帝国の守護者

ケニ

運命の出会い

舞台は西暦125年、ハドリアヌス統治下のローマ帝国。


ローマ帝国最盛期と称えられる五賢帝の時代。その中でも穏健な政策で知られるハドリアヌス帝の治世は、パクス・ロマーナと呼ばれる平和と繁栄の絶頂期であった。


「ルキウス・クラウディウス・カエサル、前へ出なさい」


ローマ軍の士官学校では、厳格な教官の声が響き渡る。士官候補生であるルキウスは、緊張しながらも堂々と前に進み出た。18歳のルキウスは、帝国軍人という夢を叶えるために、この学校で軍事戦略や戦術を学んでいた。


ルキウスは、帝国の中心地であるイタリア半島の小さな村で生まれ育った。幼い頃から、村に駐屯していた軍人たちの勇ましい姿に憧れを抱いていた。15歳の時、士官学校への入学を許可され、家族の期待を背に、首都ローマへとやって来たのだ。


「ルキウス、君の剣術の腕前はなかなかのものだと聞いている。今日は私と手合わせをしてみよう」


教官はそう言うと、剣を抜いた。ルキウスも剣を抜き、構えた。


ルキウスの瞳は鋭く、剣先は教官の動きを捉えていた。教官の剣が振り下ろされ、ルキウスの剣がそれを華麗に受け止める。金属同士がぶつかる音が、訓練場に響き渡る。


「お見事! ルキウス、君の剣術の腕前は噂に違わぬ。しかし、まだまだ鍛えるべき点もある。もっと足腰を鍛え、剣を振るう際の呼吸を整えるのだ」


教官の言葉に、ルキウスは汗を拭いながら頷いた。


士官学校での生活は厳しく、毎日が鍛錬の連続だった。しかし、ルキウスは帝国軍人への夢を胸に、仲間たちと共に切磋琢磨していた。


ある日のこと、ルキウスは仲間たちと市街地を散策していた。コロッセオやフォロ・ロマーノなどの壮大な建造物に感嘆しながら、賑やかな市場を歩いていると、突然、群衆がどよめいた。


「ハドリアヌス帝がご来訪だ!」


人々が道を空け、歓声が上がる。ルキウスたちも好奇心から人波に沿って進むと、そこには一人の男性が立っていた。


ハドリアヌス帝。ルキウスは歴史書でその名を知っていた。穏やかな表情を浮かべた皇帝は、群衆の一人一人に目を向け、優しく微笑んでいた。


「なんと近う!」


ルキウスが驚いた声を上げた。ハドリアヌス帝が、彼に歩み寄ってきたのだ。


「君は士官学校の生徒だろう? 剣術の腕前は群を抜いていると聞いている。私も剣術を嗜む身、ぜひ手合わせ願いたい」


皇帝自ら剣を抜いた。ルキウスは夢ではないかと戸惑いながらも、剣を構えた。


周囲の人々が固唾を呑んで見守る中、ルキウスの剣が皇帝の剣を受け止める。一瞬の静寂の後、剣がぶつかる音が響き渡った。


「見事だ、ルキウス。君の剣術は、ローマの未来を担うにふさわしい」


ハドリアヌス帝はそう言うと、ルキウスの肩に手を添えた。


「私は君を、私の親衛隊に迎えたいと思う。ローマの平和と繁栄を守るために、共に力を尽くそうではないか」


ルキウスの心臓が激しく鼓動した。皇帝自らに認められた誇りと、ローマを守る使命感が、彼の心を満たしていく。

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