第27話

 翌日の正午きっかり、ロビンはアナを迎えに来た。

 手土産にと渡された花は、彼女の好む淡い色合いの花束だった。

 侍女に渡して部屋に飾るようお願いし、二人はベイア領の中でも人気のレストランに行った。


 そこでもアナの好きな魚料理をメインとしたコース料理が出てきて、これは何かあるなとさすがの彼女も察する。


 ロビンはもともと多弁な方ではないが、それでも今日はいつにも増して口数が少なく目線も合わないのだから分からない方がどうかしているとアナは思ったが、しかしそれを「どうして」と問うことはできなかった。


 彼女のこれまでの経験が、その問いを口にすることを躊躇わせるのだ。


「ロビン様」


「……食事の後は少し遠出をしてもいいか? 帰りの時刻は遅くならないようにするから」


「え、ええ」


 しかし意を決して口を開けば、彼女が何かを言おうとするのを察したらしいロビンがそう提案する。

 そうなればアナはやはり口を閉ざすしかできない。

 ロビンは馬車を走らせ、ベイア領内にある花畑に連れて行ったかと思うとそこでも沈黙を貫いた。

 結局綺麗な景色を見たところで何も進展はないまま、二人は帰路につく。

 

 そうして家の前で送ってくれたことに感謝の言葉をアナが口にしようとした瞬間、ロビンが眉間に皺を寄せて先に口を開いた。


「すまない」


 呼び止められた状態で言われたその台詞に、彼女は『またか』と思った。

 思ってしまった。

 そう、この状況には覚えがあるのだから仕方がない。


 アナにとって思い出と呼ぶには苦しい記憶が、蘇る。


 彼女の目から、ぽろりと涙が零れ落ちた。

 だがそんな彼女の涙を見ても、目の前の男は眉間に皺を寄せ辛そうな面持ちのまま繰り返すのだ。


「すまない、アナ」


 涙を零すアナを前に、ロビンはそれでも言葉を続ける。

 周囲で使用人たちが慌てる様子を見せても、二人ともその場から動けなかった。


「本当に……すまないと思っているんだ。だけど」


 すまない。

 その言葉は、アナにとって辛い思い出そのものだ。

 ああ、この人にも別れを告げられるのか。

 自分はいったい何が悪くてこうも・・・捨てられるのだろう。


 逃げ出したいのに動けないのは、もはや意地なのかもしれない。

 もしかすれば今日彼女が好む場所にばかり足を向けたのは、最後の最後で罪悪感を抱いたからだろうか。


 やはり自分が彼に不釣り合いな、まだ子供のような存在だからだろうかと彼女がうつむきかけたその瞬間だった。


「もうこの中途半端な関係は嫌なんだ。アナ・ベイア子爵令嬢、どうかこの俺、ロビン・マグダレアと結婚してくれ! すぐにでも!!」


「――え……?」


 それはアナにとって予想外であり、騒ぎを聞きつけたヨハンと子爵が目を丸くするような、周囲の小鳥も飛び立つ程のロビンの心からの叫びだった。

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