第11話 デビューした瞬間、エラいことになった
迷惑系の連中を懲らしめてから、数日後。
俺はネクスト・ホープ所属の新人Dライバー、アヤトとして、デビュー配信を行う事になった。
言わずもがな、デビュー配信というのは極めて重大なものだ。
ここでバズれば将来安泰。もしバズらなければ……かつての自分みたいになる。
だから俺はクリスに対し、いくつもの企画案を持ち込んだわけだが、その結果はというと、
「安心なさい。あんたに小細工は必要ないわ。ただその存在を魅せ付けるだけでいい」
とまぁ、こんな感じで全ボツになったため、デビュー配信の普遍的なダンジョン探索という、実に工夫のないものとなった。
とはいえ配信地はちょっと背伸びして上級階層を選んだし、リスナーに見せるパフォーマンスについても、数え切れないぐらいのイメトレを行ったうえで臨んだのだが。
……さて、現在。
俺はとあるオフィスビルの一角にて、クリス、レナ、二人と対面している。
「……ちょっと、想定外だわ」
執務机に両肘を置き、目の前で手を組みながら、クリスは息を吐いた。
「えぇ。まさかこんな事態になろうとは」
レナもまた、俺達の現状に対し、疲労感たっぷりといった調子で嘆息する。
そんな二人に加わる形で。
俺もまた、感慨を語る。
「いや、本当に。まさか――――ここまで、とんでもなくバズるとは、思わなかったな」
デビュー配信の同接数、その後のチャンネル登録数、共に、こちらの想定を遙かに超えた数字になっていた。
そのことについてクリスが語り出す。
「色んな要素を加味したうえで、同接2万、初日チャンネル登録者10万前後と、予想していたのだけど……まさかその三倍以上になるだなんて」
初配信の同接数は7万。初日チャンネル登録者数は、30万超え。
デビューしたばかりの新人としては、まさに規格外過ぎる数字だ。
平山イツキとしての俺は同接数2桁を超えた試しがなく、チャンネル登録者数も1000人かそこらだった。
それが今や、とんでもないことになっている。
そのことに対し喜びや充実感も、なくはないのだが。
やはりそれ以上に。
「どうしてこうなった……」
自分達が置かれた状況。
ひっきりなしにかかり続けている電話の音を耳にして、俺は溜息を吐いた。
「過ぎたるは及ばざるがごとしと言うけれど……まさにその通りね」
「ご実家に救援を頼みますか?」
「ほんとはそんなことしたくないのだけど、致し方ないわね」
バズりにバズりまくったDライバーを抱えた事務所は、どこも同じ苦労をするという。
現在、事務所の従業員は28名。立ち上げたばかりの事務所としては十分な数だが……この状況に対応出来るほどではない。
「ねぇ、アヤト。あんたのスキルはダンジョン外でも効果を及ぼす、わけだけど……魅了の効果が発揮されるのって、触れた相手に限るのよね?」
「あ、あぁ。スキル説明には確かに、そう書かれてあるけど」
「となると、隠された効果が存在するのか。あるいは……別の原因があるのか」
クリスは顎に手を当て、じばし考え込んでいたが、結局、答えは見つからなかったらしい。
「……まぁ、いいわ。とにもかくにも、万事順調ってことで」
そのように結論付けた後。
彼女はまっすぐにこちらを見つめながら、一つ、問いを放ってきた。
「ところで……あんた、あたしに隠し事してるでしょ?」
思わずビクッとなる。
「か、隠し事なんて、そんな」
「ふぅん? じゃあ、なんで目が泳いでるのかしら?」
……これは、カマかけだろうか? それとも、バレているのか?
……どちらにせよ、隠し通すべきでは、ないのかもしれない。
「えっと、その……迷惑系の連中に、さ、対応したときのことなんだけど」
話す。
隠しておきたかったことの全てを。
「終わった後にレベルアップして、それで、新しいスキルが解放されたんだ」
「……内容は?」
まずは憤怒のパッシブ。
これは特に隠したいものでもない。
新たに獲得した《狂暴》というパッシブ・スキルの内容は、感情が昂ぶっている際に全ての状態異常効果を無力化するといったものだった。
……問題なのは、次だ。
「それで、その。色欲の方も、パッシブ・スキルが解放されたんだけど」
「…………内容を、教えてちょうだい」
俺は言葉を選んだ。
それはもう、悩みに悩んで。
その帰結として導き出された答えが、これだ。
「だ、男女の仲になった相手の数を増やすほど、パラメーターに強力な永続バフが発生。して……その効果は、相手にも及ぶ……みたいな」
沈黙が、返ってくる。
だから言いたくなかったんだ。
経験した相手の数だけパワーアップ。
経験した相手もついでにパワーアップ。
しかも表記された文言からして、新たに獲得したパッシブ、《欲宴の帰結》の効果は《魅了と肉欲のシナジー》よりもずっと高いものだと思われる。
だが、そうかといって。
強くなるために女を抱きたい、だなんて、そんなこと恥ずかしげもなく言えるわけがないだろう。
「……ウソじゃ、ないのよね?」
「こ、こんなウソ、吐くわけないだろ」
さしものクリスも引いているのだろうか?
その美貌は伏せられていて、どのような表情をしているのか、まったくわからない。
「…………」
痛々しい沈黙。
その末に。
クリスは、ゆっくりと顔を上げて。
「レナ――」
頬を紅く染めながら、言った。
「――――ホテルの予約を、してちょうだい」
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