少女と弟②

  次の休日、僕は姉さんに言われ、揶揄ってくるクラスの子達を学校へ呼び出した。

 呼んだメンバーはクラスのリーダー格であり、侯爵家の長男のタクト・シューバー君とその取り巻きのアルマ君とウルス君だ。

 タクト君はクラスで一番爵位の高い貴族で、クラスの男子を仕切っている、赤い髪とキリッとした釣り目が特徴的な男子で、一番僕をうんこの弟として揶揄ってくる。

 僕が約束の時間に着くと、そこにはすでに三人が集まっていた。


「よう、リッド。今日は聖女様が直々うんこについて教えてくれるんだってな?」

「うんこの聖女だろ?やっぱり臭うんかな?」

「ああ、きっと臭くて汚ねえぜ。」


 そう言って三人は鼻をつまみながらへらへらと小馬鹿にしたような笑いを浮かべ、僕を揶揄い始める。


「どうしよう、臭いが移っちゃったらー」

「そんな事になったら、そりゃトイレにでも暮らすしか――」

「皆さんがリッド君のお友達ですか?」


 そして少し遅れて、資料を手に姉さんが学校へやってきた。


「初めまして、私リッド君の姉のマリア・ランドルフと申します。今日はよろしくお願いしますね。」

「「「……」」」


 恐らくうんこの事が書かれているであろう資料を膝の前に持ち、ゆったりと歩いてくる姿は、一つしか変わらないにも関わらず大人びいて見え、姉さんがタクト君たちを見つめながらニコリと微笑むと三人は見事に固まってしまった。


 正確に言えば見惚れているのだろう。

 まあ、そうなると思っていたよ、話を聞く限りうんこと言う言葉が先行し、姉さんを相当下品な人に想像をしているようだったし。だが姉さんはその真逆で、口さえ開かなければ誰よりも上品だ、寧ろ以前の頃の方がよっぽど聖女に見えたよ。そう、うんこさえ言わなければ――


「今日は皆さんにうんこの素晴らしさを伝え、是非うんこを好きになっていただきたいと思います。」


 ……


 休日で教室が閉まっている事から、僕たちはとりあえず、校舎の外にあるベンチを使ってうんこの勉強会を始めた。


「では、まずは皆さんは、何故うんこを嫌うのですか?」

「え、えーと……それは……やっぱり臭くて汚いし。」


 ウルス君が恐る恐る答える、さっきまでの勢いはどこにいったのやら。


「そうですね、うんこは臭くて汚いです、ではそれは何故でしょう?」

「え?それは――」


 そう尋ねられると、皆真剣に考え始める。うんこは臭くて汚いもの、そう認識していたので聞かれるまでそんな事考えたこともなかった、気が付けば僕も一緒になって考え始めていた。


「答えは皆さんのお腹の状態が原因です。うんことは言わばお腹の中のゴミ捨て、皆さんが食べたものが消化され、溶け切らなかった不要なものが固まって出てくるのがうんこで、その臭いは皆さんのお腹の状態によって変わってくるのです。つまり、うんこが汚いのは皆さんの中の不要なものが集まったものだから、臭いのは皆さんのお腹の状態を教えてくれるサインの様なものなのです、つまり臭くて汚いのは皆さんのお腹を綺麗にしたからです。」

「へー、なるほど。」

「だから、うんこをすることは体にとって、とてもいい事です。」

「そう言われれば確かに……」

「まあ、それでも嫌いなものは嫌いだけど。」

「では、今の話を踏まえて次の質問です。皆さんは何故うんこをする人を揶揄うのでしょう?」

「え?」


 そう言われると、言葉を詰まらせる、まあ考えてみれば学校でうんこをすることをバカにする理由なんてないんだから当然だろう、特に今の話を聞いた後では余計にね。


「え、えーと、それは……」

「そうだ、タクトさん言ってやってください!」

「そうです、うんこについて一番揶揄ってるのタクトさんですもんね。」


 ウルス君とアルマ君が言葉を探すが見つからず、先ほどから一言もしゃべっていない、タクト君に投げかける

 しかし……


「何のことだい?」

「え?」


 タクト君は裏切った。


「君たち、たかだかうんこという理由だけで人を揶揄い囃し立てるなんて、虚しいとは思わないのかい?」


 突然の手のひら返しに取り巻き二人が困惑し始める、なんか口調も変わってきてるし。


「え?でもタクトさんが。」

「大体、うんこは皆がすることだろう?なのにそれをバカにするなんて君たちはうんこをしないのかい?」

「い、いえ、するにはしますけど……と言うよりその口調なんすか?なんか腹立つなあ。」

「そもそも、初めに言い出したのタクトさんじゃないですか!」

「言ってませんー」

「言いましたよ」

「そうだそうだ!」

「いつ?何時何分何秒?朝日が何回昇った時ー?」


 三人は僕たち姉弟を放って、仲間割れを始める。


「あの、では皆さんから何か質問とかはありませんか?」


 流石に放っておけなかったのか、姉さんが話に割って入るが皆沈黙する。

 そもそも言い出しっぺだったタクト君が、早々手のひら返したのだから、質問なんてないだろう。


「はい!」


 と思ったら、タクト君が勢いよく手を上げる。


「どうぞ。」

「その……お姉さんも、うんこするんですか?」

「タクトさん?女性に対して何聞いてるんですか⁉︎」

「はい、勿論うんこしますよ?」

「そうですか、へへへ……ありがとうございます。」

「何でお礼言ってんの⁉︎」


 その後三人は初めの目的を忘れ、言い争いをし始めると、その争いにいつの間にか僕まで巻き込まれていた、姉さんはその様子を微笑ましく見守っていた。

 次の日になれば、三人はいつも通りに戻っていたが、何故か僕も取り巻きの一人になっていた。

 ……まあ、嫌ではないけど。

 しかし、この日以降、なんだかタクト君が少しずつおかしくなっていった

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