第44話:古城

「ギルベルト君、ルカさん、着いたよ。ここが目的地、“ヨフリ城”だ」

「「ここが……」」


 小一時間ほど馬車に乗り、俺たちは“ヨフリ城”という古城に着いた。

 モノトーンな配色の頑強な石造りで、城というよりは砦を思わせる無骨な雰囲気だ。

 実際に魔物討伐を始める前に、ニコラ先輩と作戦会議をする。


「さて、いよいよ任務の開始だ。父上から魔物を呼び寄せる〈誘いポーション〉を貰ってきた。これを身体に振りかけて城に入ろう。隠れている魔物も全て討伐しないといけないからね。常に魔物に囲まれるわけだけど、僕たちなら問題ないと思う」

「ええ、俺もそれが良いと思います。取りこぼしが一番良くないですので」

「ボクだって頑張りますよ。お城を魔物から解放しましょう」


 互いに手を合わせ、えいっと気合を入れた。

 それぞれ〈誘いポーション〉を身体に振りかける。

 上階から地下に向かうこととなり、ニコラ先輩が水の手を出して砦の屋上に運んでくれた。

 石畳の床が広がるだけの殺風景な風景、と言いたいところだが……。


「さっそく歓迎会が開かれたようだね」

「「……ですね」」


 屋上には、すでに何匹もの魔物がいた。

 D級のホブゴブリンに電撃イタチ、C級のブルー・ウィスプ……。

 低級の魔物ばかりだが、数はそこそこいる。

 さっそく、〈誘いポーション〉が効果を発揮したようだ。

 ニコラ先輩が静かに笑いながら言う。


「誰が一番早く倒し切れるか勝負しないかい?」

「いいですね」

「ボクも賛成です」


 一瞬の沈黙の後、ダッと三方向に駆け出した。

 俺に迫りくるのは、ホブゴブリンが三体と電撃イタチが四体。

 魔力剣を生み出し、まずはホブゴブリンたちの首を撥ねる。

 その隙を狙うように、激しい電撃をまとったイタチが襲い掛かる。


「《魔力棘》!」

『『ギャアアアアアッ!』』


 魔力剣を操作し、雷撃イタチの心臓を狙って魔力の棘を飛ばす。

 四体とも断末魔の叫びを上げ息絶えた。

 静けさを感じて周りを見ると、ニコラ先輩とルカの戦いも終結していた。

 二人の周囲には、俺と同じように魔物の死骸が散らばる。

 十分も経たぬうちに、たくさんいた魔物は全滅してしまったらしい。


「ニコラ先輩、ルカ、そっちはどうですか?」

「ちょうど全部倒したところだよ。一番最初に倒した自信があったんだがね」

「いやぁ、ギル師匠より速かったと思ったんですけど……一歩及びませんでした」


 まだまだ戦いは始まったばかり。

 迫りくる魔物を倒し、俺たちは地下倉庫へと進む。



 □□□



「……この下が地下室だ。二人とも、調子はどうだい?」

「「上々です」」


 俺たち三人は特に怪我することなく(というか無傷で)順調に進み、地下一階まで来れた。

 古城に棲みついた魔物はD級やC級が多く、思ったより早く最深部の地下室へとたどり着けそうだ。

 もちろん、油断はならないがな。

 ニコラ先輩はもとより、ルカも今ではかなり強くなった。

 ライラ先生の“地獄渡り”と主人公のポテンシャルが掛け合わさったのだから、当然といえば当然か。

 急速な成長ぶりに、どこか怖じ気づく自分がいた。

 忘れがちだが、本来、俺はルカに断罪される運命なんだよな。

 十分に仲良くなっているはずだが、さらに親密な関係となりたい。


「ルカ、怪我はないか? いくら光魔法で治せるって言っても、あまり無理はするなよ」

「ギル師匠……嬉しい」


 少し気遣ったら、ルカはしなっ……としなだれかかってきた。

 親密になりたいとは思ったが、これはちょっと行き過ぎだ。

 慌てる俺を見て、ニコラ先輩が笑いながら話す。


「イチャイチャするとは余裕じゃないか、ギルベルト君」

「あ、いや、そうじゃなくてですね」


 その後も迫りくる魔物を倒し、地下室があるという地下三階までたどり着いた。

 他の階と違って、ここだけ正方形のような広々とした空間が広がる。

 魔物に囲まれる気配はないので、あらかた倒したようだ。

 ……いや、一体だけひと際濃い魔力を感じるな。

 傍らのニコラ先輩とルカも険しい表情で呟く。


「二人とも、最後の山場だ」

「ギル先輩、気を引き締めていきましょう」

「ああ、全力で戦う」


 20mほど離れた正面にいる強力な魔物の姿を見て、俺たちは気合が入る。


『……』


 地下室の扉を塞ぐように立ちはだかるのは……A級魔物、魔導デュラハンだ。

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