第23話 皇女に張り返して二人で取っ組み合いの喧嘩していたら礼儀作法の先生が出てきて延々と怒られる羽目になってしまいました

パシーン 


私は一瞬何をされたか判らなかった。


頬に痛みを感じてから、始めて頬を張られたのに気付いたのだ。


私はこれまで一国の王女として遇させてきた。当然両親にも臣下にも頬を張られたことなんて無かった。


普通は頬を張られたことなんてあるわけは無いのだ。


百歩譲って緊急時に意識を無くしたところを意識を取り戻すために臣下に頬を張られるということはあり得る。


しかし、今は緊急時でもなければ、頬を張られなければならないところは何一つ無いのだ。

たとえ帝国の我儘第一皇女として有名なクリスティーナ様と言えども私を一国の王女として遇しているのならば、絶対に頬を張ったりするところでは無いはずだ。


普通、許されるものではない。


まあ、私は、この前の断罪時に、クラーラに頬は張られたけれど……


あれはあれで後々考えたら頭にきた。


たかだかメンロス王国の公爵令嬢風情にハウゼン王国の皇女が頬なんて、張られて良いものではないのだ。下手したら処刑だ。


私も前世の記憶が戻ってこのままでは殺されると動転していて張られっぱなしでそのままにしたが、あの時に張り返せば良かったのだ。

と言うか、処刑にすることをあのボケナス王太子に迫るか、張り返せば良かったのだ。


「あのような格下のものに侮られて、何をしているの? 無様な! 帝国の皇子妃になろうというような者があの様な者たちに侮られるような真似をさらして……」


パシーン


私は講釈をたれる第一皇女の頬を張り返したのだ。

そうだ。私を一国の王女として遇するなら、ここは張り返しても問題は無いはずだ。


「えっ」

第一皇女は唖然とした。純粋培養の大帝国の皇女ならば頬を張られたことなんて無かったはずだ。人から張られて始めて頬を張られるとどれだけ痛いか、骨身にしみれば良いのだ!


周りのみんなも唖然として私を見ていた。


まさか私が張り返すとは思ってもいなかったのだ。


「失礼。手が滑りましたわ」

そう言いつつ私は自分の手を押さえた。


とても痛かったのだ。人を張るというのは自分の手も痛めるものなのだというのを始めて知った。


「あ、あなた、私、お兄様にしか張られたことが無いのに。よくも」

えっ、ルヴィはクリスティーナを張り倒したことがあるんだ。

始めてじゃないのならば、私が張っても良いわよね。

私は安心した。


「ふん、私も王女としての矜持がありますわ」

そう言って胸をそらして言う私に


「あなた何してくれるのよ」

第一皇女が掴みかかってきたのだ。

帝国って女でも殴り合いの喧嘩を普通にするところなんだろうか?

マイヤーさんにも頬を叩かれて気合を入れられたし、帝国って野蛮国家というのはあっているのかもしれないと思いながら私もやり返した。

私達は折り重なり合って廊下の上に倒れ込んだのだ。


「ちょっと、何よ」

「痛い! よくもやったわね」

「何言っているのよ。お前こそ」

「あんたこそ」

私達はくんずほずれつの取っ組み合いになったのだ。


「ちょっ!」

「殿下おやめ下さい!」

「あ、あの」

周りの侍女や騎士たちは驚いて止めようとしたが、片や我儘皇女として有名な第一皇女で、もうひとりは皇位継承第一位の第一皇子が連れてきた元王女だ。侍女も騎士たちも流石に手をだしかねていた。


私達は上になり、下になり取っ組み合いの喧嘩をしていた。


もう髪飾りも、イヤリングも飛んでいって髪型もめちゃくちゃになっていた。



「ちょっと、何をしているのですか?」

そこへ、大声がしたが無視していると、


「いい加減にしなさい!」

二人の耳元で大声が響いた。

「ええい、だまっらっしゃい!」

クリスティーネの肘鉄がその人の顔を直撃したのだ。


「ロッテ・マイヤー様!」

誰かの声に


「「えっ」」

私達二人は流石に止まったのだ。


今、史上最悪の名前が呼ばれたような気がした。


そして、停めてくれた、その張本人を見ると、メガネが吹っ飛んで顔に痣を作った怒髪天で立っているロッテ・マイヤーさんがそこにいたのだ。


「クリスティーネ殿下、アデリナ殿下」

地獄の閻魔もかくやという凍りついた声で私達は呼びかけられたのだ。


「「はい!」」

私達は自分の犯した事を理解した。


「これは、どういうことですか?」

「この者が、私を張り倒したのよ」

「何を言っているのよ。張って来たのはそちらが先でしょ」

「あんたが、仕返ししてくるからでしょ」

「あなたが最初に張って来たからですよ」


「だまらっしゃい!」

マイヤーさんの怒鳴り声にさすがの私達も黙った。


「クリスティーネ様、アデリナ様。一国の皇女(王女)たるものが、侍女や騎士が見ている前で何をしているのですか! それも止めようとしたものに暴力を振るうなど言語道断です……」


それから延々と私とクリスティーネは怒られ続けたのだった。

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