第8話 隠れていたルヴィが助けて逃げてくれました

私は隣のベッドで寝ているルヴィの布団の盛り上がりがナイフで刺し抜かれるのをはっきり見たのだ。


私は

「キャーーーー」

その瞬間悲鳴を上げたのだ。


「女、静かにしろ」

ルヴィを突き刺した男がこちらを見た。周りには更に5人くらいいるみたいだった。


嘘、ルヴィがやられた、そんな馬鹿な、私は信じられなかった。


そして、今度は男たちがナイフを手にして私に近づいて来ようとした。


殺される!


私が恐怖に震えた瞬間だ。


ズンっ


一瞬で私に手をかけようとした男たちが弾き飛ばされていた。

窓ガラスが飛び散って男たちが窓から飛んでいった。


「ルヴィ!」

押し入れから飛び出したルヴィが剣を一閃したのだ。

剣は触れもしないのにその瞬間男達を斬り飛ばしていたのだ。

剣を振るだけで、触れてもいないのに離れている敵を攻撃できる仕組みがよく判らなかったが、後でソニックブレードだとルヴィは教えてくれた。剣を凄まじい速さで振ると剣先の方向に攻撃できるらしい?

私には何故できるか良く判らなかった。


でも、今はそれよりも、

「えっ、何で無事なの?」

確かに斬られたと思ったのに。

「幻覚魔法で布団に寝ているように見せて、俺は押し入れに隠れていたんだよ。行くぞ」

ルヴィは詳しく説明する間もなくそう叫ぶと私を抱き上げてくれたのだ。


「えっ?」

いきなりのお姫様抱っこだ。

でも、真っ赤になる暇もなかった。


ルヴィはそのまま窓から私を抱きかかえたまま、飛び出してくれたのだ。


「キャッ」

私は悲鳴を上げた。

ルヴィはなんと私を抱き上げたまま飛び降りてくれたのだ。


胃の中のものが逆流する。

というか、王女を抱き上げて飛び降りるな!

私は叫びたかった。

たしかここは3階だったはずだ。


私は目を思いっきりつぶってルヴィに抱きついた。


ダンッ


平屋のトタン屋根か何かに飛び降りて衝撃を吸収して、そのまま、

「シロッ!」

ルヴィが叫んでくれた。

そして、ルヴィが飛び降りた所に白馬が駆けてきてルヴィを乗せてくれたのだ。


ルヴィはついでに傍で構えていた2人の敵を斬り飛ばしていた。


シロって犬じゃなくて馬の名前だったの? と思わず頭によぎったが、そんなのは一瞬だった。白馬が先にいた敵の二人を蹴り倒したのだ。

この世界の馬って前足でも人を蹴倒すのか?

私にはよく判らなかった。


そのままシロを駆って大通りにルヴィは飛び出したのだ。



「追え!」

後ろで慌てて馬に乗る敵が見えた。


「リナ、逃げるぞ。ちゃんと俺にしがみついておけよ」

言われるまでもない。私はルヴィに両手でしがみついていた。


シロは凄まじいスピードで駆け出した。


「いや、ちょっと待って……」私は馬に載るのも苦手なのよ……

最後の方は言葉になっていなかった。

「リナ、喋るな。舌を噛むぞ」

ルヴィは私の悲鳴なんて聞いてもくれなかった。

最も生き残るためには仕方が無かったけれど……


私は落ちないために必死にルヴィにしがみついていることしか出来なかった。


あっという間に街を抜けると街道をひたすら走った。


しかし、こちらは2人乗りだ。どうしても遅くなるのだ。

追いかけてくる馬の駆け足の音が徐々に大きくなってきた。


「このままでは、追いつかれるか。やむを得まい」

ルヴィは手綱を絞ってホワイトを止めたのだ。

「えっ、何をするの?」

私は必死に聞いていた。もう私は死ぬ寸前だったのだ。でも、絶対にろくなことじゃない。


「逆襲する」

「えっ、いや、ダメだって」

私の静止を無視して、ルヴィは来た道を戻り始めたのだ。


私は必死にしがみついていることしか出来なかった。


ズンッ

ルヴィが剣を一閃すると

「「「ギャーーー」」」

遠くから男たちの悲鳴と落馬音がした。


よく仕組みが判らなかったが、ルヴィが剣を振る度に遠くの敵が斬られていた。

おそらく魔法も加わっているんだろう。


一通りの敵を斬り倒すと休む間もなくルヴィは馬をまた遠くに走らせ始めたのだった。


そして、30分くらい走ったところでルヴィがやっと馬を止めてくれた。私はルヴィに降ろしてもらって地面にへたり込んでいた。


「なんだ。リナは乗馬の訓練をしなかったのか?」

「だって私は王女だったのよ」

「王女でも馬を乗るやつは乗るぞ」

ルヴィは言ってくれるが、

「それは帝国だけでしょ」

「でも、君の母上も帝国出身だったろうが」

「お母様は私には強制しなかったもの」

母も最初は少しは教えてくれようとしたのだが、私があまりにも怖がるために途中で教えるのを投げてくれたのだ。まあそれだけ私が酷かったのだが……


だってお馬さんは背が高くて、また気性も荒かったのだ。


「そうかと言っても馬で逃げるしかないからな」

ルヴィは悪魔のようなことを言ってくれた。


まあ、そうするしか無いのだから仕方がなかった。

でも、頭ではわかっていても体では判っていなかった。


私の目からは涙が漏れ出していた。


「リナ」

慌てた、ルヴィの声が聞こえた。


でも、漏れ出した涙は中々止まらなかったのだ。

後から後から涙が出てくる。


そう言えば昨日から婚約破棄されて皆に裏切られて、挙句の果てに衛士に襲われそうになって、今また暗殺者たちに襲われそうになった。どこに行っても敵だらけだった。挙句の果てに馬に乗って走らされたのだ。

私は泣くのを我慢できなかった。


その泣く私をさっと暖かいものが包んでくれた。


ルヴィが抱きしめてくれたのだ。


「ルヴィ?」

私は声を出したが、顔は上げる事が出来なかった。


「リナ、大変だけど、我慢してくれ。俺は絶対に君を帝国に連れて行くから」

ルヴィはそう、力強く言ってくれると私が泣き止むまでずっとそのまま抱きしめてくれたいたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る