ナースの現実と妄想
肺の持病が悪化し入院した時、母は89歳だった。
高齢者が入院すると、認知症が進んだり、一時的に混乱し「せん妄」が起きることも多い。
「せん妄」とは、認知症とは異なる、一種の意識障害。不安が強まったり、錯覚や幻覚を見る、異常行動や言動、興奮などがみられる状態だとか。
母はそれまで認知症の気配もなく、ガラケーでメールも使えていた。
これまでは入院しても変化はなかったが、今回はさすがの母にもせん妄が出てきた。
コロナ禍で面会もできず、病院の雰囲気も、おそらくこれまでとは違う緊張感があっただろうから、無理のないことだ。
元々心配性だったので、頻繁に父や私に連絡が入る。父は耳が遠くて電話に気づかない時もあり、そんな時は決まって私に連絡がくる。
最初のうちは、ちゃんとメールも話も通じたが、段々と要領を得ないことも増えてきた。
短時間の間に、何度も携帯に着信があり、折り返すが電話に出ない。空メールや、同じ文章のメールが何度も届く。こちらからメールをしても、返信がないことも増え、後日、全然別の事でメールがきたりする。
元ナースだから、自分の状態は把握している。だからこそ、意識がはっきりしている時は色々と考えてしまう。
まだまだ負けないと思いつつも、退院後も在宅酸素が必要だと自覚していたから、早くから自宅に帰らず施設に入所したいと言っていた。
混乱していても、採血の結果が云々とか、自分は障がい者になったので障がい者施設に入れるとか、やたらと医療や介護的な妄想メールがやってきて、さすがにこれにはみんな苦笑。
けれど、家に帰るとは一度も言わなかった。
せん妄が進んでも、ナースはナースなのだ。
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