第252話 不知火の告白

「もうメッセージは送ってます。放課後、屋上に来てくれと」


 そう俺、不知火洋介が言ったとき、屋上の扉が開いた。上野さんだ。

 上野さんはいつもの制服の姿に戻り俺たちに近づいてきた。


「あれ? 陽春先輩と櫻井先輩も居たんですね。で、不知火、話って何?」


 上野さんはいつもと全く変わらない感じで俺に言った。


「上野さん……俺たち、結構、いや、すごく、仲良くなったと思う」


「まあ、そうね。それで?」


「だから……今の関係のままじゃちょっと……」


「ちょっとなんなの?」


「ちょっと嫌というか……もっと、関係を進めたい。はっきりさせたい」


「ふうん……それで?」


 上野さんの様子はいつもと変わらない。風でなびく髪を押さえながら普通に話していた。その上野さんをしっかり見つめ、俺は言った。


「上野さん、好きです! 俺と付き合ってください!」


 俺は頭を下げて、ついに告白した。


「……告白はしないでって言ったと思うけど?」


 上野さんは不機嫌そうに言った。


「そうだけど……どうしても気持ちを抑えられない。このままじゃ嫌なんだ! 俺の彼女になって欲しい!」


 俺は自分の思いをぶつけた。


「はぁ……」


 上野さんはため息をついた。やはりダメか。いや、それは想定内だ。


「私、卓球で勝って、なんでもお願いできる権利があったよね?」


 やはりそのパターンか……


「うん、あったね」


「じゃあ、それ使うから」


「う。うん……」


 やはり、告白そのものが無かったことにされてしまうのか。

 でも、その場合にはまた明日……


 だが、上野さんの言葉はたくさん想定したパターンのどれにもないものだった。


「付き合ってることは絶対他の人に言わないように」


「え!?」


「これが私のお願いだから。必ず守ってね」


「上野さん、それって……」


 全く想定していない答えに俺の頭はパニックとなった。


「話がそれだけなら、私、演劇部で初日の打ち上げに行かないといけないから。じゃあね」


 上野さんは屋上の出口に歩き出した。


「え、上野さん!」


 俺は思わず叫ぶ。


「何? 洋介」


「洋介って……」


「だから付き合ってるんでしょ。二人の時は名前で呼ぶから」


「上野さん……」


「雫でしょ」


「し、し、し、雫……」


「はぁ……まあ、いきなりは難しいでしょうから、上野さんでいいわ。それだけ? 私急いでるから」


 上野さんは屋上を出て行こうとした。だが、そこで陽春先輩が上野さんに飛びついてきた。


「雫ちゃん! おめでとう!」


「な、なんですか……陽春先輩が素直になれってさんざん言ってきたじゃないですか」


 陽春先輩がそんなことを……


「うん、でも、正直びっくりした」


「でしょうね。でも、もし告白されたらこうするって決めてました。隠してさえおけば、今と大して変わらないので……」


「そうなんだ」


「はい。あ、陽春先輩も櫻井先輩もこのことは秘密でお願いしますね」


「もちろんだよ!」

「わかってる」


 陽春先輩も櫻井師匠も了承してくれた。


「でも、本当のところはまだ告白して欲しくなかったですけどね…・・みんなに嘘をつかなきゃいけなくなりますので。今までは本当に付き合ってないから、楽でしたけど」


 上野さんはそう言って、にこりと笑った。


「上野さん、ごめん……」


「いいわよ。まあ、時間の問題だろうと思ってたし……」


「でも、ほんと、良かった……雫ちゃん、おめでとう!」


 陽春先輩が改めて言った。


「ありがとうございます。じゃあ、行きますね」


 上野さんは出ていった。


 俺はその後ろ姿を呆然と見送るしかなかった。えーと……つまり……俺が上野さんと付き合っている? 恋人同士? ずっと望んできたのに、その現状が信じられなかった。


「不知火、しっかりしろ!」


 櫻井師匠が俺の肩を叩く。


「は、はい!」


「付き合いだしたんだからな。最初が肝心だぞ。しっかり連絡して、相手を不安にさせずに、ちゃんと彼氏をやれよ」


「は……はい!」


 さすが櫻井師匠。俺もしっかりしなくては……


「ほんと、不知火君、おめでとう!」


 今度は陽春先輩が近くに来て言ってくれた。


「ありがとうございます!」


「雫ちゃんを泣かせないように頑張ってね!」


「はい、もちろんです!」


「うん! あ、早速、ダブルデートも考えたいなあ。えーと、月曜は代休だけどさすがにきついから遠出は出来ないし、近場ならどこかなあ」


 陽春先輩は早速、予定を考え出していた。


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