4話 家畜

警察の私有地 PM8:40

 

「ひょー!めちゃくちゃ速く飛べる〜!!」


「もう......いきなり掴んで空飛ぶのは今度から無しにしてね......にしても力も絶対に向上しているわね。前に護身術を教えた時のように組み手もどきやりましょうか!」

 

「もうボコボコにされたく無いっすよ〜アレのおかげで人助けが楽になりましたけど......」

 

「いや、今の私とあなたとの身長差を考えてよね......まあ私も怖いし一回そこのサンドバッグを叩いてもらえる?」

 

貴音「ボクシングジムで見るやつよりデカいこれ殴るんすか〜前やった時はあんまし動かなかったしなぁ、よいしょっと!オラッ!!」

 

昔、自分がサンドバッグを本気で殴った時は手首が捻挫しかけたが、今回は違った。サンドバッグはぶら下げている太い鎖が千切れそこそこの勢いで転がっていった。

「…………?」

「………………ッ⁉︎」

 

「あなたを殺人犯にしなくて良かったわ……」


「っす......」


その後、背筋や握力などを計ろうとしたが全てぶち壊してしまった......弁償はしなくて良いらしい......ありがとう......九条さん......

 

――――――――――

 

  同所近く外のベンチ PM9:02

 

「うわー首相が会見してるっすよ、九条さん達の対応的に隠蔽すると思ったんすけどね〜」

 

「まあ無理よね〜だって、あなたの一緒にいる間に届いた報告に食肉用の牛が人の体型に近い姿で二足歩行して脱走しただとか、痩せてボロボロのカラスが話しかけてきたとかばかりだったからね......」

 

「もろにギリシャ神話のミノタウロスで、北欧神話のフギンやムニンみたいっすね、そいつらからの被害は無いんです?」

 

「牛の方は牛舎を破壊して牛を何頭か殺して、市街地で車を何台もぶっ飛ばしながら走って行方不明。カラスの方は友好的で人間の言葉を深く理解し、更に言語を使えて嬉しいとはしゃぎながらずっと話し続けているわ」

 それにしてもかじは神話とか好きなのね、私はミノタウロスくらいしか知らないわ......流石、雑学好きね。


「そいつらってどこにいるんです?」

 

「もちろん、ここら辺よ管轄外の事は署に戻らないとわからな......!?!?」

 

 街灯の灯りに照らされた2人の座ったベンチにいきなり巨大な影、獣の臭い、九条は気づいた、例の獣が後ろにいることに。

 

「後ろぉー!!!」

 

 と叫び九条は立ち上がりながら後方に下がり、貴音は振り向き驚き少し怯む。

 

「なッ足音なんてしな......」

何だよ!?聞いていたよりデカいじ......


 九条の携帯で会見を爆音で見ていた為に気がつかず、言い終わる前に思考が追いつかない。貴音は思いっきり顔面を殴られ轟音と共に遠くに吹き飛ぶ。

 

貴音「ンギャアッッ〜............」

 

 貴音は悲鳴を上げながら警察署の塀を突き抜け、署の前にある建物にまで吹き飛び減り込み静寂に包まれる。

 

「貴音ェッ!!!こんのクソ牛がァァァァアア!」

 

 貴音の姿が見えないくらい吹っ飛び、声も途絶え安否不明、彼女は銃を抜き向ける。隕石の影響で今の警察は治安が悪化により自衛隊の9mm機関拳銃を装備する事を許可されていた。そして九条は警察にあるまじき怒りの感情で牛型ミュータントの顔から上半身に向け乾いた連射音を立てて25発撃ち切る。

 

「ンンモォォォオオ〜〜」

 と唸る牛には大したダメージが無かった、その証拠に弾丸は全て地面に落ちていた。そして、これは怒りの唸りだ。

 

「そんな......なんで血すら出ないのよ!」

 と怒りつつ署の近くで発砲音がしたのだから応援が来るとは思うが、念の為にSOS信号発信装置をオンにし特殊警棒をシャッ!と鳴らし取り出す。

 

「……貴音が吹き飛ばされた時点で私に勝ち目は無いのはわかるわ、そこまで馬鹿では無いわ。ただ!でも、ここで下がるほど私はヤワじゃ無いのよォ!!」

 

 と言いながら警棒を牛の股間に勢いよく叩きつけようとしたが、強く腕を掴まれてしまった。

 

「なっ!?いっ、痛い......これは手が人の様になっているの!?お、折れるッ!」

 

 必死に腕を振り解こうとしていたがビクともせず牛が口を開いた。

 

「おマエはヤワ、ジブン勝てない」

 と牛はニタニタと嘲笑する。

 

 「ッ!言葉までも!知能までも進化しているの......それに表情まで作れる様になってい......」

 

 言い終わる前に腕ごと持ち上げて地面に叩きつける、子供が蟻を潰す様に容易く軽い力で。

 

 「ガァっ......うっ......ゴフっ」

 確実に肋が折れてる、持ち上げられた方の腕から骨が飛び出ている。ダメだナメられている......貴音を殴った時と比べると明らかに手を抜いている......こいつは私で遊び始めたんだ......貴音............。

 

 「言葉アッテイるかナ?コれから屠サツだヨ〜」

 そういうと私めがけて両手の拳を握り振り下ろす、もうダメだ......

 これなんてプロレス技だっけダブルスレッジハンマーだったかな......ハハ......ごめんね、貴音。


 九条の頭を砕く筈の拳は打ち止められ強い音が鳴り響く。


「!?」

 

 その瞬間振り下ろす拳を飛びながら片手でしっかりと掴んだ姿を見て争う両者は驚きのあまりにフリーズしてしまうを

 

「テメェ......九条さんにも何してんだ、この畜生が?」

 衣服はボロボロになりつつもほぼ怪我が無い貴音がそこに居た。

 

「生きていたのね!」

良かった、良かったぁ......

 

「モ゛オ゛オ゛〜〜ンン!!ヒト!屠サツきカイが!」

 

「九条さん、止血しながら逃げてください!」

 

「逃サないぞ!オ前ェェェエえ!」

 

 そう言うと牛は高速で突進してきた、そこに貴音は飛び頭突きをかます。ゴォンッ!!と音を立ててぶつかり合う。

 

「ぐっ、イテェ張り合わなければよかったかな......」

 

 反動で牛はよろけて膝をつく。

 

「ぐうぅ............アっ!?!?」

警察官や自衛隊員達が大勢やって来ていることに気がついた牛は焦る。

 

「両手をあげて動くな!」

 

「ダメだ!そいつには銃が効かな......」

 

 牛は正面突破で逃げるようにいきなり走り出した。

 

「周辺住民は避難させてある!撃て!」

 

 一斉掃射による激音が鳴り響くなか怯みもせずパトカーなどを突き飛ばして逃げていった。

 

「追え!追うんだ!」

 そういうと自衛官達は車に乗り走り去って行き数時間後。

「いたぞー!市街地や市民の被害が酷過ぎる!仕留めろ!」

と言いながら市民がいるにも関わらず12.7mm重機関銃 M2を放つ。


「ムダムダァ!」

 と言いながら車両に近づく。

 

「ヒッ!?ヒィッ〜!」

 車両に飛び乗り怯える自衛官を無視し機銃をへし折り、車両側面を蹴り飛ばし爆発、牛は宙返りし着地。


「私をヨぶ声ェエ?向カうう!!」


意味不明な言葉を叫びながら再度走り始め行方をくらました。


 ――――――――


 病院 PM11:35

 

 自分は九条さんを抱き抱え飛び、自分が入院中の病院に運んだ。容態は右手複雑骨折、肋骨2本骨折、尾骶骨にヒビetc...と大小合わせてかなり怪我をしたらしいが命に別状は無いらしい。手術も短時間で終わり意識もはっきりしていて会話もできる。

 自分も一応酷くやられたので検査されたが擦り傷程度しか無い上に、殆どもう治っているらしい。他は特に無いとわかり九条さんの病室に特別に向かわせてもらった。

 

「失礼しますー梶原です〜」

と言いながら入り、すぐに九条さんと顔と顔が合った瞬間に九条さんは。


「ごめんね、また助けてもらっちゃって......本当にありがとう」

 悲しくもあり穏やかに微笑む痛ましい姿を見て私は己の無力さを感じた。これでは全然ヒーロー英雄では無いと。

 九条さんのまた助けてもらってと言う言葉で、初めて九条さんと出会った時を思い出す。あの時はたまたま助けられたんだよな......。


 

 ――――――――――

 


 隕石落下が半年後という発表から数週間後の街中 ?:??


「クソが、ヤケになってどいつもこいつも暴れやがって。俺の家にも襲撃しやがって」

 

 悪人が徒党を組み、各地で襲撃が起こり民間人や警察官などの死者数もかなり増加していた。自宅を襲われ恐怖よりムカついて苛立ち、こちらも武装(ギリ違法並み)して、襲撃してきた奴らをこっそり追っていたら路地裏に着いた。追っていた男2人がそこにいた1人の男と合流したようだ。

そこには服を剥ぎ取られレイプ寸前に見える女性が居たので警察と救急に通報し、様子を伺う。

 

「やめなさい!こんな事をしたら損するのは貴方達よ。早く考えを改めて自首しなさい!」

 

「流石キャリアのポリ公は正義感が違うねぇ〜w優しくて涙が出そうだよw ん?あーお前ら戻ったんかどうやった?」

 

「しくじったわ〜狙っていた家にいたやつナイフとか自作っぽいスタンガンの手袋つけていて反抗してきてこっちも怪我しちまって無理やわ。なあ婦警さんよぉ?俺らよりもそういう奴を取り締まって欲しいものだね〜」

 

「スタンガンの自作及び所持は違法じゃ無いわ、どう考えても正当防衛ね、もっと頭使ったらどうかしら?」

と嘲り笑い言葉を返す彼女。

 

「じゃかましいわ、処女じゃなくてタマも取ったろうかボケッ!」

 

 そう言いながら殴ろうとした時に様子を伺っていたのについ出てしまった。

 

「ボケはテメェだろうが!俺んち襲撃しやがって、それにその警官?も解放しろやッ!」

 内心ガクブルだったが、自分は底辺中高出身でナメられたらヤバいっていうのが染み付いていたせいでやってしまった......武器はあるけど警官の前でやったらマズイよなぁ......でも見捨てれねぇなぁ...... 。

 

 なんてくだらない事考えているうちに1人がこちらに向かってきた。

 

「さっきはよくも木刀で喉と目を突きやがったな!!ぶち殺してやるわぁぁあ!」

 

そう言う男の手にはホームセンターにあるような消防斧があった、振りかぶって頭を割ろうとする所にナイフで受け止める。

 

「ぐっ、あ!折れた!?」

 斧には勝てずナイフは折れてしまったが斧を横に逸らし、その瞬間相手が油断した所に背負ってきた木刀で顔面に振りかぶり鈍い音を立てる。

 

チンピラC「ひっ、ひでぇグェ......」

奇声を上げて頭から血を流して倒れた、残り2人が唖然としている所を好機と思いヤケクソで飛び込んだ。

 

「このド畜生があぁあ!!!」

 という貴音の叫びにチンピラ達は怯んだ。

 

「なっ!?!?」

 

 ――――――――――――


 運が良すぎた、元剣道部主将(人数不足が理由)をしていたとはいえ、最近運動していなかったので危なかった。恐怖なのか武者震いなのか震えが止まらない手で彼女に上着を着せ、手を伸ばした。

 

「既に警察と救急に通報してあります。だ、大丈夫ですか?俺はちょっと腕とか切られちゃったけど見た感じ浅いので気にしないでください」

 

 彼女は俺の手を取り立ち上がり。

 

「上の服を切り裂かれただけです。ありがとうございます......ありがとうございます......」

 

警察官だから気丈に振る舞っていたが安心からなのか泣いていた。私は唸っているチンピラ達を縛って立ち去ろうとした。

 

「待って!待ってください!警察として貴方を無視する事は出来ません」

 

そりゃあそうか......やっぱり捕まっちゃうかぁ......俺も悪い事すれば良かったかなぁ......

 

「まあ、そうですよね......私も逮捕ですよね......」

正直、潔く捕まる気は無いので走って逃げようとするが。

 

「違います!貴方も救急車に乗るべきです!こんな私が言う事で無いでしょうが、警察官は市民を守るのが義務です。お気づきでは無いのかもしれませんが頭からかなりの出血が......」

 

言われて頭を触ってみたが確かにぐちゃぐちゃになっている、血生臭い。これは多分斧を逸らし切れなかった時のかな......。

 

「ハハッ、本当だ......俺ダサいっすね」

と自嘲気味に言うと彼女は。

 

「卑下しないでください、貴方は一生忘れる事の無い私の恩人には変わりありません。貴方も安静に待っていた方が良いです。それに貴方は正当防衛になるはずです、私が命にかけても貴方を犯罪者にはしません!」

 

彼女は急に怒った様に話したかと思えば優しく気遣う様に話してくれた。

 

「命と純潔な乙女が守られた際に、命を賭けるなんて言うもんじゃ無いですよお姉さん。ちなみにお名前は何と言うんですか?私は梶原貴音と申します。よっこいしょっと」

 

「九条未来みくです......ってチンピラの山に座るのは流石にダメです......」

 

「あっ......」



――――――――――

 

やっぱり、何度も思い出しても偶々だし運が良かっただけで感謝される様なものでは無いな。

 

「まあアレはたまたまっすから!寧ろ、私がもっと早く動けていたら......初撃を避けていたらって......」

 

「見た目は変わっても、本当に......中身は変わらないのね......私にとっては英雄ヒーローよ......」

 

と優しく微笑む九条さんを見てドキッとしてしまった......取り敢えず、命は救えて良かったと安堵する。

 九条さんはこの後短くとも1〜2週間は入院しないとダメらしい。自分は結果が出るまでの期間の入院する必要が無いと判断されたので退院した。取り敢えず、帰宅する事にした。まだ隕石が落ちて翌日だと言うのにこの騒ぎ、あのミノタウロスは逃してしまったし、他にも脅威は必ず来る。どうにか自分の力を使って大切な人たちを守れないかを考えながら家の方向に飛び出し帰路に着く。

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