第12話

 心配そうな二人に、アナはパッと笑顔を見せる。


「読書クラブで知り合ったオフィーリア様とお話して、もっと外国語を学びたいなと思って! それに、代筆のお仕事が結構いいお小遣い稼ぎになるの」


「そっか。俺も領地経営って難しいなと思ってもう少し学びたいと思ってんだよなあ……乗馬ももっと上手くなりたいし。領地に戻ったら馬を買ってもらおうかなあ、それともおじいさまにねだった方がいいと思う?」


「そうね、おじいさまに相談した方がいいんじゃないかしら。うちの領地の周囲には良い馬の産地ってなかったでしょう?」


 そういう意味で考えるならば、王都で商人をしている祖父の方が伝手ツテがある。

 領地経営をしている父親にも伝手はあるだろうが、今は悪い意味で注目もされているベイア子爵家としては大人しくしておくのが一番だった。


「まあ、素敵ね二人とも。わたくしは王子妃教育が始まるから、三年次でお別れだわ……」


 ジュディスはがっくりと肩を落とすが、それは仕方がないと二人は慰める。

 いずれにせよ、その通りの未来を迎えるためにも努力は必要なのだ。


「あ、そういえばですけれど、今度町歩きに許可が出そうですの!」


「まあ、良かった」


「護衛はやはりつけねばなりませんけれど、アナたちが祖父君のお店に誘ってくださったから……」


 ジュディスは元より侯爵令嬢であり、そして王子妃となることが決まっている高貴な令嬢だ。

 ゆえに町歩きなど貴族の令嬢としては滅多にできるものではなく、特に市街地にある一般市民が利用するような店舗に足を運ぶなど許される立場になかった。

 

 勿論、令嬢たちの中には興味本位で身分を偽りお忍びでの日帰り旅を楽しむなど行動派もいるが、その際に彼女たちに何かあれば関与した者全てが処罰を受けるのだ。

 護衛にその場にいた人間、誘拐などの事件ともなれば周囲に被害が出る可能性だってありえる。

 

 それを思えば気軽に『行きたい』などと口にできない程度の分別が、ジュディスには備わっていた。

 しかしそんな彼女とて年頃の少女だ。

 自分の立場に対する思慮とは別に、周りの話を聞いて行ってみたいと思う好奇心はある。


 彼女のそんな悩みを知っているアナとヨハンは、護衛を連れつつ安心して店を回れないか祖父に相談したのだ。

 その結果、祖父はお得意様・・・・のために店を貸し切りにすると言ってくれたのだ。


 身元の調査を受けてもいいと言ってくれた店員と祖父が対応し、護衛を何人でも連れてきてくれて構わない、そして馬車を停めておけるよう搬入口を解放するとまで言ってくれたのだ。


 そこまでしてもらえるならばと侯爵も折れてくれたというわけである。


「護衛にはわたくしの兄がつきますの。それ以外にもおりますが、是非とも二人に紹介させてくださいませね!」


「まあ、お兄様」


「ジュディスの兄さんか。どんな人か楽しみだなあ」


「名前はモーリス、以前にもお話ししたと思いますがわたくしには二人兄がいます。モーリスは下の兄ですわ! 騎士隊に所属しているので、ヨハンと気が合うかもしれませんわね」


「そいつは楽しみだなあ」


 楽しげに笑うジュディスを見て、アナもヨハンも祖父に相談して良かったと心から思うのだった。

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