2章 fashion編
おしゃれとは?
ガタンドトン。
決して乗り心地が良いわけではない列車の中、僕は揺られながら窓の外の景色を眺めていた。
シルヴィ王女襲撃事件から数日。四連休の初日に僕はモディシュ行きの列車に乗っていた。
モディシュとはアマリス王国のファッションの街といわれるほどおしゃれな街だ。
ちなみにクロはお留守番だ。
なぜ向かっているのかというともちろん『シュバルツ』のイベントに向けてだ。神と握手するのだ。ならば完璧な服装で挑むのが礼儀というもの。
今までファッションというものに全く興味がなかったため、無知な僕が藁にも縋る思いで向かうのだ。
そして、神は麗しき女性と聞く。彼女に合うアクセサリーも見繕ろうと思う。
さて、話を変えてここ数日に起こったことだがエリスから監視任務を解雇された。シルヴィの目的が分かったからと僕では護衛のごの字もできないということらしい。代わりに騎士をつけるようだ。
当のシルヴィは引きこもっているという噂が出回っていた。
そんなことはどうでもいい。結論を言うと自由になった僕はこうやって旅行ができているのだ。
窓の外は先ほどまで畑など緑に染まった田舎臭い雰囲気だったのにカラフルな建物が増えいかにもおしゃれという街並みになっていた。
「次はモディシュ、モディシュ」
車掌の声が響く。そろそろ時間のようだ。手荷物を持って席を立つ。
駅に到着し、扉の先にあるこれまで縁遠かった世界へと足を踏み入れたのだ。
この町をしばらく歩いた。出会う人皆小粋な格好であった。中には理解できないような服装の人もいたのだが僕の知識がないだけだろうか。
ガラスを通して、マネキンが着飾って見えるがどれが自分に合うのかわからない。宝石が装飾されているものに目が行くのだがこの感覚を信じていいのかわからない。
光があれば闇もある。大通りから外れればアダルティな街並みになる。子供だとなめられたのか財布をすられたりしたがソウルで作った偽物なので偽財布を爆発させた。路地裏でギャーという声が聞こえるが気にしない。
しばらくこの通りを歩いているとある店の前に男たちがあふれるほど並んでいるところを見つけた。
何かイベントでもやっているんだろうか。気になったのでむさくるしい人込みを抜け、前線近くまでたどり着いた。
抜けた先にはステージがあり、艶々としたピンク色のミディアムヘアの少女が踊っていた。胸と下半身だけを青い布で隠れ、薄青いひらひらのスカートのようなものをつけた服装だった。
扇情的な彼女の一つ一つの行動で男たちが湧き出す。
そして、僕も彼女に釘付けになる。
いや、この言い方は正確ではないな。
彼女の髪飾りに釘付けになった。彼女が着けている髪飾りは真紅に輝くバラの形をしたものだった。
僕も趣味で宝石を磨いて輝かせるということをしているがあのような形で輝かせるということはできないし、見たこともない。おそらく余程高尚な加工師の仕事だろう。
あれだ。あれを神に渡そう。神がどんな人物かは知らないがきっと似合うだろう。
そうとなれば彼女に接触しなければ。もう少し近くで、欲を言えばどこで買えるのかを。それが聞けなくとも触らせてもらえば自分でも作れるかもしれない。
「うぉぉぉぉ、ロサちゃーーーん」
熱狂的なファンが大声で彼女の名前を呼んだ。ロサというのか。
しばらくするとショーが終わり、ロサはステージ裏へと帰っていった。未だ熱が収まらないファンが前へと出ようとするが警備員に止められたりしている。
混乱している間に僕はそそくさと退店した。
店を出た僕はソウルの残滓からロサの居場所を探知する。居た。位置を把握したのですぐさま行動に起こした。
人気の少ない路地裏。ロサはそこで獣人の男たちに囲まれていた。
獣人とは獣と人間の特徴を掛け合わせた人種だ。
獣人は基本的には人と同じように二足で立っており容姿も似ている。だが頭の上に獣の耳や臀部から尻尾が生えていたりと、それぞれの獣の特徴を持っている。
そのうえ、人より素の身体能力が高かったり、嗅覚が強かったりという獣らしいオプションもついてくる。彼らは尻尾と耳からおそらく犬かオオカミの獣人だろう。
種族の頭数が少ない。基本的に人間社会に関わる獣人は少ないため見かけるのは結構レアかもしれない。
ロサに話しかけている男は黒いサングラスをかけ、左眉の上から縦に傷が入っておりそういう系の人だとわかる。
困ってそうだし、ここで恩でも売っとくか。
「そ、その子を開放しろ!!」
「なっ!?」
啖呵を切りボスらしき男の獣人に突進をかます。男は不意を突かれふらつく。
「「兄貴!」」
「君、この隙に」
ロサの怯えた目にアイコンタクトすると彼女は逃げ出した。そう、それでいい。
ロサを逃がしてひと段落したところ、獣人たちの視線を独り占めする。こういう時は。
「逃げるんだよォォォーーーーーッ!」
「あ、こら。まてっ」
ロサと違う方向に一目散に駆け出す。獣人の身体能力は人間のそれを超えている。アルティメットヘイボン状態の僕では簡単に追いつかれるだろう。
逃げている最中、木箱が積まれている横を通る。その木箱を倒しながら進む。
男が崩した木箱を爪で破壊する。すると木箱から白い粉が煙幕のように舞う。
「何だこれは!?」
ふっふっふ、見たか。これが木箱トラップ。積み上げられた木箱も白い粉も僕がソウルで作ったものだ。獣人は鼻が利くがこの大量の粉の前では機能しずらいだろう。慌てている顔が目に浮かぶ。
彼らが視覚と嗅覚が役に立っていない間に一気に追跡を振り切った。
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