第126話 勉強会2

 陽春の家に到着し、陽春と上野さんが率先して家に入る。


「たっだいまー!」


「ただいま帰りました」


 上野さんも『帰りました』なんだ。


「ほーい、みんなも良く来たね」


 よく見ると陽春のお姉さんの亜紀さんだ。そういえば、陽春、昨日は家族の日と言っていたな。亜紀さんが帰っていたのか。


「お邪魔します……」


 俺も陽春の家に入る。


「お、和人君。久しぶり。まだ、陽春と続いてるんだね」


「も、もちろんです!」


「そっか。意外に粘るね。陽春のことだからすぐ別れると思ってたよ」


「そんなすぐに別れませんから」


「まあ、頑張って」


 なぜか亜紀さんにはすぐ別れると思われている。


 俺たちは以前と同じ部屋に入った。ここには長方形のテーブルがある。


 テーブルの長い方に、達樹と笹川さんが横に座った。その向かいに陽春と上野さんが座る。


 俺と不知火は短い方に座った。俺のすぐ近くに陽春、そして、不知火の近くには上野さんだ。


「よし、頑張るぞ!」


 陽春が言って、教科書を開いた。


「早速なんだけど、雫ちゃん、これ……」


「あ、はい、これですね……」


 それを見て不知火が言う。


「あれ? 陽春先輩が上野さんに教わってます?」


「うん、そうだけど」


 陽春は「それが何か?」と言った顔で不知火を見た。


「いや、えっと……陽春先輩、二年生ですよね」


「そうだよ。先輩だからって三年生じゃないからね」


「いや、そうじゃなくて……上野さん、一年生だし」


「別にいいでしょ。一年生が二年生教えても」


 上野さんが不知火をにらんだ。


「そ、そうだね……」


「あ、そういうことか。不知火君、前回来てなかったもんね。ウチ、勉強できないから雫ちゃんに教わってるんだ。すごく分かりやすくて」


「そ、そうなんですか……上野さん、やっぱりすごいな」


「見直した?」


 上野さんが不知火を見る。


「う、うん。すごいよ」


「まあね……じゃ、陽春先輩、始めましょうか。私、今回に備えて二年生のところもしっかり勉強してきましたから」


「そうなの? ありがとう!」


 上野さん、準備までしてきたのか。そこまでやってくれるのはありがたいが、自分の勉強は大丈夫なんだろうか。


 横を見ると、達樹が笹川さんから教わっていた。


「だから、これがこうなるでしょ」


「う、うん……」


「分かってないね。この公式は?」


「なんだっけ?」


「そこからか。じゃあ……」


 笹川さんも基礎から教えているようだ。以前は陽春を教えていたんだから、そういうのも慣れているのだろう。


 俺は黙って自分の勉強を始めた。授業を真面目に聞いていないことも多かったが、教科書を読んでいけばなんとかなりそうだ。


 しばらく時間が経ち、ふと、不知火を見ると自分の勉強はせずに上野さんの方ばかり見てる。上野さんは陽春にかかりっきりだ。ここは師匠として助けてやるか。


「不知火、何か分からないところがあるのか?」


「あ、まあ……」


「じゃあ、上野さんに教わったらどうだ」


「そ、そうですね……上野さん、教えてもらえないかな」


 不知火が上野さんに声を掛けた。


「不知火は学校で中道さんに教えてもらえば?」


 上野さんが冷たく言う。


「中道さんはそういうのじゃないから。俺は上野さんに教えてもらいたい」


「私は陽春先輩に教えるのに忙しいし」


「そ、そっか……」


「うん。じゃあ、陽春先輩。次はこっちですね」


「う、うん……」


 そう言って上野さんは不知火から顔を背けた。

 不知火は泣きそうな表情だ。これはまずいな。


 そのとき、笹川さんが上野さんに声を掛けた。


「雫ちゃん、そろそろいいんじゃない?」


「え、何がですか?」


「不知火君。十分、反省してるから」


「そうですかね」


「そうよ。顔見てみなさい」


 上野さんが不知火の泣きそうな顔を見た。それを見て、上野さんは「ぷっ」と吹き出してしまう。


「アハハ、何よその顔」


 上野さんが笑う。


「だ、だって……」


 それでも不知火は泣きそうだ。


「わかったわよ。まったく……泣かないの。で、どれがわからないのよ」


「こ、これとか」


「これ? 簡単じゃない。これはこれを……」


 上野さんは不知火の方に近づいて説明を始めた。

 陽春が俺の方に来る。


「もう大丈夫かな」


「多分な」


 上野さんは笑顔も出てるし、機嫌を直したようだ。


 それにしても笹川さん。同じツンデレとしてデレるタイミングを上野さんに教えてあげたのかな。

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