第4話 底辺配信者の奮闘


 ……俺達に油断はなかった。


 俺の様な凡人は当然のことながら、トップDライバーである三人にしても、敵方の脅威を肌感覚で察知したのだろう。


 タケル、カズオミ、クリス。

 国内最高峰の三人は一切の手抜きなく、最初から全力で挑みかかり、そして……


 完膚なきまでに、叩きのめされた。


「クソッ……! クソッ……!」


 タケルは一撃でシールドを破られ、もはや地面に這いつくばることしか出来ない。


「なん、なんだ、こいつは……!?」


 カズオミもまた両膝を地面につき、身動きが出来ない状態にある。


 今、しっかりと立っていられるのは、俺とクリスだけだった。


 さりとて。


「だ、大丈夫か、天音さん……!?」


「ま、まだまだ、元気いっぱい、よ……!」


 嘘だ。

 実際のところ、立っているのが不思議なぐらいのダメージを受けている。


 ボロボロになった衣装から覗く素肌。

 平時は透き通るように白いそれが、今は青痣と鮮血に塗れていて、あまりにも痛々しい。


 タケル。カズオミ。クリス。

 三人とも満身創痍の状態だ。


 その反面、敵方はといえば。


「dkdk※smd※kさkてえkを」


 奇妙な鳴き声を出しながら、平然とした様子でこちらを見ている。


 黒いモヤに覆われた怪物。

 その巨人めいた威容には、ダメージを受けた感がまるでない。


 ……当初、俺は三人に頼るつもりでいた。


 俺のような三下が出しゃばっても、足を引っ張るだけだと、そう感じたからだ。


 しかしこうなってしまっては、もはや。


 出張るしか、ない。


「天音さん。まだ、動ける?」


「……一撃、叩き込むぐらいなら、余裕」


 その返答を受けた後、俺は身動きが取れない二人へと目をやり、


「チャンスを作る。しっかりモノにしてくれよ」


 言葉を投げてからすぐ。

 俺は、踏み込んだ。


「ッ……!」


 勇気を振り絞り、銃器型の武装で以て攻撃。

 銃口から放たれた光弾は、しかし、相手からすれば豆鉄砲ですらなかった。


「jdsd※ks&lkっkさdm」


 奇怪な鳴き声を吐くと同時に、奴の全身から闇色の球体が大量に放たれた。


 躱す。躱す。躱す。


 ……どうやら三人との戦闘で、ある程度は疲労したらしいな。


 これぐらいなら、なんとか捌くことも出来る。


 俺は必死に球体を避け続け、そして。


 肉迫する。


「jdsjld※kさこd%&k!」


 豪腕を繰り出し、こちらを迎撃する闇色の巨人。


 これまもた、回避は可能だ。


 しかし……


「イツキッ!?」


 悲鳴にも似たクリスの声。


 それは、あえて相手の一撃を浴びようとする、こちらへの疑問符であった。


 無論、自殺行為であることは理解している。

 だが、この一か八かの賭けに勝たない限り、俺達に未来はない。


 俺のスキルは……《硬化》。


 自らの肉体、あるいは触れた物体を硬くする。ただそれだけの力、だが。


 応用力は、ある。


 だから、この一撃にさえ耐えられれば……!


「ぐッ……!」


 スキルを発動する際に消耗するエネルギー、技力を総量の半分ほど用いて、自らの肉体を硬化させ、巨人の打撃を受け止める。


 こちらの胴全体を打ったそれは、予想通りの衝撃をもたらしたが……

 予想以上では、ない。


「う、くッ……!」


 なんとか耐えた。

 あとは奴の腕に、しがみついて。


《硬化》を、発動する。


「触れた物体を、硬くする、ってのは……! それを、固めるって意味でも、ある……!」


《硬化》の応用により、俺は奴の全身を硬直させた。


 もっとも、奴から奪った時間はおよそ、二、三秒程度だろう。


 だが……

 あの三人からしてみれば、十分過ぎるほどの隙だった。


「イツキッ!」


 まずクリスがこちらへ急接近し、俺の身柄を抱え、避難。


 その直後。


「くぅらえぇええええええええええええええええええええええッ!」


 タケルの灼熱が闇色の巨人を飲み込む。


 これほどのクリーン・ヒットは初のことだ。

 まず間違いなく、ノーダメージではいられない。


 だがおそらく、仕留めることは難しいのではないか。


 それはカズオミの力を加えてもなお、同じことだろう。


 そんな現実を受け止めていたのか、彼は合理的な判断を下した。


「業腹だが、ここは……!」


 氷壁を顕現させ、タケルが放った灼熱ごと、巨人を閉じ込める。


 この行動を受けて、クリスは自分がすべきことを理解したらしい。


「イツキ! 自分で走れる!?」


「あぁ……! 問題、ない……!」


 こちらの首肯を受けた後、彼女は身動き出来ない二人を両脇に抱え―


 一目散に離脱した。


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